(二)ー6

(二)ー6

 慶応四年四月二十五日。

 板橋宿の刑場で、新選組局長近藤勇は処刑された。ひげを綺麗にあたり髪を整え、京都に行く前から所持していたという亀綾の袷をまとい、泰然自若とした最期であった。享年三十五歳、満年齢で三十三歳と六か月。

 五月十五日、彰義隊の立てこもる上野を官軍が総攻撃し、壊滅させた。彰義隊に加わっていたかつての新選組幹部、しんがりの十番隊隊長を務めた原田左之助はこの戦いで死亡した。

 その半月後の五月三十日、千駄ヶ谷でかつての新選組一番隊隊長・沖田総司が病没する。親とも慕った近藤勇の死を知らされることなく、最後まで近藤の身を案じていたという。両者とも三十に届かぬ身での死であった。

 彰義隊を滅ぼし後顧の憂いを断った官軍は、ようやく全兵力を惜しみなく東北に向けられるようになる。

 幕末の混沌を種として誕生し、周囲を翻弄しつつ自らも翻弄された異形の剣客集団は無数の栄光と悲惨をまき散らした末にここに半壊、しかし生き残りはなおも戦意猛々しく、そしてそれすら小道具の一つとして飲み込んで、動乱は最終局面になだれ込んでいくことになる。


(完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飛ぶが如く 小泉藍 @aikoizumi2022615

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ