異世界VS宇宙人~異世界召喚JK、チート無しスキル無しギルド無しスマホ有りでUFOと戦うハメに~

@hiromura

第1話

「…ふがっ?!…え?今揺れた?」

そこは薄暗い部屋だった。せっかくの秋晴れの日光を分厚い遮光カーテンが遮っている、寒々しい部屋。漫画や雑誌、しばったコンビニ袋が散乱した部屋で、ベッドの布団がもぞもぞと動く。

布団からにゅっと出た手が枕元のスマホを探しながら、布団は声を上げた。

「気のせいか…。ヘイ、シリアリス、今日って何曜だっけ」

「はい。今日は11月の第一火曜日です」

その声の方を布団の手がぱんぱんと探り、むんずとスマホをつかみ中へと引き入れる。

「ヘイ、シリアリス、電気つけて」

「ヒマリの部屋の電気から応答がありません」

「…えー…。家電までボクを無視するようになったんかー。つら…」

布団はぶつぶつとつぶやくと、観念して中から人間を…

吐き出さない。

布団の中の人物は往生際悪く、もぞもぞと寝返りをうつ…。

どすん!!

と、突如布団の中身がうつぶせに地面へと叩きつけられた。

「いっ……!!!たあ…!

いやいや、おっぱいあるけどさ!おっぱいにクッション性はないんだよ!むしろ痛いんだよ!

……え?なんで?やっぱ地震?」

ブツブツ言いながら、布団の中身がえんじ色のジャージに包んだ身体からだを起こす。ねぐせでボサボサに広がったミディアムボブの頭を持ち上げる。今しがたまで惰眠を貪っていた目を、まぶしそうに開けた。

「…は?え、ここどこ?!外なんだけど!」

空には一面の雲、霧、煙…そのどれか。あるいは全てが立ち込めていた。

突然の屋外。

「ヘイシリアリス!何?何が起きたの?」

「はい。質問が曖昧すぎます」

「だよねだよね!ボクもそう思うよ!ごめんね?

―てかベッド消えた?てか部屋か!部屋が消えた!」

そう、そこは屋外で、そして都市部を埋めるビル群も、地方都市を囲む山々もない、日本の風景らしからぬ平原だった。彼女はネットで見た、ヨーロッパの丘陵地帯を思い出していたが、遠くの山は斜めに流れるようなとがった形だったことが少し気になった。

「……。へー、異世界ってこんなとこなんだー。すごーい。

…ヘイシリアリス、ここどこ?」

信じ切れてない様子の半笑いで少女は周りを見回している。靴下でふみしめる枯れた草原も、彼女をなでるようなゆったりした風もリアルな感触を伝えてくる。

「はい。ヒマリ、その質問に答えるには私のカメラ権限をフリーに設定してください」

「え、何、君カメラレンズで外見られるの?そんな機能あったっけ。まあいいや、シリアリスにカメラの権限付与」

「はい、OKです。―ここがどこだかわかりません」

「そんで結局それかい。まあわかってたけど…。

ヘイシリアリス、ステータスオープン!」

「……。

ミユキツジ・ヒマリ。体重48.3キログラム。ウエストごじゅ‥‥」

「ヘイシリアリス!!ストップストップ!!なんで一番嫌なステータス情報だけ開示すんだよ!!」

「ヒマリはレベルアップしました!先週より体重がプラス0.12キ」

「シャラップ!ヘイシリアリス!シャーラップ!!

え?なに?シリアリスってこんな気の利いた返しできたっけ」

怒鳴った分でせき込んだ後、はぁ、とぼさぼさ頭を振って大きくため息をつき、改めて周りを見回した。

「…にしてもこれはマジで。怒鳴ったのに覚めないぞ。

いやいや。まさかねえ。だってボクトラックにも轢かれてないし、女神にも会ってないし。

…あははは、ないない。

でも寝てる間に麻酔打って拉致るドッキリとかないよね。昭和でもやべーし。現代日本でヒエラルキーの頂点の女子高生さまに無断で指一本触れただけでおじさんは即死するんだぞ?

マジでここ、異せ…」

そこで彼女はふと気が付いたように顔を上げる。ドドドドドのような、重く細かい振動。

地響きだ。

考えをやめて彼女はその振動の方向を、丘の向こうを見上げる。

そしてその振動の元はすぐに、正体を見せた。

野生の鹿、それに猪。…いや、鹿だろうか。猪だろうか。ヒマリの頭に浮かんだ言葉はそれらだが、鹿に似ているが見たことのない別種の動物だった。

そして、仔馬ほどもある巨大な狼らしき動物と、それに跨った―

「ゴブリン!」

むろん彼女はそんなものは初めて見る。が、どう見てもゴブリンだった。

いわゆるRPGのモンスターに驚き、どこにも無い隠れ場所を探してしまうヒマリ。

だが彼らは彼女に目をくれることもない。

それに対しても唖然とするヒマリの後ろへと向けて全員が疾走する。コースのない競争のような勢い。だがその参加者全員の顔には一切の余裕はない。途中の障害になる人間に目をくれることもない程の余裕の無さ。

「ヘイシリアリス、これってスタンピードでいいんだっけ」

「はい。大型動物等が恐慌状態になり群れなし走る状態です」

「…という事は」

彼らが逃げてきた方向を見る…いや、見上げる。一面の曇天である空に、彼女は目を奪われる。

机一面に小麦粉を敷き詰めたとする。その机の真ん中に、広げた両手を拝むように合わせたものをとん、と置く。その両手をゆっくりと広げれば、小麦粉の中から机が現れるだろう。

彼女の見上げる先で、大空で、ソレが行われた。ヨーロッパ大陸ならではの丘陵地帯特有の高い空を、満天を覆っていた薄暗い雲に一本の直線の光が引かれた。そこからゆっくりと、あたかもゴゴゴゴ…といった音を伴うように、しかし無音で、ゆっくりと空が割れた。雲が割れた。

そこは青空ではなかった。周りの暗雲と比較しなくともその明るさで真っ白に見える。四角く開かれた雲の窓から、空を眩く照らす理由がゆっくりとゆっくりと姿を見せた。

「嘘でしょ…」

野生の鹿の群れ、小さなうさぎ、見たこともない大きな猪、そしてゴブリンらしき亜人ら、動ける全ての物が逃げまどう中。それらを狂ったうように走らせる理由を彼女は呆然と見上げ、つぶやく。

「ゲーミングUFOだ…」

それは、七色に光る、飛行物体だった。

素人目にも航空力学など一切無視した形状の、まさに空飛ぶ円盤だった。

「ゲーミングとは、ゲーム用デバイスに対して用いられる表現です。それらは一般的にLED装飾を施したものが多いのは事実ですが、それでもLEDで光る事を指す言葉ではありません」

「え?いや知ってるけど…え?ボク今シリアリスに突っ込まれた?」

そこで我に返る。

「そうか…逃げないと!あれがUFOなら…!」

はっとすると同時に。UFOから一筋の光が地面に照射される。

1秒後、照射された地面が大きく、赤く光る。

4秒後、どおん、と大きな音が、振動が、ヒマリを揺さぶった。

彼女はぽかんと口をあけ、もう一度呆然とする。

ごう、と吹き抜けた風に押されるようにして、全ての動物や鳥が逃げる平原をとにかく彼女も走り出した。

無音で、一定の速度で空を移動するアレが地球人である彼女の知るものだったら…いや、架空だが、架空だが地球人の誰もが知るUFOだったなら、必ずこの星を侵略しに来たはずだ。そしてそれはさっきの爆撃が肯定していた。

「イモジャー着てて良かったけど…!パンいちで寝てなくて良かったけど!こんなの…!」

後ろを振り返り振り返り、ヒマリは半泣きで必死で走る。隠れるような森は遠くにしか見えない。逃げ込めるうような建物も見えない。後ろがまた強く赤く光る。その3秒後、轟音が到達する。

「…ヤバいヤバい!!近づいてる近づいてる!!ヘイシリアリス!音速って時速何キロ?!」

「毎秒340.29メートルです。さきほどの爆音は光ってから2.73秒でしたので発生源は約929メートル後方です」

「ありがと…って、質問の意図推測してるよね?なんで?すごくない?とか言ってる場合じゃないし!1キロ離れてないじゃんね!」

「ヒマリ、黙って走る事を推奨いたします」

「そーなんだけどね!わかるけどねー!ボクはしゃべってる方がエンジンかかるタイプだから!これ口から洩れるエンジン音みたいなもんだから!」

スマホを相手に大声でしゃべりながら走る彼女のすぐ横を、大きな生き物が土を巻き上げつつ駆け抜けたかと思うと道を遮るようにして前で止まった。

ヒマリは全力でその動物へと体当たりして止まる。じっとりと、温かい筋肉の塊に両手をついて体を離すヒマリ。それは馬だった。今度は間違いなく馬だった。

「でっか…!」

ヒマリが目の前で初めて見る馬はテレビで見てきたイメージよりもはるかに大きく感じる。そのせいもあって理解が一瞬遅れる。馬、人が乗ってる?と見上げると、エメラルドグリーンの瞳と視線が交差した。

「顔良っ?!」

馬の背には白銀の長髪を振り乱した女性が乗っていた。美人。ただただ、美人。17年のヒマリの人生で、ネットサーフィンや映画が趣味の彼女の人生でなお今までに見ただれよりも整った顔立ちだと、その意識だけに思考が支配され、またここで動きが硬直してしまう。

「え?!え?!…エルフさん?!顔良っ!!エルフさんだよね?!耳とか目とか!!やっぱ異世界…あれ、ここSF世界?!どっち?!顔良っ!!これは無課金で見ていい顔じゃないな」

「シウヴィエスタス!フレムアリモンダーナ?!」

「え…?

あーー、はい、まあ。そっすね。えへへ」

美人に真っ直ぐに目を射すくめられ声をかけられ、ヒマリが半笑いで適当なあいづちを打ってる間にも後ろで三度目の閃光が走った。

「キオディアーブレ・シチーユナビーノ」

エルフらしき女性は苦笑いを浮かべながら何かをつぶやいた。

「あ、これは悪態だわ。言葉わかんないけどわかる」

エルフは馬上から身をかがめ、つぶやくヒマリの手首を掴むと一気に引き上げて馬の後ろに乗せる。

「アルテニージ・フィクセ!」

「はは、はいいい!!」

エルフの掛け声と同時に、二人を乗せた馬は走り出し、一気にトップスピードへと加速する。ぐらんぐらんと揺れる頭を、エルフの背中に押しつけるようにして必死にしがみつくヒマリ。

「やっぱここ…異世界だよね!異世界だ!少なくともアレはCGじゃないし、特撮でもない!あんなの無理!ドッキリじゃない!

エルフさんも…こんなスレンダーな超絶美人でこんな運動能力の人がそうそういるわけがない!…本物だ!あと薄い本のエロフとか唐揚げエルフとかじゃない、オーソドックスファンタジーのガチモンエルフだ!!」

馬のタンデムに少し慣れたきたヒマリは、引き離せず、しかし追いつかれるでもないUFOを見上げながら叫び続けた。彼女は本当に口を回した方が、走るにしろ頭を働かせるにしても調子が良くなるようだった。

「ヴィフレムアリモンダーナ?!」

「顔良っ!…ヘイ、シリアリス、日本語に翻訳!」

「はい。エスペラント語から日本語に翻訳します。

―あなた、異世界人ですか?」

「うわ冗談のつもりだったのに行けた…ってエスペラント語?!異世界語ってエスペラント語なんだ?!てかなんでボクのスマホにエスペラント語の辞書データ入ってんの?デフォデータだっけ?何?ここってWi-Fi飛んでんの?Wi-Fi飛んでんの?!」

「いいえ、飛んでいません。私に搭載された5G回線やWi-Fi、ブルートゥース、GPS等全ての電波を一切感知できません。ただ、なんらかの電磁波があのUFOからは出ているようです」

「どんどん地球ではない証拠が重なって行くう!!

…いいや、それよりシリアリス、翻訳して!エスペラント語っ!」

「はい、今後同時通訳していきます」

「なんだよ、前と比べ物にならないぐらい気が利いてるな!給料3倍になったみたい。

えー、はい、ボクは異世界人です、たぶん。女神もトラックも見てないけど」

エルフは驚いた顔で少し振り返りる。

「やっぱり!妙ちきり…個性的な服だからそうかと思いました!とにかく良かったです、合流できて」

「なんだよ三中のイモジャーがダサいと言いたいのかこのエルフさんは!ダサかろうとも!」

「イモジャー?」

「それより逃げ切れるの?!UFO引き離せてないけどさ!」

「UFO?あれはUFOというんですか?」

「UAPでもいいけど、UFOでいこう!逃げ切れない!」

「大丈夫、ほら砦が見えてきました、見えますか?」

「…あ、ホントだ!!見えてきた見えてきた!

そうだ、着く前にちょっとおっぱい揉んどいた方がいいかな。これだけ揺れてたらバレないよね」

「ヒマリ、翻訳しますか?」

「いらん!絶対するな!さっきの薄い本エロフとかも絶対訳すな!」

「ウスイホンエロフとは、の検索にセーフロックがかかっています。解除するには…」

「いい!いい!ご本人前にしてそんなの検索しなくていい!あ、ちくしょう革鎧着てるからおっぱい硬いや」

「一人でうるさいですよ、異世界人。異世界人はみんなそうなんですか?」

カッ、と、後ろで閃光が走った。今までのものよりも強い。そして同時に、砦で爆発が起きる。西洋城らしい石壁が、城壁の一部が砕け散る。

まだミニチュアのように見える距離だが、ゆっくりと舞い上がる城壁の石材に、その巨大さがわかる。数秒後に、爆発音と振動が届いた。

「これは…無理でしょ…。

え?!狙われてるよね、砦!行くの?!マジで?!」

「そりゃ行きますよ!それより異世界人さん、あのUFO?の…」

「御幸辻陽真里!はじめまして!みゆきつじヒマリって言います!17才O型!」

「あ、はい、ヒマリさん!私はエールマリルスュール・ロアナ=ソレル・ラボーゾエルリレーヌ=カルフォンスです。エルマリと呼んでください。ヒューマンの方にはこの発音が難しいそうですからね。―どうせ」

「…なんかちょいちょいトゲあるなこのべっぴんさん。あ、これ訳さないでね」

「とにかく、あのUFOを倒せますか?!」

「え、何それ、ボクUFOスレイヤーになるために召喚されたんだ。魔王じゃないのか。ホテルの部屋にGが出ただけで呼ばれるルームサービスより雑じゃね?」

「倒せます?!あるいは追い払えますか?!」

「いやぁ…どうかなあ?今ちょっと体調悪くて。本調子ならUFOぐらい一発なんだけどなー。ごめんね?」

「あれに、UFOにドワーフの王国は滅ぼされました。オークの国も、北方のリザードマンの国も、ヒューマンの小国もふたつ消滅しました」

エルマリと名乗ったエルフは振り返ることなく、前傾姿勢で前を見据えたままヒマリに言う。

「…思ったより状況がひどい。指示もひどい。こんなひどい指示は転生もののなろう小説でしか見たことないよ。あ、いいのか」

その間にも馬は大地を蹴り続ける。後ろが光り、石造りの城壁がさらに炎上する。爆音はそのすぐ後に届く。

エルマリの細い背中ごしに砦を見やれば城壁の上に人が走り回っているのがわかる。その砦から何かが飛んでいく。

ヒマリは砦を見上げる角度のまま、自分たちの後ろへと首を回しておいかける。ゆっくりと、確実に10本の矢と4つの石が飛んでいく。

「ヘイシリアリス!バリスタとカタパルトだよ!すげえ」

「はい。バリスタ。古代から中世にかけて欧州で用いられた巨大な弩弓砲の一種。カタパルト。石などを投擲し、敵の人馬もしくは城などの建築物を攻撃する兵器」

「…シリペディア、攻撃半分ぐらい当たったけど全部軽く弾かれてるね」

「私の名前はシリペディアではありません。砦まで300メートル、後ろのUFOまでも500メートル。800メートルの距離で全長約15メートルの飛行物体に半数が命中するのは見事です」

「あ、音が聞こえた。ごいーん、だって。まぁこの距離だと貫通無理か…」

城壁はもう近い。4基のカタパルトと大きな柵が配備された前線を、エルマリの馬で駆け抜ける。

城壁のバリスタの巨大な矢と、前線のカタパルトから投げ出される直径1メートルはある巨石が発射される。目の前で見るとそれは戦車にも劣らない迫力に思えたが…またしても容赦なく背後が光る。そして、城壁に三度目の爆炎が上がった。

二人を乗せた馬は前線の柵を駆け抜けるが、そこは馬上の二人には会話も難しいほどの騒乱状態になっている。カタパルトを操っていたドワーフら、騎士鎧を着た人間の戦士団、そして、ゴブリンやドワーフ同様に初めて見るヒマリにも説明なしでもすぐにわかるその存在。オークの兵団だ。それらが炎上する砦の前で走り回っている。

一部の者は怒りにまかせて弓を打つ。魔法の矢を飛ばす騎士もいる。だが、見るまでもない。数百メートルまで近づいてきたUFOにもそれは届くかも怪しい。灯籠の斧とはまさにこの事だった。

「でも、みんな逃げてない…!異世界すごいな」

「逃げる場所などありません!ここが、逃げてきた場所です!ここで!食い止めます!

…開門!エールマリルスュール戻りました!異世界人と一緒です!開門!」

ヒマリは思った。なぜ自分だろう。女神には会っていない。伝説の剣はもちろん、チートも何ももらってない。何よりもボクはただの引きこもりだ。特技なんて何もない。UFOだって映画やテレビの中でしか見たことがない。倒せるわけがない。ごめん無理だから帰るねーって言える場面でもない。


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ぜひ読んでやってください!

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