第3話 授業
授業が始まる。
高校とは名ばかりで、やっている事は軍隊のブートキャンプだ。戦い方から地図の見方、武器の扱い方、そして、肝心の零式機甲の使い方。
早朝から叩き起こされ、10キロのランニングから、体操に筋トレ。運動部も真っ青な勢いでやらされる。当然ながら、引きこもりやただの不良にこれらをこなす体力なんてありはしない。だが、初日にそれは起きた。
10キロのランニング中に走りきれなかった者が射殺された。
求められた事が出来ない者は退学処分とする。つまり、不用品は捨てられる。
ここで私たちの命はあって無いに等しい。零式機甲を扱うに相応しい体躯にならねば、早々にこの世から卒業させられるのだ。
環は余裕でこれらをこなし、座学においても何の問題も無くクリアした。
たった3日で13人が消えた。
多くは体力の問題。少数だが、知能と性格的な問題で消えた。
環は同級生を眺める。大抵は元運動部や何かの格闘技をやっていた連中だ。ただの不良ではさすがに基礎が足りない。そもそも知性も性格的にもこのような場所に適さない者ばかりであった。
だが、気になったのは一人、明らかに引きこもりな少女だ。見た限り、運動経験があるとは思えない奴が残っていた。
寮に戻っても、気軽に話を出来るわけじゃないが、環は気になった彼女に話し掛けた。
「あんた、よくついて来ているな」
突然、話し掛けられて、彼女はオドオドしている。明らかにコミュ力が無さそうだ。
「ビビるなよ。いかにもオタクっぽいのにランニングとか筋トレとかよく倒れずにいるなと思って感心しているんだよ」
「そ、そうですか・・・体力には自信があるんです」
「珍しいな。なにか運動でもやっていたのか?」
「はぁ・・・特には・・・」
普通なら嘘だろうと思うだろうが、環自信も別段、運動らしい運動や格闘技の訓練などはしていないので、そういう答えでも不思議では無かった。
「へぇ・・・まぁ、毎日、同じ境遇の奴が殺されるのを見てて、最初は反吐が出る感じだったけど、馴れるってのは怖いもんでね。殺される奴はそんなもんだと感じていたから、あんたは早くそうなるかと思ったら、想像以上に根性があるから、気になった」
「そうですか・・・私はあなたが不思議ですよ。確かに力はありそうですが、難しい座学を問題なく、覚えていくし、不良なのに頭が良いんだと思います」
「褒めてくれるのか?あたしにしては久しぶりの感じだな。まぁ、お互い、どこまで生き残れるか解らないけど、がんばろうや」
「そうですね。ここで殺されなくても、戦場に出れば、半分は運みたいな部分はありますからね」
「言うね。確かに、ここはちゃんとやれていれば、殺されないけど、戦場はちゃんとやっていても殺される。喧嘩とは違って、殺されるンだよな」
「喧嘩は得意なですか?」
「喧嘩しないと、生き残れない人生だったよ」
「変わった人生ですね」
「だろ?どうせ、まともな人生は歩めないと解ってたから、今さら、こうなっても何も怖くないよ。お前はどうなんだ?」
「わたしですか・・・いつ、死んでもいいんですよ。わたしなんて・・・自分で死ねなかっただけの生きる屍ですから」
「見た目どおりだな。気に入った。あたしは環って言うんだ。あんたは?」
「ダメですよ。お互いの事を話たら。まぁ、誰も見てないようですから。私は忍です」
「忍か。お互い、死ぬまでよろしくな」
不釣り合いな二人。
だが、ナゼか、同じ匂いがした。
一通りの座学が終わり、本格的に零式機甲の訓練が始まった。
零式機甲はまさに鎧であった。体にピッタリと張り付くダイバースーツのようなアンダースーツを着て、その上からヘルメット、バストプロテクター、ショルダープロテクター、アームプロテクター、ウェストプロテクター、フットプロテクターとある。
ヘルメットは顔を完全に覆うもので、目を守るためのゴーグルを下ろしている状態ではプロテクターに幾つも搭載されているカメラ映像が合成され、そこに映し出される。そ例外に様々な情報がそこには映し出され、使用者を助ける。
ヘルメットの操作は物理的にはヘルメット頬当たりに操作盤があるが、簡単な操作しか出来ず、殆どは脳波を感知して行われる。
ヘルメットの機能としてはAI搭載型のメインコンピューター以外に通信、索敵用レーダー、各種センサー、呼気循環型の空気供給機能などがある。
バストプロテクターは30ミリ機関砲の弾を防ぐ。背中部分には固形蓄電池型のバッテリーが搭載され、その上に様々なアタッチメントが装着可能となっている。
ウェスト、フット、ショルダープロテクターも同様にアタッチメント機能がある。
アタッチメントに何を装着するかによって、機能強化などが変わってくる。
基本的には肉体強化にはなっているので、重量物を上げたりなどはデフォルトで2倍以上になっている。
環は自分に与えられた零式機甲を眺めて、他人の物も眺めた。
「人によって、微妙に形が違うのは意味があるのか?」
それを聞いた10番教官がニヤリと笑みを浮かべ、答えた。
「良いところに気付いたな。零式は試験段階の物である。今回はお前逹の適正などを鑑みて、機能に差異がある。実際に使わせて見て、今後に活用するためだ」
「相変わらずモルモットか」
「モルモットらしいデータを出せ」
この頃になると多少の減らず口では教官も電撃などの仕打ちをしなくなった。多少の情みたいなのも沸くのだろうと環は感じた。
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