旧知のカースマルツゥ 11
結界の中には人はおろかネズミ一匹すらもいない。存在が許されるのは魔術師のみ。
静寂は世界の全てとなり、肌に纏わりつく嫌な冷たさが彼の緊張感を高める。
目の前には一人の魔術師。古くからゴエティアに参加し続ける歴史ある魔術の継承者、死霊の魔術師だ。
「お昼に会って以来ね、パフェはお口に合ったかしら?」
冷静に、それでいてどこか調子よく彼女は話しかけてきた。
「パフェはごちそうさまでしたよ。うまかった」
「当然でしょ。伊達に長くあの店で働いていないわ」
彼女は鼻高々にそう言った。
「それにしても・・・・・・」
彼女は呟くと空を見上げて言った。
「綺麗な夜空ね。見てごらんなさい、あんなに月が綺麗よ」
そう言われて彼とわたしも空を見上げる。空には彼女の言う通り、純白に輝く満月が鎮座していた。
「綺麗ね・・・・・・殺し合うのにうってつけの夜にしてくれているわ」
やはりどうしてか、彼女の言葉に合わせて空気が冷えてゆくような感覚がある。
不意にそよ風がわたし達を撫でた。それはまるで冬の風のように冷たく、肌に痛みを感じるほどだった。
「っツ!!」
突然彼が小さくうめいた。彼の右頬には糸のように細く小さな裂傷が出来ており、僅か程度の血が流れていた。
「やっぱりそうよね」
明滅する街灯の下で彼女はそう言った。
「なに?」
「あなたには分からないのよ、彼らが」
「彼らって?あんたの仲間とかか?」
「いいえ、仲間じゃないわ。友達よ、旧い旧いお友達。あなたたちにとってもそうだった、でも、そうであってそうでない」
そうだ、彼にはまだ理解できていない。それが死霊の魔術師と戦う上での最大の壁になる。
「でもお話はもうお終い。さあ、ゴエティアを楽しみましょう。長くなるか短いか、今日の夜はどちらかにとっての最期の夜ですもの・・・・・・」
そう言うと彼女は明滅する街灯の明かりの中で、まるでタイムラプスでも見させられているかのようになる中、気づけば彼女の右手には一際大きな
それは彼女の背丈よりも大きく、その重厚そうな見た目とは裏腹に彼女はそれを容易く片手で振り回してみせた。
鮮やかにくるりと回転させる。鎌から何かが解き放たれでもしたのか、彼女を照らしていた街灯は、ガラスを切った音ともに真っ二つになり倒れた。
今わたし達を照らしているのは月の光のみ。周囲は暗闇そのもの。
闇の中からは何一つの音も無く、静寂に包まれている。
すると今度は闇の中から霧のようなガスが溢れてきた。彼は咄嗟に口元を袖で覆ったが、これ自体には危険性が無いのを察すると、すぐさま体勢を整えた。
彼のその判断は正しかった。わたしはそのあとすぐにその気配を察知した。
彼の背後、霧の中に蠢く影があった。
それは物音ひとつ立てず、気配すらも無いのか彼はそれに気づいていない。
その様はまさに『暗殺者』、彼女と同じ鎌を握り、そのギラついた刃を今、彼の首に向けて振り下ろした―――――
炎の魔術師 ム月 北斗 @mutsuki_hokuto
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