2日目④

―――迷宮『エルガドレス』第一階層『安らぎの草原』―――


 360度どこを見ても一面に広がる草原。その様子からこの階層に付けられた名は『安らぎの草原』。

 エルガドレスの第一階層は世界に数多くある迷宮のうち最も安全な階層であると言われているらしい。快晴に草原という穏やかな環境、現れるモンスターがスライムのみであるという安全性が由縁のようだ。


「異なる空間に転移することを知ってはいたものの、まさか一瞬で全ての景色が塗り替えられるとはな・・・。ちょっと感動したよ」


 初めて経験する迷宮への空間移動につい胸を熱くしてしまうも、僕はすぐに気を引き締めた。どんなに安全な階層だと言ってもここが迷宮であることに違いはない。ゆえに絶対に油断をしてはいけないのだ。

 周囲を見渡し、目的のものが見当たらないことを確認した僕は移動を始める。今日の目的はスライムの討伐、そしてレベル上げだ。

 第二階層にはゴブリンとアルミラージが出現するため、階層の適正レベルは3となっている。つまり、僕は第一階層でレベルを最低2は上げなければならないのだが、大事を取って3もしくは4程度レベルを上げるつもりだ。

 

「あ、いた・・・」


 数十秒ほど歩くとスライムの群れを見つけた。『迷宮の基礎』に載っていた情報はたしか・・・。


【スライム】―――球状の核を中心に透明な粘液を纏ったモンスター。粘液にはあらゆる物体を消化する力があるが、その消化速度は非常に遅く、数分程度ではほとんど影響を及ぼさない。また、核のみが本体であり、粘液はどれほど損傷しても再生する。核が破壊されれば死に至る。


 危険がないことを思い出した僕はスライムの群れに近づき、背負っていたハンマーを手に取った。そして一匹のスライム目掛けてハンマーを振り下ろした。


「よいしょっと!!」


 ハンマーが粘液をいとも容易く通過し、そのまま核を押し潰した。その瞬間纏われていた粘液が破裂したかのように周囲に飛び散る。

 

「これで倒せたのか・・・。確か核の中に魔石があるんだったな」


 押し潰した核を見てみると、核の中には小さな魔石が入っていた。数センチほどの本当に小さな魔石だ。僕はその魔石を核から取り出しポーチへと仕舞った。冒険者ギルドは魔石の買い取りを行っており、金の無い僕はこれほど小さな魔石でも見逃すことができないのだ。


「さて、まだまだいるな。全部倒してしまおう」




「ふぅ、群れはこれで全滅だな」


 数十匹はいたスライムを十分程度で全滅させた僕はステータスでも確認しようかと思ったが、視界の端にまたもやスライムの群れを見つけた。経験値や魔石のためにもあの群れを放っておくわけにはいかない。そう思った僕は駆け足でスライムの群れの下へ向かった。

 こうして何度かスライムの群れを全滅させていると、突如体に力が溢れ出した。これは・・・まさかレベルアップか?

 僕は急いで「ステータス」と唱えた。すると目の前に半透明の板が投影される。


【名前】 ミナミ

【種族】 普人間ヒューマン

【年齢】 15

【階位】 Lv.2

【能力】 力:3→8

     器用:5→9

     耐久:3→7

     俊敏:4→9

     知力:5→8

     魔力:5/5→9/9

【魔法】 

【スキル】言語統一:あらゆる言語を理解することができる(人間種に限る)


「おぉ・・・」


 レベルが1から2へ上がっていた。また、全ての能力値が倍近くに伸びている。良い調子だ。もっとスライムを倒してさっさとレベルを上げてしまおう。

 そう考えた僕は再度スライムの群れを探し始めた。




「どりゃっ!!」


 振り下ろされたハンマーがスライムの核を押し潰す。

 レベルが上がってからすでに数時間程が経過しており、その間僕はほとんど休憩せずにスライムを倒し続けていた。倒したスライムの数は約三百匹にも及ぶだろう。

 しかし、それに対して僕はあまり疲労を感じていなかった。通常数時間もモンスターと戦い続ければ精神的疲労や肉体的疲労は非常に大きなものとなるだろうが、僕の場合はモンスターがほとんど害のないスライムであること、それに武器がハンマーであることが大きな要因となり、疲労があまり溜まっていなかったのだ。

 何故武器がハンマーであることが疲労を抑える要因となるのか。僕も本を読むまで知らなかったが、ハンマーは初心者が使う武器として非常に優れているらしい。なんでも剣を振るには一定以上の技術が必要で、その技術がないと無駄な動作が多く、疲労が溜まりやすいようだ。

 一方、ハンマーを扱うにはあまり技術が要らない。もちろん初心者を脱して中級者、上級者となるにはハンマーを扱うにもそれ相応の技術が必要となるが、初心者が扱う分にはただ振り下ろすだけでいい。それだけでモンスターに大ダメージが与えられるのだ。剣よりも隙が大きくなるというデメリットは存在するものの、低階層のモンスターはその隙を狙うことなどできない。それ故に、迷宮初心者にはハンマーがおすすめの武器らしい。


 それからさらに数時間スライムを倒し続けた。この階層は常に快晴であるため分かりづらいが、おそらく外では日が落ちる頃だろう。安全な第一階層と言えど、少し調子に乗って潜りすぎたかもしれないな。流石に今日はもう終わりにしよう。

 そう考えた僕は今日の成果を確認するために「ステータス」と唱えた。


【名前】 ミナミ

【種族】 普人間ヒューマン

【年齢】 15

【階位】 Lv.4

【能力】 力:14→18

     器用:12→15

     耐久:10→14

     俊敏:14→18

     知力:12→16

     魔力:12/12→17/17

【魔法】 小氷球ライトアイスボール:小さな氷の球を撃ち出す(消費魔力:3)

     小回復ライトヒール:僅かな傷を回復する(消費魔力:3)

【スキル】振り下ろし:振り下ろした際に威力増加(ハンマーに限る)

     言語統一:あらゆる言語を理解することができる(人間種に限る)

     スライムスレイヤー:スライムを討伐した際に得られる経験値減少


「おぉ、なんかいいな。この成長が目に見える感じがすごくいい。明日も頑張ろうって気が湧いてくる」


 ステータスの成長に満足した僕はすぐに迷宮を出た。そして飯屋と公衆浴場に足を運んだ後宿にて就寝した。こうして僕の異世界生活2日目は終わりを迎えたのであった。

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あぁ愛おしき迷宮攻略―ステータスは裏切らない― 雨衣饅頭 @amaimanju

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