第3話
バレー部はなかなか練習が厳しいと噂の部活で実際のところ、本当に練習がハードだ。今日もブロックとトスの練習だけでどれだけしただろうか。部活後の昇降口で靴を履き替えながら思った。いつもなら一緒に帰る部活の友達がいるが今日はたまたま一人。そんなとき私に「おーい」と校舎内の廊下の方から声をかける男の子がいた颯斗だ。すぐさま心臓の鼓動が高まった。
「ねぇ、華南。今日は一人?」
「うん。美希が休みで、今日は一人。」
「じゃあさ、一緒に帰ろうぜ。」
「うん…。別にいいけど…。」
私がそう答えるうちに、彼は上履きから外履きに履き替えて、私の方を見た。あっ、これ、この間も目が合ったやつだ。それを思い出して少しばかりドキマギしているうちに、「何してるのさ、帰るよ。」という颯斗の一言で二人一緒に歩き始めた。
「華南たちの部活ってやっぱりキツイの?」
「うん。まぁ、そうなのかな。私はそうはあんまり、感じないけれど、先生は少し怖いかな?」
「ヒャー、マジか。おっかないねぇ。よく続けていられるね。」
「まぁね、バレーはずっと好きだしさ。先輩は優しいしね。あー、サッカー部はどうなのよ。」
「うん、何が?」
「何がって、それはその…、楽しいとか?」
「そりぁ楽しいよ。だってサッカーだぜ。そりゃ、あのメッシがやっているスポーツなんだから楽しいに決まっているさ。」
「何よそれ。全然意味がわからない。」
あぁ、この感じだ。このふざけた感じの会話が心地良い。夕方から夜にかけての日が落ちる、オレンジ色の夕焼けが空に広がるこの時間、好きな男の子とバカな会話で盛り上がれるこの瞬間が。なんて素敵なんだろうか。田んぼに広がる風になびく稲も、畑の前で気持ちよさそうに寝ている猫も今はあまり目に入らない。好きなアイドルの話や昨日見た、配信動画の話。部活の先輩たちの噂などなど。どんどんどんどん、話が盛り上がる。こんな楽しいと感じる話をしていると時間はあっという間に過ぎていくもの。横断歩道に差し掛かり、二人で渡り終えると、別れの時間。止まって喋りたい気持ちもあるけれど、時間的に引き留めるのも気が引ける。というか、やっぱり恥ずかしくてそんなことはできない。ふと歩いていると思い出す。昨日の親友からの言葉。「あんたはまだ、恋愛のスタートラインにすら立ってないの。」…。
「ねぇ、颯斗。あのさ…」
「うん、何?」
「明日も一緒に帰れないかな? あの、あれ、時間が同じだったらでいいんだけどさ。」
「もちろんいいけど。じゃあまた明日しようぜ、この話の続き。」
「うん、じゃあまた明日。」
「また明日。」
「また明日。」なんていい言葉なんだろう。明日また、同じ気持ちになれる瞬間がある。そう思えるだけで幸せだ。勇気を出して、言ってよかったと思える。颯斗が手を思いっ切り振りながら、歩いていくのを見て、私もつい手を振り返す。少しあざとく可愛さも意識して振ってみた。我ながら何をしているのだろうとも思ったけれど、アピールすることもスタートラインに立つための一つ。うん、きっとそう。そう思いながら私は帰路についた。
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