untitled
@rabbit090
第1話
正しさなんて、分からない。
少しずつずれていく、私は、そのままでいいのだと信じ込んでいた。
中学の、夏休みだったのだ。
私が彼を知ったのは、その時。
でも、彼は言った。
「そんなことして何の意味あんの?」
「…悪い?」
「だって、薄気味悪いだろ。やめろよ。」
と、言いたい放題だった。
私は、なぜか人の間にうまくなじめない自分を知っていて、だからこそその分のエネルギーを別の所に使う、という方法を覚えていた。
その時は、ダンスが好きだったから、自分で考案したダンスをとことん、突き詰めていた。
といっても、学校、家のこと、そして、体力のない自分っていう感じだったから、部活で励んでいる皆のようには、どうしてもなれなかった。
私は、帰宅してからの少しの時間を、気を紛らわせるための創作に、当てていた。
「お母さん、あのさ。」
「うん?」
「さっきね、クラスの男の子に、嫌なこと言われたの。」
「そう、嫌ね。」
「うん、そうなの。」
てそんな感じで、私は自分のことを絶対に捨てることは無いのだと思い込んでいたお母さんに、全てを話していた。
そうすることで、人間としての安心感を得ていたのだと思う。
が、母は私が中学を卒業する前に死んでしまった。
病気だった。
当たり前のようにいた存在が、ある日目の前から消えてしまった。
そして、その頃から私は、自分の周りの現実感が薄くなっていく様を、理解していた。
「
「ああ、結婚するのよね。」
「何だよそれ、他人行儀過ぎるだろ。」
「だって、私あなたのこと、好きじゃないから。」
「俺だってそうだよ、お前みたいな変な奴、論外だ。」
その時、私と彼はもう大人だった。
あんなに嫌な関係だったのに、この度結婚することを決意した。
お互い、好き、等ではない。
でも一人ではいられなかった。
彼が、かつて嫌な形とはいえ私に関心を抱いていたのは、似通った部分があったからなのかもしれない。彼は社会によくなじめていたけれど、でもどこか、ずれていて私は、それを知っていた。
「結婚式挙げないって、マジ?職場で気味悪がられるんだけど。」
私は、一応対面を気にするであろう彼のために、そう声をかけた。
けど、
「分かってるだろ、お互い。家族なんていていないようなもんなんだから。」
そうだ、そんなの知ってる。でも確認せずにはいられない。私には、正真正銘家族と呼べる存在はいないけれど、彼には曲がりなりにも、ちゃんとそういう存在がいる。
だから、私は何度でも確認したかったのだ。
「でも、ギリギリでもいいから、言えばそうするから。」
と、私も折れない。
私と彼の関係はそんなものだった。
すごく、ギリギリのバランスで成り立っているのに、壊れない。
その安心感が、私達を、結束させている。
絶望に似た不安が、頭の中をよぎる。
今日は、
彼と結婚したことを、一応知人に向けてアピールする、という名目上結婚式のようなものを挙げることにした日だ。
「結婚式じゃないけど、このくらいはね。」
「…まあな。」
不服そうだけど、でも嬉しそうだった。
私はじゃあよかったのかな、なんて思いながら、部屋を出た。
相変わらず、現実感は戻らない。
私は、喜びも悲しみも、どこか遠いところに捨て去ってきたようだった。
きっと、戻れないことが分かり切っているから、また少しだけ、涙が落ちた。
untitled @rabbit090
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