19日目①

 「そういえば、今日はお昼みんなで作るんだっけ?」


 初の姉妹喧嘩を終えて仲直りした次の日の朝、俺は改めてそう聞いた。3人は理事長が俺って分かったらどんな反応するのかな?


 「…あっ!そ、その。今さらで大丈夫なんですか?理事長さんの都合とか…」

 「もちろん。みんなのことを知ってる人だし、やるにしてもやらないにしても大丈夫だよ」


 そもそも俺だし。驚かせたいからまだ黙ってるけどね。


 「…そういうことなら、はい。お願いしたいです。…日向と結衣もそれでいい?」

 「もち。うちから言い出したことだし、準備万端!」

 「ユイも!お姉ちゃんたちと一緒!!」


 朱里ちゃんが伺うように見ると、そう自信満々に頷く日向ちゃんと大きく手を挙げた結衣ちゃん。なら、俺も気合いを入れて協力しないとな。


 「よし!ならそう伝えとくね」

 「…あっ。お兄ちゃん、一緒じゃ…」

 「こら、結衣。わがまま言わないの!」

 「ご、ごめんなさいぃ」


 …うっ。本当は今すぐ俺が理事長だって言いたい。…いや、言ってもいいんだけど、どうせならもっと劇的な反応が見たい。でも、結衣ちゃんが悲しそうにしてる…。お、俺はどうすれば…?


 「…だ、大丈夫だよ。迷惑なんて気にしないで」


 …それで俺は結局逃げることを選んだ。論点のすり替えとも言うけど、せっかくここまで隠してたんだから最後まで隠し通したい!


 「…なら、もう一個、わがままいい?」

 「ん?もちろん、いくつでもいいよ。…まぁ、叶えてあげられるかは分からないけどね」

 「うん。…ユイ、お兄ちゃんにもいてほしい。…だめ?」

 「分かっ「辞めて!」…えっ?」


 最初から手伝うつもりだったし、ユイちゃんのお願いに頷こうとしたら日向ちゃんの声が割り込んできた。


 「うち、お兄にだけは来ないでほしい」

 「…そ、そう、なんだ」


 …えっ、なんで、どうして!?日向ちゃんに嫌われるようなことしちゃったっけ?確かに喧嘩のとき役に立てなかったけど、それでこんなに嫌われることってある!?


 …いや、それよりももっと重要な過ちがあるよな。…告白の返事、まだできてないんだから。キープしてるように見えたって不思議じゃない。


 「…ごめんね」

 「な、なんでお兄が謝ってるの!?」

 「いや、嫌われて当然だなって。こんなダメな兄でごめんな」

 「ち、ちがっ!そういう意味じゃないから!!」


 俺が謝ると焦ったように否定してくれる日向ちゃんはやっぱり優しいな。こんな俺のことも気遣ってそんなことないって言ってくれる。


 …いや、冷静に考えると日向ちゃんの立場なら仕方ないのか。明らかに俺の方が立場が上だし、追い出されたりすることを警戒しちゃうよね。…なら、もう俺は気にしないようにして、少しでも日向ちゃんに、3人にストレスを与えないように距離をとる。うん、完璧だね。


 …俺は1人でも大丈夫。もうずっとそうだったんだから、少し前の生活に戻るだけ。…なのに、いざそうなる場面を想像したら胸が張り裂けそうな痛みが襲ってきた。


 「じゃあ、行ってくるね。帰りは遅くなるから、夕飯は適当にお願いして大丈夫?」

 「えっ、その」


 …普段通りの対応はできたかな?少しでも気を抜くと涙が出てきそう。でも、そんなことしたら余計に困らせちゃうよね。


 俺は3人を引き取った親代わりみたいな存在のはずなのに、それを自ら放棄しようとするなんて無責任、だな。それは分かってるのに俺は朱里ちゃんに甘えちゃってる。彼女がいればご飯も作れるから…。


 「違う!!…うちは、お兄に褒めてほしいの。こんなにできるようになったんだねって。だから、それまでは見ないでほしい」

 「…そっか。日向ちゃんに嫌われたわけじゃなくてよかった…」

 「うちが、うちらがお兄を嫌いになるわけないじゃん。お兄に感謝してるんだし、その、好き、なんだから」


 真っ直ぐに好意を伝えてくれる日向ちゃん。それでも俺がその好意に対して曖昧にして保留してる事実に変わりはない。


 …俺はどうすればいいんだ?3人から告白されて誰を選ぶのか。朱里ちゃんと日向ちゃん、もちろん結衣ちゃんも、には幸せになってほしい。だから、朱里ちゃんか日向ちゃんを選ぶべきなのか?…でも、どっちかを選んじゃうともう1人はどうなっちゃうのか分からない。それに、片親だけとはいえ血の繋がりはあるし、近親相姦になっちゃうよな?なら、咲?…だけど俺は咲のことをあんまり知らない。友達だとは思ってるけど、それだけだ。そんな状態で仮に付き合ったとして、本当にうまくいくのか?


 …何より、俺も母さんみたいになるんじゃないかって思って怖い。だから無意識に特定の誰かを好きにならないようにしてたんだと思う。…俺は、誰かを愛するのができるのか?


 「ユイもお兄ちゃんのこと大好き!」

 「わ、私だって舜さんのこと、好きです。この気持ちだけは、誰にも負けない」

 「…みんな。ありがと」


 そう暗い思考に傾きかけていたとき、結衣ちゃんの明るい声がもやもやを晴らしてくれた。…そうだよな。好きって言われて悩むなんて、そんな必要は最初からないよな。俺が母さんにしてほしかったことを朱里ちゃんたちにしてあげたいって思った気持ちは変わってないから。


 「俺も日向ちゃん、結衣ちゃん、朱里ちゃんのこと好きだよ。…じゃあ、行ってくるね」

 「「「行ってらっしゃい」」」


 俺は3人に見送られて家を出た。


 …って、結局どうしよう!?お昼、俺が理事長として行くのか、他の人に代わりを頼むのか。

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