第15話 七大部族長会議

 ーー鬼城ーー


 ここは鬼人の頭である鬼頭が普段生活している場所で、鬼人の里の象徴とも言える場所である。もし戦争が起きたら、敵は全力で鬼城を落としに掛かるだろう。


 この場所で、鬼頭と七大部族の会議が行われようとしていた。


豚鬼オーク “ よろい ”の東海林しょうじけ家  東海林酢那しょうじすうだ

吸血鬼きゅうけつき“ 血 ”の頬白ほおじろけ家   頬白凛月ほおじろりんげつ

牛鬼ぎゅうき “突進とっしん”の幅野小路はばのこうじけ家 幅野小路伊達昌はばのこうじだてまさ

剛鬼ごうき “豪拳ごうけん”の天天丸家てんてんまるけ  天天丸櫛丸てんてんまるくしまる

鬼火おにび “人魂ひとだま”の鬼灯家ほおずき   鬼灯三叉ほおずきさんさ

氷鬼こおりおに “零下れいか”の八朔日家ほずみけ  八朔日黒雪ほずみくろゆき

登鬼とうき “鬼面きめん”の勘解由家かでのけ  勘解由風水かでのふうすい


 そして、鬼頭 九十九家つくもけ 九十九叢雲つくもむらくも

 以上の8人が一堂に会し、議題について話し合う、それが七大部族長会議である。


 「七大部族長会議を始める」

 宰相として君臨する吸血鬼、頬白凛月である。吸血鬼は長寿な種族であるため、鬼の里が生まれた時から鬼頭を支えている。


 「それではまず初めに現在の状況の確認お願いしたい。風水頼む。」

 そう言われて立ち上がったのは、登鬼、勘解由風水である。


 「森人族が100人の兵を甲人族に送った。近頃戦争が始まるという兆候だと我々は見ている。」


 「森人族と敵対しているのは、我々鬼人族と同盟関係にある人族。甲人族は鬼人族に攻めてくるものと思われる。」

 氷鬼、八朔日黒雪はその美貌を武器に、他国と外交を行なっている。


 「周辺諸国はどうなっておる。」

 そう口を開いたのは、剛鬼、天天丸櫛丸。


 「どこを最初に潰せばいい。」

 後に続くのは牛鬼、幅野小路伊達昌。両家はどちらも戦争の火蓋を切る役割を担っている。先遣隊として両家が送られ、戦争開始早々大きな打撃を敵国に与えるのが、彼らの役割である。


 「そう早まるな、牛鬼よ。」

 敵国に攻め入る両家と仲が悪いのは、自国の防衛を任されている豚鬼、東海林酢那。


 「なに、家でお利口さんにしているしか脳の無い豚どもがなにを言うか。」


 「静粛に!」

 進行役である頬白凛月が言い合いを止め、会は進む。


 「周辺諸国の動きは、獣人族と同盟国である鳥人族が、甲人族に交渉を持ちかけている。近いうちに両国は同盟を組むと思われる。」

 淡々と無気力に言葉を繋ぐ、勘解由風水。七大部族長の中で最年少の彼は、情報収集から戦闘まで優秀で逸材なのだが、めんどくさがりやな性格で本当に必要だと思ったことしか、口に出さず実行もしない。


 「不死人族と蜥蜴人族に動きはない。静観する構えだ。」

 八朔日白雪は立ち上がり、先ほど騒いでいた牛鬼と剛鬼を一瞥した後、質問に答えた。


 「軍の増強はどうじゃ?」

 数百年の歴史を持つ鬼人族の中で、歴代最強の鬼頭と呼ばれる九十九叢雲。叢雲が一度口を開くと、七大部族長たちは一応に押し黙る。


 「甲人族と森人族は問題ない。だが、鳥人族が出てくると話は変わってくる。空中で戦える鬼は少ない。」

 七大部族最強と名高い、鬼火、鬼灯三叉は鬼頭に気後れせず簡潔に答える。


 「人族に応援を頼みますか、鬼頭。」

 八朔日白雪は鬼頭に問う。


 「いざとなれば、わしが出ればよかろう。」


 「ですが、鬼頭あなたはここで皆の指揮をとっていただかなければ困ります。」


 「羽虫程度、戦場に出ても5分とかからず殲滅できるわい。」

 九十九叢雲はただ暴れたいだけだ。族長たちも理解している、それが最も正確で効率の良いことであると。そのため強く反発はできず、従うしかなかった。


 コンコンッ

 会議室にノックの音が鳴り響く。


 「入れ。」


 「失礼します。」

 そこに現れたのはシルバーたちの指導を預かる和熊であった。


 「会議中だぞ、無礼者め!」

 しきたりに厳しい東海林酢那が口を出す。


 「よい、わしが呼んだ。鬼舎の新米たちはどうじゃ。」

 叢雲は酢那を見ることなく、和熊に発言を促す。


 「私の知る限り、歴代最高の強さです。」

 歴代最高豊作と言われたのは鬼灯三叉、八朔日白雪の代である。そして、鬼灯三叉は現七大部族の中で最強である。その代よりも強いことに唖然とする一同。


 ここにいる七大部族家や傘下の一族が鬼舎のほとんどを占めるが、それほどの逸材を輩出した覚えはない。確かに、今年の代は優秀ではあったが、鬼才、鬼灯三叉を超える才には心当たりがあるはずもなかった。それほど鬼灯三叉は幼い時から圧倒的だった。それが、ここにいる皆の総意であった。


 しかし、鬼舎を担当しているのは賢鬼・九十九和熊。九十九家の重鎮であり、その強さは七大部族長に匹敵する。そんな彼を疑う者はいなかった。


 「歴代最高というのはそういうものじゃ。しかし、こんなに早く現れるとはな。なあ三叉よ。」

 皆が驚愕している中、口火を切ったのは叢雲であった。


 「ああ、そうだな。この戦時下でありがたいことだ。」

 三叉は淡々と述べた。


 「して、和熊よ。状況を説明せよ。」


 「はっ。私の知る限り鬼舎最高の鬼が今年の代におります。そやつはシルバーと言います。名はありません。小鬼から試験に参加し、仲間を引き連れ合格しました。その後、中鬼の変異種へと進化を果たしました。そして、シルバーは無属性魔法を使います。」


 小鬼が試験に合格した事例は少ない。しかし、その快挙を果たした鬼は例外なく、数々の実績を残し名を上げている。さらに、驚いたことは無属性魔法の使い手であるということである。無属性魔法は使い手が最も少ない魔法として知られ、未だその全貌が明らかになっていない魔法である。


 「それ以上はわかりません。」


 「お前がそれほど言うのは珍しい。わしが実際に見てみるのもよいだろう。下がっていいぞ。」


 「失礼します。」

 七大部族長たちはいかにして、自らの家に迎え入れるか考えていた。


 「3ヶ月後には、武闘祭が控えておる。それまで、各自いくさの準備に専念するよう、努ヶ忘れるな。まあ、戦が始まれば武闘祭は中止になるがな。」


 部族長の顔つきが変わる。皆一様に戦いに胸を高鳴らせていた。


 「議題は以上じゃ。」

 吸血鬼、頬白凛月の声が会議の終わりを告げた。


 「さて今年は楽しみじゃのう。」

 鬼頭はひっそりとほほ笑んだ。

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