旧知のカースマルツゥ 10
突然の死霊の魔術師との
喫茶店を後にする頃店内を見渡したがすでに彼女の姿は無く、働いているほかの店員に彼女の事を尋ねると、とっくに業務を終えていたらしい。それだけでなく、今日の彼女のシフトでは、二時間前には今日の就労時間は終わっており、普段ならばその後に他の店でのバイトがあるのでそそくさと帰るのだが、今日もそうだというのに残業をしていたようだ。
彼が来店することを分かっていたのだろうか?いや、それは彼女の魔術であれば可能ではあるだろう。
死霊の魔術、それを彼は理解できるだろうか?そもそも彼が、我々魔術師が常識としている”旧き友”の存在を認識、認知が可能かどうか、そこにかかってくる。
このメダルに刻まれた過去の魔術師たちの記憶、それを読み解けば彼女に勝ちうる手段、戦略は容易くいくらでも準備ができる。
だがまずは、彼にそれを理解させることが重要だ。
しかし・・・・・・時は残酷だ。彼女との邂逅からすでに数時間が経過しており、辺りはすっかり夜の街並みに染まっている。
仕事終わりのサラリーマンが後輩か同僚かは知らんが連れ歩き飲み屋へと消え、学校終わりの学生たちは夜のおしゃれな店で食事や出会いを楽しんでいる。
「なあ、シア」
「なんだ?」
「ゴエティアって、もしかして・・・・・・こんな町中でやったりするもんだったりする?」
「そうだな・・・・・・基本的に場所を選ぶことはない。よって、ここで突然起こることもあり得るな」
「戦いってさ、水の魔術師とのあれと同じような感じだよな?こんなところでそれが始まったりしたら・・・・・・」
「それは問題ない。いくら我々魔術師が人間を何とも思っていないといっても、それなりには配慮している」
「それなりて・・・・・・」
「まず、お前の心配しているような人を巻き込むということはない。なぜなら、戦いが始まった時点で相対した魔術師たちを取り囲むように空間が切り取られる」
「切り取られる?」
「例えばそうだな・・・・・・町中のこの空間をデータ上の『ファイル』としよう、戦いが始まるとそのファイルが”コピー”される、元となったファイルとは別の場所にそれは置かれ、その中には戦いの履歴が残された”データ”だけが存在するのだ。戦いが終わればコピーされたファイルは元のファイルの中に保存され、その結果が反映される」
「結果が反映って・・・・・・戦いの中で壊れた物は?反映されるってんなら影響出るんじゃ・・・・・・」
「問題ない。あくまでも反映されるのは魔術師の分だけだ。周囲にいた人間たちには、敗北者は『いなかった』という認識だけが与えられる」
「そもそも認識されないってことでいいのか?」
「単的に言えばそうだな。今はそれでいい」
人ごみの中を掻き分けて泳ぐように進みながら、彼の抱く疑問に解を与えた。
今説明したことはあの魔女がこなしている。どれほど離れていようとも、ゴエティアに参加した魔術師たちに魔女は干渉できる。
だから・・・・・・必ず戦いは起きる。
人ごみを抜けようやく繁華街の外に出るその時、それは訪れた。
先ほどまで聴こえていた賑やかな喧騒はパタリと途絶え、行き交う車の走行音も失せ、ただの静寂だけが彼を捉えた。
魔女の結界、それが発現したということはそういうこと。
彼が抜けてきた後方、繁華街の街灯が不意に明滅を始めだした。
やがて遠い方の街灯の明かりが消え、それは順繰りに彼の方へと近づいてくる。
一つ、また一つと、静寂の中に街灯の弾ける音が響く。
その音に混じり靴音が聴こえる。ヒールが地面を蹴る音だ。
「こんばんは、人間の・・・・・・いえ、炎の魔術師さん」
最後に残された街灯の下に、彼女は現れた。
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