epi.8 日常
音声通話後にネイハンから送られてきたのであろう座標情報をもとに、私は公園まで急いだ。
公園に向かうまでに色々なことを考えた。私がネキアをもっとよく見ていれば、今回のことは防げた筈だとか、ネイハンがもしも本当にネキアを人質にしていたら私はどうしていただろうかとか。
──ネイハンが何を考えているのか。幾らかは想像・推測できる。最初な
だが、リスクを承知の動きはその外にいる者であれば行うことが出来る。
そしてそれが事実だとして、ネイハン自身の狙い通りなのか、それとも仕組まれたものかはネイハンにもわかっていまい。
──そんな色々な思索も、ネキアの顔を見たら吹き飛んだ。
「先生」
「ネキア!」
ネキアは公園のベンチに座っていた。私はネキアの姿を見るなり駆け寄って、ネキアの体を抱きしめた。
「全く。馬鹿なことを」
私の中にこんなにも溢れてくる感情があったことには正直驚いた。
「ごめんなさい。でも、またあの人に会えたら先生喜ぶと思って。今あそこに……あれ?」
ネキアの指差した方向には誰もいなかった。私が来るまではネキアとネイハンは一緒にいて、音声通話で言った通り、私の姿を確認するなりネイハンは姿を眩ましたのだろう。
「ネキア、二度と勝手な真似はするな」
「わかってます。わかってますよ。だからちょっと離れて。苦しい」
私はネキアを抱き締める腕の力を弱め、ネキアの顔を見た。それからもう一度ネキアを抱き寄せる。
「ネイハンとは何か話したのか」
「色々。またあの人の旅の話も聞いたし、いつも先生と学びで話してるようなことも議論しました。あの人、すごいですね。口は先生に比べたら汚いけど、私の質問にはちゃんと何でも答えてくれるんです。後はこうも言ってました。俺は君みたいなに皆に笑顔でいて欲しくて絵を描いてるんだって」
「そうか。──ネイハンらしい」
結局ネイハンが何を目指しているのか聞けずじまいだったが、親友としてその言葉は信じよう。ネイハンも私と同じ、自分にしかできない、自分がしたいと思ったことを全力でやっているのだと。その証拠に、未だあの連続爆発事故で、自然人も機械人も死者は一名も出ていない。
私はネキアから身体を離し、ネキアの手を握った。暖かい自然人の温もりが、機械人の私のセンサーに届く。それは、ただネキアが生きているということを伝えるだけのものではない。
「あの、先生。こういうのは少し恥ずかしいです」
「勝手に家出した悪童が何を言いますか。家に帰るまで絶対に離れないように。朝食は?」
「あ、食べてないです。話すのに夢中で」
「全く」
家に帰ったら、ネキアにはいつも通りのハムエッグを作って食べさせよう。そしていつものように報道に耳を傾けながら、それについて話したり今日の予定を決めたり。
日々の生活の中、私にしかできないことは数え切れない。ネキアを育て上げることもそうだし、私が牧師として紡ぐ言葉も私にだけ与えられた
──今日もやることは山積みだ。
…… the end.
機械人スジャータ・スミスの思索 宮塚恵一 @miyaduka3rd
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