午前二時、このまま闇に溶け込みたい

白桃

第1話 配信者の闇


主人公:「うらら」 女性インターネット配信者


記号説明

「」:実際に登場人物がしゃべった内容

『』:インターネット上での書き込み、コメントなど

.。o○:場面変化



-------------------------------------------------------------------------------------


「ねーみんな、私といえば何が思い浮かぶか教えてー!」



『かわいい』

『ピュアでリスナー思い』

『顔がいい』

『今世紀最後の純粋少女』

『かわいさだけでできている私の宇宙一の推し』

『大好き』

『恋愛歴ゼロ』

『いちごが好き』

『家族大好き』

……



画面によどみなく流れるコメントを見て実感する。

私はみんなの理想の上に生きていると。


「ふむふむ、、ねーみんな褒めすぎだよ!!でも思い当たる節があるものは結構あるかも」



なんてね。

本当の私を言い当てるようなものなんて一つもなかったよ。



配信後に毎回ふと我に返る。


私ってもともとどんな人間だったっけ。


.。o○.。o○


「いつもニコニコうららです♡」

「2002年、2月14日生まれで、バレンタインに生まれた子って覚えてね笑」

「出身は千葉で、今は通信制の大学で勉強してるよ」

「好きな食べ物は苺で、趣味はお菓子作りでーす」

「家族はママ、パパ、お姉ちゃんとトイプーのココアたんだよ。私が言うのもあれだけど超仲良くてほんとに大好きなの!」

「目と涙袋が大きいのは生まれつきだからチャームポイントかなぁ」

「自己肯定感はめっちゃ高い!ご飯食べているだけでも偉いと思って生きてる!!」

「ごめんなさい正直本当に恋愛感情理解できないから恋愛相談においては役立たずです、、」

「本当にリスナーのみんな大好き、愛してる!」



私が過去に自分について言ってきた言葉に真実なんて一ミリも混じっていない。

私が6年間必死で作り上げてきた「うらら」像と真の自分の姿との共通点の無さにぞっとしてしまう。



気味の悪さに耐えきれず、今日も朝から睡眠薬を飲む。


.。o○.。o○


「今日もみんなお疲れ様!また会おうね、ばいばーい!」


…..22時、配信終了ボタンを押す。


「……っふぅーーー。」

大きく息を吸い込んでゆっくりと吐き出す。


落ち着く暇もなくすぐにSNSを更新する。

『次の配信は水曜日だよ、絶対見にきてね💛』


そして最後にマネージャーと配信の反省会を電話でする。


「今回は全体的に塩対応だったよね?リアコも増えてきてるし、次回はもう少し思わせぶりなこと言ってみようか。」

「……そうですね。セリフ考えておきます。」


次の配信のスケジュールを確認し、やっと私の仕事が終わる。





週に3回行う生配信は私の活動の原点であり、ファンと交流できる重要な機会だ。

嘘で塗り固めた自分を約2時間演じ切るのは大変だけど、私の人気を支えてきたのは生配信のおかげと言っても過言ではないから、やめるなんて到底考えられない。


配信をしている最中は、私の表向きのキャラクターである、純粋でかわいいうららちゃんを演じきる。


けれど、生まれつき「うららちゃん」なわけない。




本名、佐藤舞。双子の姉。


私よりも顔もよくて勉強も運動もできた妹に親の愛情はすべて向けられ、生まれた時点で人生ハンデ持ち。


家族、親戚、学校など出会った世間全てで私はうまく生きられなかった。

ありのままの自分を受け入れてくれる場所なんてなかった。


気づいたら死にたいと思うようになっていた。でも死ぬときのあの一瞬の苦しみ、本能的不安に耐えられなくてどうしても死ねない臆病者だった。


だから、どうにかして生きやすくするために、脳死でバイトして貯めたお金で整形をした。



見た目が変わったら、この世界でほんの少しうまく息が吸えるようになった気がした。


今まで生きやすさなんて一ミリも感じなかった人生だったから、ほんのちょっと人からの扱いがよくなっただけなのに、有名になって世間を見返してやろうなんて調子に乗ってネットの生配信活動を始めた。



本当の自分を表して受け入れられなかったら怖かったから、配信中は自分の見た目に合うような偽物の自分「うららちゃん」を演じた。


初めこそリスナーが2桁代の弱小配信者だったけど、徹底的にキャラになりきることで段々と固定のファンがつくようになっていった。


だれからも愛されない、受け入れられない、見てもらえない、そんなすべてに飢えていた人生だったから、リスナーからの応援コメントが嬉しくてうれしくてたまらなかった。


配信をしていくにつれアンチが増えたり、演じ続けるストレスで鬱が悪化して配信活動にドクターストップがかかったりした。


でも、それ以上に自分を好きでいてくれるリスナーの声を求めて配信をやめなかった。


愛と承認に執着し続けた日々。



活動を始めてから3年後、たまたま私の配信がTwitterのフォロワーが多い視聴者の目に留まり、私の配信が拡散され、一気に有名になった。


そこから事務所にも所属して活動を本格的に始めた。



あの奇跡の日から3年がたった今。

インターネットの影響力が強いこの時代で、まだ老けてなくて、過去の暴露も何もないからこうして生き残っていけているけど、いつ私がみんなから見捨てられるか分からない。


『〇ね』

『ブス』

『お前が一番嫌い』

『うざすぎて吐きそう』

『はやく消えろカス配信者』

『純粋ぶってんじゃねえよクソビッチ』


こんなDMが毎日のように届いても、


もしかしたら明日、晒し系youtuber に過去の恥まみれの人生を暴露されるかもしれない。

もしかしたら明日、私とキャラ被りの配信者の配信がバズって私の視聴者がどんどん取られるかもしれない。

もしかしたら明日、掲示板に書かれた殺害予告が本当になるかもしれない。

もしかしたら明日、

もしかしたら明日、

もしかしたら明日、


こんな不安をずっとずっと抱えていても、


『いつも配信してくれてありがとう』

『かわいすぎる、憧れです』

『うららちゃんを推すことが私の生きがい』

『うらちゃんが世界一好きです』

『うららちゃん大好きだよ!』

『うららちゃん愛してる』


その一言を求めて


私は「うらら」を演じ続ける。


苦しくて死にたい、毎日ずっとそう思い続けてきた。

配信を始めてからその希死念慮は確実に強まった。

自ら望んで始めたことなのにそれが自分を苦しめてるなんて笑っちゃうよね。

普通の人なら多分耐えきれないんだろうなぁ。


でもね、やめられないんだ、中毒なんだ


最低の自己肯定感と嘘と承認欲求にまみれた自分を自嘲しながら、今日も少し多めに睡眠薬を飲む。


ODしたいとてつもない欲求に駆られるけど、それで死んだらみんなの愛の声が聞けなくなっちゃうでしょ?


ねえ、みんな、


「大好き」、「宇宙一好きだよ」って言ってくれているみんな、


こんな歪んだ私でも愛してくれる?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

午前二時、このまま闇に溶け込みたい 白桃 @hakutochan_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ