第17話 『異世界転生』の真実

「ここで一つ提案なのだが、貴様らに我の創造主殺しに協力して欲しいのだが、どうだろうか?」


 急にまたとんでもないこと言い始めたぞコイツ


「この流れで素直にはい協力しますなんて答えると思うか?」


「……なるほどそれもそうだ。では一つ問わせてもらうが、貴様らはこれから一体どうするつもりだ?」


「どうするって、そりゃ……」


 言いかけて、言葉に詰まる。俺は魔王を倒すためにここまで来たが、今や魔王を倒す意味など無くなってしまったように思える。とはいえ、俺は前世で死んで異世界転生してきたのだから、どこにも帰る場所など無いということになる。


「……私からも一ついいかしら? 私達がさっきまでいた、救おうとしていた世界は

どうなるの?」


「ああ、もはやその世界を滅ぼすことなど無意味となったからな。モンスター共は世界から消滅した。時間はかかるだろうが、これから復興に向けて動き始めて行くだろ

う」

 

となるとやはり、俺達の当初の目的は既に達せられたという事になる。

 

俺は一体、どうすれば……


「……フッ、決めかねているようだな。まあ無理も無い。……では、勇者に女神よ、ここで一つ、この世界の真理に関するある事実を教えてやろう」


 白い仮面を被っている魔王の表情はうかがい知れない。だが、その中性的な声色からはどこか楽し気な雰囲気が感じ取れる。


 対照的に、俺は何故だが嫌な予感がして思わず身震いしていた。それを聞いてしまえば最後、もう後戻りは出来なくなるような、そんな予感がしていた。


「……ある事実?」


「そうだ、貴様は死んで異世界に転生されたと思っているようだが……貴様が先程までいた世界は異世界などでは無い。貴様が生まれ育った星と同じ宇宙に存在する別の星だ」


「…………」


「???」


 怪訝そうな表情を浮かべるアリア。魔王の言っていることの意味が分からないのだろう。

 

 俺はというと……、理解できないのでは無く、理解したく無かった。


 俺は記憶喪失だ。といっても思い出せないのは自分自身に関することで、前世で知ったであろう『知識』は持っている。


 魔王の言っていることが本当なのならば、さっきまで俺がいた世界は地球に似た別の惑星ということになる。俺からすればアリア達は宇宙人ということになるのだろう。そりゃ、宇宙は途方もなく広いのだから地球外生命体の存在する確率はゼロではないのは確かだと思う。とはいえ、それをそんなにもあっさり告げられても、とても理解が追い付かない。



 呆然とする俺をよそに、魔王は話を続ける。


「それともう一つ、取り逃がした創造主の居場所だが、十中八九貴様の生まれた星だ。我はこれからその星を目指すことになる」


「……えーっと、つまりあなたは私たちにその旅路に同行してほしいってこと?」


 大まかにはそういうことだ、と答える魔王。と同時に、俺にはある疑問が浮かび上

がった。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺って前世、というか地球で一度死んだんだよな? なのに地球に戻ることができるってことなのか? 一体どういうことなんだ?!」


 半ばパニックになりながら魔王に問うた。


「ああ、それについては子細な説明は省くが、生物が死ぬということはつまり、肉体から魂が解き放たれるということ。魂のみになった存在は『光の理』を超えて別の星で新たな肉体を得て生まれることになる。創造主はその仕組みを利用・改ざんすることで『異世界転生』とし、数多の物語という名の茶番を創り出してきたのだ」


 いよいよ頭が痛くなってきた。記憶は失っているのだから死んだことには変わりないように思える。だが魔王に協力すれば地球に帰ることができるということなのだろうか。


「さて、どうする? 勇者に女神よ。我に協力すれば勇者を故郷の星に帰すこともできよう」


「……俺は前世での記憶を失っている。地球に戻れば記憶も元に戻るのか?」


「フム……、それについては不確定要素が多いので何とも言えんな。五分五分といったところか。望むのなら、貴様が記憶を取り戻すのを手伝ってやっても良い」


「断ったら?」


「そうすれば、この星で自由に生きて生涯を全うするがよい。そうなれば当然、故郷に帰ることは不可能となるが」


「……」


 魔王の提案を良く思案してみる。正直、地球に帰れると言われても記憶が無いのだから、この星で暮らしていくのとそう大差は無いような気もする。地球ほど科学技術は発展していなさそうだが、その代わりに魔法が存在する星。そこでアリアと一緒に暮らしていくというのも存外悪くなさそうだ。


 それに、仮に生前の記憶が戻ったとしたら、これまでと同じようにアリアに接していけるのか、少し不安を感じる。記憶が戻ればそれまで記憶を無くしていた自分とは別人になってしまうような、そんな予感がした。


 そう、アリアだ。俺の中では魔王の提案を断る方に傾きかけていたが、彼女はどう考えているのだろうか。正直、さっきから話のスケールが大きすぎていまいちピンときていない。俺はアリアと一緒に居られれさえすればそれで良いのに。


 俺は判断をアリアに任せようと思い。彼女に問いかけた。


「……なぁ、アリアはどうしたい?」


「……秋冬の故郷が地球っていう星なのは確かなのよね?」


「ああ、間違いない」


 魔王が答えた。


「なら私は、秋冬を故郷へ送り届けたい。」


「アリア……、どうして……」


「だって、秋冬にもきっと家族や友達がいたはずよ。そして秋冬が死んでしまってとても悲しんでいるに違いない。秋冬がこんな事に巻き込まれてしまったのには私にも責任がある。だから……」


「いや、君がそんな負い目を感じる必要はない。俺は君と出会うことができて本当に良かったと思ってるよ」


「秋冬……ありがとう」


 魔王の眼前だというのに思わず見つめ合ってしまう俺とアリア。もっとも、魔王は気まずさなど全く感じてはいなさ気だったが。


「でも、秋冬に故郷へ帰って欲しいというのは強く思う。それに、秋冬がどんなところで育ったのかも少し気になるしね」


「アリア……君がそこまで言うなら、分かったよ」


「……話はまとまったか?」


「ああ。俺達はお前に協力する」


「感謝しよう。勇者に女神よ」


 はっきり言って魔王の言っていることは今でも良く理解できないし信用もできない。それでも俺は、アリアの願いを叶えるために、彼女と共に歩んでいこうと決めた。


「で、早速だがこれからどうするんだ?」


「今すぐにでも創造主を追いかけに行きたいところだが、我ら3人では少々戦力に心もとない。そこで後2人、我らのパーティに加わってもらおうと思う」


「まず仲間を増やそうってことか。でもどうやって、誰を仲間にするんだ?」


「安心しろ、先程まで居た星で既に見繕ってある。後ついでに言っておくが、誰でもいいという訳では無い。創造主に対抗するには『愛』と『揺らぎ』を持つ者が必要な

のだ」


「ふーん、愛と揺らぎね。俺とアリアにはそれがあったってことか」


「そういうことだ。さて、無駄話はこのくらいにして、今から彼らをこの空間に呼び出す。もちろん仲間になってもらえるかは彼ら次第だが……、説得にも協力してもらえると助かる」


 言い終わると魔王は両手を天に掲げ、何か呪文のようなものを呟き始めた。すると、魔王の頭上から魔法陣のようなものが浮かび上がり、そこから複数の人影が、魔法と思われる爆発と衝撃を伴って出現した。

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シンギュラリティ・シンドローム 紅瀬 朔実 @kurese_sakumi

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