第16話 ダンジョン
シルバーは自らが七大部族の間で、噂になっていることなど露知らず、修練に明け暮れていた。
今日は鬼舎から離れた場所に来ていた。今から3ヶ月前、鬼舎に入ってから6ヶ月目に俺たちが学ぶことは全て終わった。この世界のこと、世界の情勢、鬼人族の置かれている状況、四大列強のことなど多くを学ばせてくれた午前中の授業は、6ヶ月を以て全ての課程を終えた。
それに伴い、修練に費やせる時間は長くなり、レベル上げのための経験値獲得は加速していった。
鬼舎に入って最初の6ヶ月の修練は、無作為に決められた日替わりのパーティーで、鬼舎の近くの裏山で魔物を倒した。そのおかげで皆の役割を把握できた。
その後3ヶ月間は教官同伴の下、数日間に渡る遠征を行った。魔物をただ倒すのではなく、野営の仕方や接敵したらどうするかなど、これまで午前中に学んだことを実践で教え込まれた。
そして、10ヶ月目に突入した現在は、教官のサポートなしで、俺たち14人だけで遠征を行なっている。実際の戦争に向けた実践トレーニングである。
この世界の戦争は少数の班で、任務に取り掛かる場合がほとんどである。これはこの世界が量より質を重要視するからだ。いくら千の軍勢が攻めてきたとしても、最強の個には敵わない可能性がこの世界ではあり得る。それに、数が多いと身動きが取りづらくなってしまう。
教官からこの部隊の隊長に任命された時、個人で身動きを取りやすいように、移動の仕方を決めた。
14人で移動する時、索敵網を広げるため、いくつかの班に分かれて行動する。その際、各班ごとに均等な距離を空け、何かあれば伝令役が中央の舞台に連絡し、それを各班にまた伝える。指揮系統を明確にしているのだ。
これも全て前世のアニメや漫画から得た戦法だが。
14人を四つの小隊に分け、Y字の形で移動している。
アルファ小隊(前方左翼):カデル、ユキミヤ、ミユナ
ブラボー小隊(前方右翼):阿弥陀丸、キリエ、ウズラ
チャーリー小隊 (中央) :シルバー、アンドレ、ハーミット、次郎坊
デルタ小隊 (後方) :ヒルガオ、トゥーラ、カンナ、メイズイ
アルファ小隊の伝達役のミユナが中央まで下がってきた。どうやら前方に大型の魔物を確認したようだ。伝達された情報をもとに各小隊に俺が指示を飛ばす。
「ブラボーとデルタは周囲を警戒しろ。チャーリーがアルファに合流し次第、速やかに魔物を討伐する。ミユナはそのままアルファに、アンドレはブラボーに、ハーミットはデルタに伝達しろ。」
「「「了解。」」」
カデルらアルファ小隊と合流すると、そこにはライオンの頭・ヤギの胴・ヘビの尾を持った魔物、キメラがいた。遠征するまで鬼舎の近くでは出現しない魔物であったため、3か月前に遠征が始まるまで見たことがなかった。遠征でも1度しか戦ったことがないため、情報は少なかった。
「次郎坊と俺が正面から引き付ける。その間にカデルとミユナが後方から攻撃、アンドレは遊撃に回れ、ハーミットとユキミヤは魔法を撃つ準備をしろ!」
試験が終わってから、大剣から片手剣と盾に武器を変えた次郎坊がキメラの足での踏み付け攻撃を受け止め、俺が攻撃する隙を作る。俺は”アカウント作成”のおかげで、他の鬼と比べてスキルランクが圧倒的に高い。俺が全力で攻撃すると他の鬼の実戦経験にならないため、手加減してキメラの腹に蹴りを入れる。
「崩れた。」
「ユキミヤ、ハーミット魔法を放て!シルバーなら大丈夫だ。お前たちの魔法ではびくともしないだろうからな。」
キメラのヤギ足を受け止めた次郎坊が俺に変わって、指示を飛ばす。
「舐められたもんだねぇ。雷魔法・サンダーボルト」
「そのくらい存じていますとも。火魔法・フレイムジャベリン」
ユキミヤが雷魔法を、ハーミットが火魔法をそれぞれ放つ。ユキミヤは氷鬼、八朔日家傘下の一族の鬼で雷魔法の使い手である。彼女は姉御的な存在として、厚い信頼を得ている。
キメラに二鬼の魔法が直撃し、叫ぶキメラ。休む暇など与えず、カデルとミユナが畳みかける。剣を得意とする二鬼がキメラの尻尾目掛けて、剣をふるう。するときれいな断面図を残して、蛇の尻尾はその重さから大きな音を立てて地面に墜落した。
「ちっ、容赦なく魔法を撃ちやがって。」
魔法の直撃と尻尾の落下による砂煙が晴れる前に、シルバーが次郎坊の近くに戻ってきた。
「やれアンドレ!」
アンドレは爆風を用いてキメラの真上に高速で移動する。
「よっしゃー!爆発魔法・エクスプロージョンブラストー!」
爆音とともに、キメラを跡形もなく葬り去ろうと魔法を放ったアンドレ。辺り一面は焦土と化した。
「こらっアンドレ何やってるのよ。私も真っ黒になっちゃうでしょ。」
珍しくアンドレの所業に口を挟むミユナであったが、指摘するべきはお前が真っ黒くなるとかではない。
「アンドレ、最小限で敵を倒せ。威力を出しすぎだ。」
「でも、火力が高い方がかっこいいだろ。」
「違う、かっこ良い悪いの話をしているのではない。お前の魔法は派手だ。だから、威力を上げると周りがお前の存在に気づいてしまう。周りの仲間も危険に晒すことになるんだ。」
幼い子どもを躾けるように、アンドレに注意を促す。
「わかった。威力を抑えればいいんだな。」
多分わかっていない。俺の魔法は威力が高すぎるから、抑えないといけないんだ、とでも思っているのだろう。抑えてくれるならなんでもいい。
「シルバー、ちょっと来て。」
試験の時、次男坊とメイズイにやられていたナーガであるカンナに呼ばれた所に行くと、そこには入り口があった。アンドレの爆発魔法の衝撃で地面が抉れ、入り口が現れたのだろう。
入り口から見える限りではずっと暗い道が続いている。とりあえず、安全な場所から中を確認したい。
突然現れた地下へと続く入り口、魔力が充満している。それに魔物の気配がする。俺の憶測が正しければこの入り口はダンジョンの入り口だ。
「少し中を見てくる。カデル、アンドレ、ヒルガオ、次郎坊は俺についてこい。残りはここで外を見張っていろ。」
5人の足音が暗闇の中に響きわたる。
入り口の塀を抜けるとそこはダンジョンであった。
外から見た中と、中から見た中は180度というよりベクトルそのものが違った。外から見たら、ただの洞窟であるのにもかかわらず、中に入ると地価迷宮のような広大な石造りの建造物が無数に広がっていた。
「次郎坊、念のため入り口の確認を頼む。」
中と外とでは景色が違いすぎて本当に、あの入り口から入ってきたのかそう思うほどのスケールの違いであった。
「シルバー、入り口がないぞ!」
次郎坊のドスの効いた声がダンジョンにこだまする。
「ちょっとどういうことよ。」
焦ったヒルガオが次郎坊を疑って再度確認するが、やはり入り口がなくなっている。
「ダンジョンは多種多様なつくりになっていると、教官は言っていた。そういう仕組みと考えるしかないだろう。だが、ダンジョンは一様にボスを倒しクリアすれば、入り口に帰れる仕組みとなっている。」
疑問に思った居残り組が中に入ってこないように、ラスを介して連絡を試みる。
ラス、ラス!ラスと連絡が取れない。居残り組には、ユキミヤや阿弥陀丸がいる。よっぽどのことがない限り、ダンジョンに入ってくることなどないと思うが、早急にこのダンジョンから出るべきだろう。
「みんな聞いてくれ、ラスと連絡も取れない。居残り組がダンジョンに入ってきてしまう可能性もあるため、早急にここから脱出する。つまり、ダンジョンをクリアする。」
「そういうと思ったぜ。」
何も考えていない脳天気なアンドレが羨ましい。
「何言ってんのよ!」
ヒルガオがアンドレを蹴っ飛ばす。ヒルガオはその華麗な戦闘スタイルとは裏腹に、気の強い性格をしている。
「あまり大きな声を出すな、二人とも。」
先ほどは取り乱した次郎坊は、いつもの平静を取り戻している。やはり次郎坊は頼りになる俺らの兄貴分だ。
「シルバー、作戦を頼む。」
試験から最も成長したのはカデルだと思う。突出した剣術の際にも磨きがかかり、あどけなさがなくなった。歴戦の戦士のような風格になった。試験でどのような心境の変化があったのかはわからないが、今は頼りになる。
「カデル、ヒルガオ前衛を頼む。次郎坊とアンドレは後衛を頼む。俺は中衛から指示を出す。ここは何が起こるかわからないダンジョンだ。作戦という作戦はない。手探りで進むしかない。回り道はせずボスを倒すことだけに集中する。いいな。」
「「「「了解!」」」」
「カデルちょっといいか。」
「どうした。」
「”経験値取得率上昇”を使え。嫌な予感がする。」
俺たちは周りの鬼のレベルの上昇に合わせるため、鬼舎に入ってから”経験値取得率上昇”を封じていた。だが、緊急時のためにスキルランクは上げているため、俺もカデルもスキルを持たない人に比べて、2倍くらい多く経験値を獲得できるだろう。
「わかった。」
最低限の言葉だけ交わして配置につく。
俺たちの初めてのダンジョン攻略が始まった。
ユニークスキル【アカウント作成】で幾多の種族で最強になる @TanukiGaMaskyurar
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