第5話

彼(いや、彼女か?)は驚いて、目をまん丸くさせながら、やがて、


ポロッと涙を溢した。


僕は、彼女の複雑そうな胸の内や恋バナに、俄然、食指もとい興味を惹かれたが、


否、長くなりそうだから首を突っ込むのはやめておいた。

彼女自身、今まさに暴風雨の最中を彷徨っているのかもしれない。


「お客様。当店のチョコレートは、大義の愛に万能です。


何も、異性との愛や、他者との愛ばかりに効くわけではありません。


どうか、ご心配なさらずに、自分らしく。

沢山悩んでも必ず、良い方向へ向かいますよ。」


僕はそう言うと、

紙袋にシエラネバダの箱と、もう一つおまけで、裏メニューのチョコレートマフィンも入れてあげた。


「チョコレートをご自分で召し上がる前に、こちらのおまけのマフィンを先に食べてください。


本当に一つになりたい人が、分かりますよ。


それが同級生なのか、自分自身なのか、又は別の誰かなのか、

このマフィンが教えてくれます。」


彼女は、ゴクンと美しい喉を鳴らし、

短い髪を掻いてから大きく頷くと、

会計を済ませて出て行った。


僕は、

人間の心とは、かように複雑で、

自己中心的で瑞々しく、

また何とも愛らしい存在であると再認識したんだ。


そして困難であろう彼女の人生に、

幸あれ、と願った。


fin



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショコラティエ・マジックポーション つき @tsuki1207

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ