第4話

 あれから、一週間が経った。時間が合えば颯斗とは、毎日一緒に帰った。この間の続きの話からスタートし、たくさんの話をした。彼と会話を繰り広げていくうちに改めて分かったこと。「やっぱり颯斗のことが好き。」「一緒にいると楽しい。」「気持ちを伝えたい。」ということだ。これも不思議なことで、人は欲しいものに近づけば近づくほど、「欲しいレベル」が上がってくる。小学校の頃より、好きな人と話せている、やったーと喜んでいたのが、「もっと一緒にいたい。」「そのためには、気持ちを伝えるしかない?」そういう思考回路になってくる。それと、同時に違うことも頭によぎる「フラれたらどうする?」「気まずくなる?」「元の友達には戻れない?」それもよく聞く話だ。よくこのリスクを冒してまで人は人と両想いになろうとするなと思う。先人たちは本当に凄い。そんな謎の尊敬の念を抱きながら私は、日々を過ごしていた。そしてまた、親友の言葉が脳裏をよぎる。その瞬間、私は意を決したように心に灯をともした。


 帰り道、いつものように彼のことを昇降口で待っていると、この間と同じように「おーい」と声をかけてきた。


「待った?」

「ううん、大丈夫。」

「帰るか。」

「うん、帰ろう。」


 そんな会話をしながら二人で歩き始めた。いつものように楽しい話が始まる。やっぱり時間が経つのが早い。きっとこれは、楽しいだけではなくて、好きな人と会話をしているから、時間が経つのが早いんだと思うと今なら感じられる。そんなことを考えながら歩いているといつもの別れ際の横断歩道に差しか掛かった。ふと、彼の顔を見ると、目が合った。意を決していた私は、勇気を出して聞いてみた。


「別れる前に聞きたいんだけどさ、颯斗とさぁ、授業中とかもさ、今みたいによく目が合うよね。」

「そ、そうかぁ?。」

「いや、めちゃめちゃ合ってたから。何で?」

「気のせいじゃない? そんなに合っていたか?」


 少し残念な気持ちになった。あれは、たまたまだったのか。沙耶が言っていたように気が合ったわけじゃないのか。そう思うと、心に灯していた勇気という名の灯が私の中で消えかかりそうになった。そんなとき、もう一度、親友の言葉を思い出す。「あんたはまだ、恋愛のスタートラインにすら立ってないの。」


「ねぇ、颯斗。言いたいことがあるの。私…」


 時が止まるかのように緊張した。私の中で心臓の鼓動が速くなるのがわかる。でも今が、灯した勇気を出す瞬間であるのは、私の中で明白だった。目が合ったのは、気のせいだろうと、関係ない。両想いになった先人たちを見習おう。


「私…、颯斗のことが好き…。」


 言った。ついに言った。この先、どうなるかわからないけれど、私は言った。相手に自分の気持ちを伝えることができた。恥ずかしい気持ちと怖い気持ち、ドキドキしている心臓、何が何だかよくわからないけれど、とりあえず、気持ちを伝えられた。


「うん、俺も好きだよ。華南のこと。」


 優しい目で彼は言う。「俺も好き?」嘘。いや、本当? よくわからない感情で心の中がいっぱいになる。両想いってこと。うん、まぁそうなのか。でも信じられなくて、とっさに出た言葉でつい聞き返してしまった。


「嘘…マジ?」

「マジ、マジ、大マジ。言わせてごめん。目が合ったのも気のせいじゃないです。ずっと華南のこと、気になってた。」

「えっ、何でそこでは嘘ついたのよ。」

「いや、うん、ごめん。なんかダサく思えちゃって。ホントごめん。」

「えっと、つまり、どういうこと?」

「えっと…、俺たち、付き合いますか。」

「うん。」


 私は、やっと恋愛のスタートラインに立つことができた。親友のくれた勇気が私に恋愛への道を与えてくれた。どんなことが待っているかは、わからない。でもそれはきっと、未来に進む素敵な切符だ。

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