レインボーピクチャー

凪村師文 

わたしの「にじいろ」

 看護師さんに一通の手紙を渡された。こんな時に誰からだろうか。そもそもわたしには手紙をもらうような仲のいい人なんていないのに。

 封筒の表面に、送り手の名前は書いていなかった。封筒を裏返してみても名前は書いていない。花の切手が貼ってあるだけ。ちょっと不思議な手紙だった。力の入らない手でわたしは封を開けてみた。覗けば、一枚の写真が入っていた。恐る恐る写真を取り出す。切手と同じ花の写真だった。白色と黒色の写真。わたしは写真を一瞥して、封筒に戻そうとした。しかしその刹那、視界の端が「色」で覆われた。わたしは信じられなくて瞬きをする。瞬きから目を開くとさらに、「色」はわたしの暗いセカイを蹂躙するかのように、瞬く間にセカイをカラフルに埋め尽くした。写真の花はカラフルな花であった。写真を裏返すと、筆記体の英語で「RAINBOW ROSE」と書かれている。何年ぶりだろうか、「色」を見るのは。綺麗でかわいくて、幻想的で。気持ちが少し緩めばわたしの心を奪って遠くへ持っていってしまいそうで。そのくらいわたしは「色」を見たのが感動的であった。この手紙の送り主は誰だろう。手紙と写真を使って、わたしを一瞬だけでも遠い美しいセカイへ連れて行ってくれた人。

 

 「奇跡」を起こしてくれた写真をわたしは抱きしめた。


 



 次の日、その次の日、その次の次の日。目覚めても、わたしの目は白も黒でさえも映すことは無かった。

 セカイから消える前の最後のその一瞬、わたしは本当の幸せを嚙み締めた気がした。


 

 


 窓の外からあたたかな風が病室に吹き付ける。空になった病室に、その写真は飾られていた。しばらくしないうちに遠くへ行ってしまう彼女に、偶然的に、かつ必然的に「奇跡」を起こしたその写真は、静かにそこに飾られていた。

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レインボーピクチャー 凪村師文  @Naotaro_1024

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