明りのない部屋

高黄森哉

明りのない部屋


 パチリ、と瞼が音を立てて開いた。長い間、寝ていたためか、目やにが膠みたいに瞼を接着していたのだ。そして、ここが全くの暗闇であることを、はっきりと見た。


 真夜中に目覚めてしまったらしい。このアパートは、あたりになにもないから、外光が入らない。だから夜中は、こんな風に真っ暗になってしまう。


 照明の紐は、なかなか掴めなかった。暗闇で、遠近感が掴めないどころではないのだ。なんども、カチカチと引っ張るが反応はない。こんな時に、電球が切れてしまったのか。


 なら仕方がない。と、しんとした夜に耳を澄ませる。まだ、誰も起きていない世界。静寂の魔物が、体育座りをして、朝を待っている。とか、瞑想していると頭痛が襲ってきた。


 どうやら、昨日、飲み過ぎたらしい。そうだ、昨日、大量に酒を飲んだんだ。悪酔いをするから、絶対飲みたくなかったのに、場の空気に飲まれてしまったのだ。こんな時間に起きたのも、酒のせいかもしれない。


 そうだスマートフォンがあるじゃないか。床を、ザトウムシの触覚みたいに確かめて回る。やがて、四角くて固い板に指が触れた。側面の電源ボタンを押すが、反応はない。


 電池切れ。どうも最近、うまくいかない。自分のしたいことが、正しく運ばない。体中をかきむしりたい気分だ。昔からちょっとした自傷癖があって、失敗するたびに身体を叩いていた。


 バシッ、と手を叩く。しかし、暗闇なので、あまり実感がない。叩いた手も、叩かれた手も、痛みを感じないでいる。これでは、爽快じゃない。𠮟りつけた意味がないじゃないか。その時、ゴミ回収車の音楽が、外から流れてきた。


 そうか、今日はゴミの回収の日だったか。待てよ、この音楽が聞こえるということは、今は、朝の八時ということだな。はて、なぜ俺の部屋は、こんなに暗いんだ? 何者かが、窓を塞いでしまったに違いない。


 とにかく、外に出れば、なにが窓を覆っているのかわかるだろう。這って、扉を目指した。その道程にて、丸いぬめぬめとした物体を二つ捕まえた。そしてそれの正体が分かり、半狂乱になった。


 これは目玉だ。


 


 

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明りのない部屋 高黄森哉 @kamikawa2001

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