第2話

 「華南はさぁ、考えすぎなんだよ。私たちはさぁ、まだまだ中学生なんだし、難しいこととか考えずにもっと色々なことを楽しもうよ」


 スマートフォンの先からそう話すのは、小学校からの親友、沙耶だ。彼女は、元気ハツラツ系な女子で、男女関係なくすぐに仲良くなれる今でいう、コミュ力お化けな明るい女子だ。部活はバスケ部で、身長も高いこと、類いまれないコミュニケーション能力で中学から始めたにも関わらず、バスケ部の一年生の中ですぐに中心人物になっていた。私とはタイプが全然違う。なんで仲良くなったんだろうと思うが、そんなことはもう覚えていない。小学校の頃の友達のなり方なんてそんなもんだ。同じクラスになって一緒に遊ぶ、休み時間に折り紙を折っていたら話が合って盛り上がる、フルーツバスケットをしていたら不思議と話すようになった等、キラキラした不思議な感覚で誰とでも仲良くなれる。小さなきっかけがたくさん落ちていて、気づいたら、たくさん一緒にいる。そして、タイプが違うからこそ、気兼ねなくお互いに話ができて…。きっとそんな関係だ。そんな親友、沙耶はいつも私の相談に乗ってくれる。


「そんなこと、言われたって…。しょっちゅう目が合うんだよ。不思議じゃない?」


「うーん、わかんないけどさ。向こうも華南に気があるんじゃないのかな?」


「えっ…そんなことあるかな。あるわけないよ。」


「それは、わかんないじゃん。華南が前に自分で言っていたみたいに、恋は不思議に   

満ちていてさ、何がきっかで人を好きになるかわからないんだからさ。」


 自分の部屋のベッドに寝ころびながら思う。うん。確かに私が前から思っていて、沙耶に言ったことだ。だが、こちらも不思議なことで、こと自分のことになると、なぜだが当てはまらなくなるのだ。なぜだろうか考えようとしたが、考えすぎるのはよくないと、沙耶に言われたばかりなので考えることは止めることにした。


「でも、告白したりするのは、無理だよ。フラれるのは怖いし、恥ずかしいし…」


「あんた本当、普段の大人びた言葉と恋愛に関する言動の幼さの差が相変わらず激しいのね。笑っちゃうわ。」


「だってぇ、そんなこと言ったて…」


「あのねぇ、上手くいくかどうかなんてわからないことのほうが、どう考えても多いの。未来は予測不可能です、華南さん。行動して、進まないと楽しいことも嬉しいことも何も起こらないの。だってそうだったでしょ。五年生の時から、二年間好きだった柊吾君だってそう。気持ちを伝えないから何も起こらず、卒業式でお別れ。だったら伝えるしかないでしょ。あんたはまだ、恋愛のスタートラインにすら立ってないの。」


 スタートライン。

 

 思わず、スマホをベッドの上に落としそうになる。その言葉が私の中でずっしりと重く響いてくるのがわかる。あぁ、確かにそうだ。私の恋愛は、確かに小学校では何もスタートせずに、進展すらなかった。そりゃそうだ。気持ちが伝わってないんだから。気になるだけ、気にして、仲のいい女友達と恋バナをし、あーでもない、こーでもないと言う。それはそれで、楽しいけれど、気持ちが伝わることはない。小学生にはまだ、早いという大人もいるが、当事者の私たちからすれば、そんなことはなくて、やっぱり、好きな人とは付き合わなくたって思い合い、両想いになりたいのだ。私は何も言い返すことができずに、お互いのスマホに無言の時間が流れる。私の部屋に飾ってある時計の秒針の音と、クーラーの音だけが響いている。


「おーい、華南、華南さーん。ごめん、ごめん、ちょっと言い過ぎた。ごめん。」


「ううん、いいの。ありがとう。確かに沙耶の言う通り。私、まだ何も始まってないね。うん。ありがとう。ちょっと頑張ってみるね。」


 そう言って沙耶との電話を切る。さて、どうしようか。頑張ってみる気持ちにはなったものの何をするのかも思いつかない。いきなり告白? 目が合うしOK? いやいやそんなことはない。昔の歌じゃあるまいし。さり気なく近づいて触れる? いやいやそれは、変な人すぎる。そんなことを一人でベッドの上で真剣に考えているうちに、私は無事に寝落ちしてしまった。知らぬ間に電気が消えていた部屋の中は、窓の外からの星の光が少し輝いていた。

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