第4話
私は職員室の向かいにある部屋に連行された。中には私と同じように鼻を鳴らし、しきりに目じりに手を当てている女の子たちがカリカリと手を動かしていた。
「ここで反省文書いとけ。俺が来るまでここから出るんじゃねえぞ」
去年もここで欠かされた記憶がよみがえる。チョコレートを渡せなかった生徒たちはここで一二〇〇字以上の反省文を書くまで帰れないのだ。
許せない――
思いきり鼻をすすって涙を拭いた。足音を立てずにドアまで近づいた。大村のいる気配はなさそうだった。部屋を見渡すと、抜け出そうとしている私を何人かが見つめていた。でも誰も何も言わなそうだった。大村の圧力を散々被って、告発する気力も失せているようだった。
大村を見つけても何をするかは自分でもわからない。職員室のドアを開けると大村の姿はなかった。
「大村先生はどこですか?」
「さっき部活動見に行くって言ってたなー、なんか用事か?」
いえ、と言ってすぐに職員室を出て、階段を下りて大村を追った。玄関で靴を履き替えているところだった。右手には大きな白い袋を持っている。あの中に生徒から没収したチョコレートが入っているのだろうか。
大村の跡を木や建物の陰に隠れながらついていった。大村は硬式テニス部の顧問なのに、テニスコートと正反対の教職員用の駐車場に向かって進んでいる。ズルして帰るつもりなのだろうか。それだった弱みを握れることになる。
大村は白いファミリーカーのなぜか後部座席に乗り込んだ。噂では独身のはずだったが違ったのだろうか。その隣の車から窓越しに車内の様子を覗いた。大村は座席に白い袋の中身をバラバラと出していった。どれも可愛くラッピングされた箱だった。大村の口元は歪に曲がっている。
チョコレートだ――
私のチョコレートの箱が大村の黒ずんだ手によってラッピングをびりびりに破かれた。あれは鵜飼くんに開けてほしかったのに。気味の悪さとやるせなさが渦を巻いて吐き気を催してしまった。大村は私の作ったチョコレートをつまんで口に投げ入れた。
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