手招きする交差点

あげあげぱん

第1話 手招きする交差点

 僕たちが住む町には大きな交差点がある。そこでは、つい先日までおじいさんが手招きをしていた。


 おじさんは見える人と、見えない人とが居るらしかった。僕や妹はおじいさんが見え、パパやママはおじいさんが見えなかった。僕たち以外の多くの人も、お爺さんの姿は見えないらしく、彼はもう何年も誰かのために手招きをしていた。


 交差点は通学路にあって、おじいさんが手招きをしているのを見ると、引き寄せられるような気分になったものだ。でも、最近おじいさんは姿を消した。どこかへ行ってしまったのかもしれない。


 その交差点では、最近事故があったらしい。交差点のそばには花が添えられていた。


 今日も、学校へ通うため、僕と妹はその交差点を通る。そして僕は見つけた。交差点の向こう側にお姉さんが居て、彼女は僕たちに手招きをしていた。お爺さんがするのと同じように、その手の動きには見る者をひきつける力があるように思えた。


 妹が僕の服の裾をぎゅっと掴む。妹も、その手招きをする人物に惹きつけられていた。妹は僕に掴まることで、その手招きの誘惑に抵抗しようとしているみたいだった。


 ある日、妹が僕に行った。


「あたし、あの手招きする人が居る場所が怖い。とても怖いの」


 その言葉と表情から、妹が本気でその場所を怖がっていることは分かった。


「それは、あの交差点のことかい?」


 僕の問いに対し、妹は首を振って答える。


「そうじゃないよ。あの場所が怖いの」


 彼女が言うあの場所、というものが僕には分からなかった。もしかしたら妹は妹で、僕には感じられない何かを、感じ取っているのかもしれない。僕がパパやママには見えない存在を見ることができるように。


 ある日、僕は高熱を出して学校を休むことになった。妹が一人で学校に行けるか、それが僕には心配だった。学校へ行くためには、あの手招きする人の居る交差点を通らなければならないから。


 妹は大丈夫だと言った。僕は最終的にはそれを信じた。でも、それは間違いで、僕は妹を失うことになる。


 高熱も冷め、妹の葬儀も終わり、僕は今、件の交差点に居る。


 夜の交差点。その向こうで妹が僕に手招きをしていた。


 交差点に以前観たおじいさんやお姉さんの姿はない。きっと、あの手招きする人たちはこの交差点で亡くなった人たちだ。順番に入れ替わって、今は妹があの場に居る。ということだろう。


 手招きする妹の表情からは、どんな感情を読み取ることもできない。ただ、妹は生前、その場所をとても怖いと言った。だから、僕はそんな場所に妹を置いておくわけにはいかないと思った。一刻も早く彼女をあの場所から救わなければならないと、僕は本気でそう思ってしまったのだ。


 交差点の向こうでは妹が手招きをしている。歩行者用の信号は赤く光っていた。


 僕は、意を決して歩を進めた。そして僕の体は走行する車のライトに照らされた。

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手招きする交差点 あげあげぱん @ageage2023

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