第5話
「おいちいーー! やっぱりチョコレートは最高においっちい!」
大村の不気味な甲高い声が届いてきた。気持ち悪い。意地でも没収し続けたのは自分がチョコレートを食べるためだったのか。
おいちい、おいちい、という声がずっと漏れ出てくる。鼓動が激しい。スマートフォンを取り出して動画を撮る。これで、大村も終わりだ。まだ教師が来るかもしれないのに、生徒のチョコレートは入念に没収する癖になぜこれだけわきが甘いのか。
靴の音がして、身をかがめると担任の吉川先生だった。吉川先生は大村の車をノックした。そうか。大村の奇行を咎めようとしてくれるんだ。
ファミリーカーの後部座席がゆっくりとスライドして開いた。
「吉川先生、遅いですよ」
「すみません、採点が長引いて……」
「今、佐々木玲奈のチョコ食べてたんですけど最高にうまいっすよ。ささ、吉川先生も……」
「いつもありがとうございます」
またゆっくりとスライドドアが閉じていった。二人は仲間だったのか。だから吉川先生は私たちに味方しなかったんだ。二人の顔をはっきり撮影してやろうと白い車に近づこうとしたとき、アスファルトの小石に足を滑らせた音が鳴ってしまった。締まりかけていたドアがそのまま止まり、また開いた。
「おう、佐々木じゃねえか。お前、反省文はどうしたんだ」
大村は耳に指を入れたあと、空気中に弾いてから私を見た。
「まあいいや、どうせ聞いてたんだろ。おい、俺たちはチョコレート大好きなんだ。これからは毎日俺たちにチョコレート作ってくれよ。今のところ、お前のが一番うまかったぞ」
大村は私の腕を掴んだ。腕を振り回そうとするけど大村のありえないほど強い力が私の腕に食い込んで離れない。大村が本気を出せば本当に骨を粉末にできそうだった。車に押し込まれたとき、吉川先生が私を凝視していた。やっぱり口元が歪んでいる。
「吉川先生、反省文書いてる奴ら確認しに行くから、その間、佐々木、見張っといてくださいね」
「了解です」
大村はドアを閉めて、校舎に戻っていった。ドアを開けようとするけど、腕と脚を縛られて身動きが取れない。
「君は、今日から、僕たち専属のパティシエなんだから逃げちゃダメじゃんかー」
脚をばたつかせるが全く意味のない。誰か助けて。鵜飼くん。
チョコ狩りの大村 佐々井 サイジ @sasaisaiji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます