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結論から言うと、ミナは死ななかった。直前で怖くなり、包丁を落としたのだ。気付いた店員と周りの客が悲鳴をあげて、店を出ていく。
残された私達は、一番隅の席で向かい合っていた。
「私もさ、嫌いだったよ。あんたのそういう被害者ヅラするとこ。ずっとうじうじしてるとこ。キモいとこ」
床に落ちた包丁を蹴っ飛ばす。ミナはテーブルに突っ伏して泣いていた。
「お互い様だね」
私は明日、彼氏と別れる。浮気してたからだ。職場の先輩は聞こえるように嫌味を言ってくるし、私にだけお土産を配らない。母親は陰謀論にハマってるし、弟はこないだ人を撥ねた。あと、そうだ。みきも殺した。この前会ったとき、あんまりに幸せそうだったから。イケメンの社長と結婚して、子供を授かって馬鹿みたいに大きい家に住んで、みき本人は小説家としてデビューしてたから。内緒だよって教えられたペンネームは、私が愛読していた小説の作者だった。みきを殺した後は、ビリビリに破いて捨てたけれど。
私達、似たもの同士だよなぁと思う。だってみきは、三人でいるときはそうでもなかったけど、私と二人のときは目いっぱい馬鹿にしてきたから。受験する大学も、弟が通う中学も、私が使ってるポーチも、化粧品も、彼氏も、全部きちんと、見下していた。
ミナにはしていなかった。たぶん、ミナのことは普通に好きだったんだと思う。私がミナのこと、普通に嫌いだったみたいに。
だってこいつ、今ここで被害者ヅラして馬鹿みたいに泣いてるこいつ、みきに気に入られたんだよ。何をされても笑って誤魔化してた私じゃなくて、嫌われたくないから必死に媚びへつらってた私じゃなくて、さ。
ズズっと音が鳴った。コーヒーはもう空になっていた。薄茶色い水を穴に溜めた大きな氷が、三、四個転がってるだけだ。
グラスを持って傾ける。一番手前の氷が口に滑り落ちてきた。歯で噛み砕く。ゴリゴリ、という音に混じって、人の声に囲まれた。数人の警備員に取り押さえられたミナが、奇妙なうめき声をあげている。
「大丈夫ですか!?」
駆け寄ってきた女性に、私は言った。
「警察呼びましたか?」
「はい、すぐに来るそうです!」
ならちょうどよかった。私は鞄からオレンジのスカーフを取り出した。血で汚れた、みきのスカーフ。早くどうにでもなりたかった。
やっぱりちゃんと不幸になって 島丘 @AmAiKarAi
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