第72話 コイツがカラスか




「さて、どう偽フクロウを調べようか」


 先日フクロウや闇医者というワードをSNSで検索したところで自分についてしか出て来なかった。ワードの前に偽と付けたところで大した情報も無かった事を覚えている。


 なんなら「偽物について調べてるの分かってるぞフクロウ」みたいなのが数個出てきた時点でスマホぶん投げて寝た。


 なんなんだよマジで。イラつきと恥ずかしさで全然寝付けんかったわムカつくわぁ!


 今思い返しても顔が熱くなる。一回冷静になって他のアプローチを考えよう。そういやプレイ映像をうんたらかんたら言ってたな。


 RSFではプレイした画面が一週間単位で一時的に記録され、好きな場面を好きなタイミングで保存、SNSへの投稿が可能となっている。


 適当な単語で検索すると、簡単に被害証拠とやらが見つかった。そのプレイ映像を再生してみる。


 場面は不道森林、映像に映っているモンスターはオロチと言う大蛇で、木々の隙間を素早く移動し、獲物を捕食する。攻略組でないとまずお目にかかれないモンスターだ。


 大きさから見ても、通常個体より大きいことから高レベルのモンスターである事には間違いない。


 主な攻撃は強靭な体による巻きつきや、牙から分泌される毒の2種類と前線の高レベルモンスターにしてはパターンが乏しいのだが、真に恐ろしいのはエリアとの高い親和性にある。


 不道森林のような道なきサバイバルエリアではその高い機動力と感知能力から奇襲を仕掛けてくる。その脅威度は、限定的とは言えイレギュラーモンスターであるハンティングウルフに匹敵すると言っていい。


 いかに空き地地帯へ誘導するか、攻撃の軌道を読み仕留めるかが重要なのだが、索敵スキルが十分に育っていないとあっという間に捕食されるだろう。


「こりゃ厄介な相手と戦ってたな…」


 森林地帯での戦闘という状況を見るに、オロチの奇襲が発端なのだろう。映像には映っていないが、プレイヤーが一人すでに戦闘不能になっていてもおかしくはない状況だ。


 オロチによる攻撃の鋭さや、身軽さが映像からも強調され良く伝わる。特に木々を利用した攻撃は目を見張るもので、変幻自在な攻撃の軌道は無限にあるのではとさえ思えた。


 映像を見ても、ほとんどプレイヤーが映っていないので、攻撃への対処できているのかは疑問だが、戦闘が長引いているという事実は確認できた。


「……なんだ?」


 プレイヤーとオロチが相対したのだろう。プレイヤーの視点から真正面に大蛇の圧のある全貌が映し出されたタイミングで、きらりと光る何かが飛んできたと思えば、爆発。


 突然のダメージ、また熱を主な感知機能としているため、オロチは首を振って狼狽えているのが分かった。


 動きの鈍った獲物を仕留めるように、上空から黒い装備で身を固めたプレイヤーが、デッドスピアによる一撃でオロチを討伐してみせた。


「コイツがカラスか…」


 映像を一時停止し拡大すると、カラスの仮面を被ったプレイヤーがナイフを片手にオロチの上に立っている。


 確かにフクロウに似ているかと言われれば似ている。しかし、装備は戦闘に寄せたもののようで、闇医者をモチーフにしているとは思えなかった。


「まったく、似せるならもっと根本的な部分も似せてくれよな」


 持っているナイフも簡単に手に入る安っぽいもので、使い捨て上等と言った雰囲気だ。こちとら高い金払ってメスの形にしてもらってるんだぞ。


 そんな事を思いながら映像を再開させると、カラスはすぐにその場から離れ、視点が切り替わるとモンスターの鳴き声が響き渡った。


 その後は暗転して終了したため、カラスがオロチを横取りし、トレインして来た他モンスターによって殺されたと言う証言には合っている。


 合っているが、ところどころ不可解な点が見つかった。まず第一にプレイヤーの戦っている映像が全くないこと。


 編集によってオロチの攻撃や回避が臨場感満載で、あたかも激闘を繰り広げているように見えるが、その実プレイヤー自体は映像にチラリとも映っておらず、どのように戦闘していたのか分からない。


 そして第二に、映像が編集されていると言う点。被害の証拠として出すのであれば、わざわざ編集する必要があったのだろうか。


 動画編集AIですぐに編集できると言っても、エンタメ動画としてアップロードする訳でもなしに、見やすくする必要なんて俺には考えつかない。


「…結局分かったのはカラスの容姿くらいか」


 映像を巻き戻し、カラスの決めポーズシーンをスクショする。カラスの仮面が特徴的で、黒いコートに黒い手袋、ブーツまで黒一色ときた。コートには赤い線がオシャンティに刺繍されており、中々カッコいい。厨二心に刺さるじゃないの。


「……」


 証拠映像を閉じ、SNSにてカラスで検索をかけてみる。すると、カラスの仮面を付けたプレイヤーに遭遇したと言う呟きがそれなりに散見した。


「偽フクロウってよりもカラスで独立してるよな、やっぱ…」


 呟きを見てみると、「モンスターから助けてもらった」や、「回復薬無くなって困ってたところを譲ってくれた」など先行している噂とはかけ離れたものが多かった。


 また目撃情報も前線からスタットに向かって移動しているような変遷を辿っており、カラスの目撃情報はそれなりの頻度で更新されている。


「カラスは自分が晒されている事に気付いてないのか?」


 SNSに投稿された証拠映像はすでに万バズしている。カラス自身であるならば、一目見ただけで自分のことだと分かるだろう。


 そこで何もアクションを起こさないのは不自然に思える。もしフクロウを騙って害悪プレイをしているのであれば、SNSにはその悪行が広まっているはずだし、そうでないのならば証拠映像に対して物申したりしそうだが…。


「他にも考えられそうだけど、情報が少なすぎるなぁ…」


 椅子の背もたれに寄り掛かり、天井を見上げる。


 一旦は様子見と行こう。カラスの目撃情報は段々とスタットに近づいて来ている。探しに行くよりも待っていた方が遭遇する確率が高そうな気がする。俺の中のリトルヨルもそう言ってる。


 それに、今気になり始めているのはコハルさんの事だ。


「無理してるよなぁ、絶対…」

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流行りのVRMMOで闇医者ロールプレイしてたら人気配信者に晒されました りょ @ooooiotya630

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