19日目②

 俺が迷っている間も時間は一向に待ってくれない。もうそろそろ高校を出ないと朱里ちゃんたちの手伝いに間に合わないという時間になっているにも関わらず、俺は決断することができなかった。


 結衣ちゃんは俺と一緒に料理したいって言ってくれた。結衣ちゃんの真っ直ぐな気持ちは嬉しいし、怪我をしちゃうんじゃないかって少し心配。


 日向ちゃんは俺には来ないでほしいって言った。それが悪い意味じゃないことは分かってるし、自分たちの力で成長したいって意思も応援したい。


 朱里ちゃんは何も言わなかった。元々わがままを言わない子だし、俺なんかよりよっぽど料理も上手くなってる気がする。だから朱里ちゃんさえいれば俺なんていてもいなくてもどっちでもいい気もする。


 「…よし、決めた!」


 俺は……


 〜三人称〜

 朝、舜が去った後の家の中はどこか重苦しい雰囲気が漂っていた。


 「…うち、また余計なこと言っちゃった」

 「大丈夫だよ!お兄ちゃんも分かってくれたもん。それにユイもわがまま言ってごめんなさい」


 ぽつりと溢した日向ちゃんを大丈夫だと励ましたのは結衣ちゃんだった。


 「…勝手なこと言わないで。お兄、悲しんでた。ずっとよくしてくれてたお兄を、うちは…」

 「…もう!日向お姉ちゃんは気にしすぎだよ!確かにすれ違いがあったのかもしれないけど、ちゃんと仲直りしたじゃん!!…ユイは、いつまでもこの空気はヤッ!!」

 「そうだよ。舜さんならこんなことで怒ったりしないよ」

 「……そっか」


 日向ちゃんは小さく呟いた。それを聞いた結衣ちゃんと朱里ちゃんは嬉しそうにして言葉を投げかけようとしたけど、それより早く日向ちゃんが更に言った。


 「…嫌われるのはうちだけ、だもんね」


 その声はやけに大きく響いた。完全に空気が凍りついて時間さえ止まってしまったかのようだった。


 「…っと、学校行かないとね。ほら、結衣もお姉も準備して」

 「…う、うん」

 「…わかった」


 気がついたらいつの間にか家を出る時間が迫ってきていた。3人は何とか遅れないように準備して登校したけど、彼女たちの間には気まずい空気が流れたままだった。


 そんな空気感の中、午前の授業もあと1時間になった。朱里ちゃんたち3人は調理室に向かった。


 「!?…お兄、何で」


 すると、その中には舜が立っていた。


 〜舜〜

 …何で、か。確かに日向ちゃんには来ないでって言われてたけど、やっぱり俺は3人が心配だから。…過保護すぎ?それでも構わないよ。俺は3人を幸せにするだけだから!


 「…今はお兄じゃないよ。帆立小学校の理事長である帆立 舜として来てるから」

 「…なにそれ。…やっぱりお兄はうちより結衣のお願いを聞くんだ…」


 …やっぱり、日向ちゃんは納得してくれないよな。どんな言い訳したって来たことに変わりはない。


 「ごめんね。やっぱり俺は3人の頑張ってるところは見ておきたかったの。…でも、もちろんそれを強制するつもりもないよ」

 「…それって」

 「うん。今日はあくまでも俺が理事長だってことを伝えにきただけで、料理を手伝ってくれるのは咲に頼んだ」


 それが俺の選んだ答えだった。それが一番いい方法なんじゃないかなと思う。俺も朱里ちゃんたちに会えるし、日向ちゃんの料理をしている部分は見られたくないって思いも叶えられる。それに、咲がいるから危ないことにはならないだろうしね。…咲には申し訳ないけど、俺が勉強を見るってことで納得してもらった。これでも俺は成績トップだからな。


 「よろしくね、3人とも」

 「!?…咲さん」

 「えっと、日向ちゃん、だっけ?どうかしたの?」

 「その、うち、お兄のこと、好きです」

 「…知ってるよ」

 「その、違くて。…これは、恋人になりたい好き、だから」

 「…うん。私と一緒、なんだよね」


 そう話す咲と日向ちゃん。個別で両方に伝えてあったとはいえ、やっぱり思うところもあるのかな?どうせなら拓磨にした方がよかった?…でもあいつ、料理は全くだって言ってたしな…。


 「…朱里ちゃんと結衣ちゃんはどう?咲に教えてもらうってことでいい?」

 「…あ、はい」

 「うん。ユイはいいよ」

 「…どうかした?体調悪い?」

 「いえ、大丈夫です」


 さっきまでずっと黙っていた朱里ちゃんと結衣ちゃんにも声をかけたけど、やっぱりちょっとおかしい?体調がよくないのかなって思って聞いてみても、2人とも首を振るし…。


 「…そう?あんまり無理しちゃダメだよ?頑張るのはいいけど、頑張りすぎないようにね」


 もう3人が学校に通い始めて1週間ちょっとが経ってるし、環境の変化で体調を崩しちゃったのかな?3人ともいい子で頑張り屋さんなのは分かるけど、それで苦しむようなことがあったら…。


 …いや、俺がもっと3人の変化に気を配って、ちゃんと気付けるようになればいいだけなんだよな。


 「…じゃあ、俺は先に戻ってるからな。…咲、あとはお願い」

 「うん、任せて!」


 俺は学校に戻ることにした。朱里ちゃんと結衣ちゃんの様子は少し心配だけど、本人が大丈夫だって言ってる中で俺にできることなんて何もないしな。…よし、今度の休みはちゃんと病院に連れていかないとな。

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不幸だった三つ子(js)をお金の力で甘やかしたら… @cowardscuz

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