2日目③

「そういえば、ミナミは何の本を読みに来たの?図書室に来たってことは何か読みたい本があるんでしょ?」

「あぁ。冒険者の基本とか、迷宮に潜る上で必要な基礎知識とか、その辺りが分かる本を読もうと思って来たんだ」

「私と同じじゃない・・・ほらこれ、もう私は読み終わったからあげるわ」


 ララは机に置いていた本を手に取り僕に渡してきた。その本には『迷宮の基礎』というタイトルが刻まれていた。ララがこれを読んでいたということは・・・。


「ララも迷宮に潜る予定なのか?」

「当たり前でしょ?この街には世界最大級の迷宮『エルガドレス』があるのよ?この街のほとんどの冒険者は迷宮が目当てだわ。もちろん私もね。そういうミナミも?」

「そうだな。僕も迷宮に潜ろうと思ってる。効率よくレベルを上げられそうだからな」

「そう・・・。まっ、せいぜい死なないように頑張りなさい。それじゃ、私はもう行くわ」

「おう」


 ララは図書室を出ていった。それを見届けた僕は椅子に座り『迷宮の基礎』を読み始めた。




「ふぅ、とりあえずはこんなもんか」


 僕は『迷宮の基礎』を読み終えた。もちろん全てのページを完璧に読んだわけではなく、じっくりと読む対象を新人冒険者にとって必要な知識に絞り込んだ。

 また、あまり知識のない僕でも分かりやすい説明がされていたため、読み終えるのにたいして時間はかからなかった。


「よし、早速迷宮に行ってみるか。時間は有限だからな」


 椅子から立ち上がり、『迷宮の基礎』を本棚へと仕舞う。そしてすぐに図書室を出た。図書室を出ると今朝のような喧騒は無くなり、ギルド内は打って変わって静寂に包まれていた。おそらく多くの冒険者はすでに迷宮に向かっているのだろう。

 こうしてはいられない。そう思った僕はすぐにギルドを出て迷宮に出発した。


 世界最大級の迷宮『エルガドレス』はこの城塞都市ライネルの中心に位置している。つまり、都市の真ん中に迷宮が存在するのだ。

 初めてこの事実を知った時の僕は、何故モンスターを生み出す危険な迷宮が都市内にあるのかと不思議に思ったのだが、なんでも城塞都市ライネルが誇る堅牢な城壁は外敵から都市を守るためにあるのではなく、迷宮から外部を守るためにあるらしい。

 万が一迷宮が暴走しモンスターが迷宮から外部へ溢れ出した場合に、城壁の外へモンスターを出さないようにするためにこの城塞都市ライネルが作られたのだとか。

 まぁ『エルガドレス』が暴走したことは今までに一度もないらしいので、きっと僕には無縁なことだろう。


 そして数十分後、僕は都市の中心、迷宮『エルガドレス』の入口へとたどり着いた。入口といっても扉や地下へ続く道があるわけではない。その代わり、そこには全長10メートルはある大きな石像が立っている。

 その石像はある女性の姿を模したものであった。昨日僕がこの目で見たのだから見間違えるはずがない。その女性の姿は女神ミッシェルと完全に一致していた。

 女神ミッシェルを模した石像の周りには衛兵による厳重な警備が敷かれていた。また、石像を囲うように建てられた柱や屋根によって、神殿や遺跡のような雰囲気が漂っていた。


 僕はその雰囲気に緊張しながらも、警備している衛兵へと話しかける。


「あの、迷宮に潜りたいのですが・・・」

「冒険者の方ですね。では、冒険者カードをご提示ください」


 ポーチに入れていた冒険者カードを取り出し、言われた通りに衛兵に提示した。


「ご提示ありがとうございます。確認できましたので、どうぞ石像の前へ」

「はい」


 衛兵の指示に従い僕は女神ミッシェルを模した石像の前へと立った。この石像には不思議な力が宿っている。空間と空間を繋げる力だ。つまり、迷宮『エルガドレス』の空間と僕が今立っている空間をこの石像は繋いでいる・・・らしい。正直僕もよく分かっていないが、ある条件を満たせばその繋がれた空間を行き来できるようだ。―――こんなふうに。


「―――『【時の導き】に従え。【空の裂け目】を広げろ。【許されざる境界線】を描け』」


 僕が詠唱を言い終わった瞬間、周囲の景色が一変した。先ほどまでライネルの中央広場にいたはずなのだが、いつの間にか周囲には見渡す限りの草原が広がっていたのだ。


―――迷宮『エルガドレス』第一階層『安らぎの草原』―――

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