第3話
人間を食べたことにより、経験値がものすごい勢いで溜まっていた。
ステータス画面を確認すると、レベルは30/30となっている。
さらに、スキル覧に二つしかなかったスキルがすごい数になっていた。
スキルを持つものを捕食すると、その者が持っていたスキルを獲得できるのだろうか。
疑問は尽きないが、とりあえず一つずつスキルの確認をしていくことにした。
人間を捕食して増えたと思われるスキルは5つ。
「威嚇」「剣術Ⅱ」「回復魔法Ⅲ」「弓術Ⅱ」「火魔法Ⅱ」
剣術と弓術はこの蛇の身体には無用の長物だが、回復魔法、火魔法は素直に嬉しかった。
さらに、レベルアップで増えたスキルが3つ。
「感知Ⅰ」「麻痺Ⅰ」「悪意」
感知はきっとよくある探査系の能力だろう。
麻痺に関してはよくわからないが、多分相手を痺れさせて動きを止めるスキルだろうと思われる。
三つ目の悪意はちょっとよくわからない。
そして、ステータス画面にはもう一つ追加で表示されているものがあった。
『進化』
これはきっと、種族としてワンランク上に進化できるものだ。
レベルも30/30とカンストしていたところを見るに、進化条件を達成していたのだろう。
俺は迷わず進化を選んだ。
すると、そこには二つの選択肢が現れた。
『ビッグホワイトサーペント』『イビルサーペント』
ビッグ系になるのはきっと順当進化なのだろう。
しかしもう一つのイビルってなんだ。
英語だと邪悪とかそういう意味だったように記憶しているが…。
そこまで考えてスキル悪意の存在を思い出した。
気になって悪意のスキルの説明欄を開く。
『純粋な悪意』
なんだこれは、説明になってないじゃないか。
説明欄を閉じ、また進化のウインドウを開く。
こういう時に進化ツリーなんかが見れると大変助かるのだが、ゲームではないのでそんな便利機能があるわけでもない。
でもこのイビルサーペントは悪意を持っていないと進化できない、特殊条件下での進化形態なのだろう。
ビッグサーペント系列で進化をしていくと、きっとどこかで進化の可能性が止まってしまう。
直感的にだがそう感じた僕は、イビルサーペントへの進化を決意。
その瞬間、僕は光に包まれ意識がそこで途切れた。
***
どれくらい眠っていたのだろう、気づいたときには日は落ち、満天の星空が広がっていた。
身体は動く。
自分の身体を見ると白い体の色は変わっていなかったが、ところどころ波状の黒い模様が増えていた。
身体もかなり大きくなっているようで、目測で5.6mくらいはあるのではないだろうか。
気になってステータス画面を確認。
レベルはリセットされ、1/50と表示されている。
進化により、レベルリセット、レベルキャップの開放が行われていた。
スキルはそのままの据え置き、だが悪意のスキルだけが名称が変わっていた。
『悪の化身』
思った通り、イビルサーペントへの特殊進化条件に悪意が必要だったようだ。
スキルは進化…をしているが、相変わらず説明は雑だった。
『純粋なる悪の化身』
ここまで来るといっそ清々しい。
説明放棄もいいところだ。
進化により疲労感も回復しており、僕は早速進化した自分の力を試しに魔物を探して森の中を進んでいった。
***
今まで少し苦戦していたオオカミの群れを見つけた。
とりあえずヴェノムショットを打ち込む。
以前までは当たったら溶かす、くらいの威力だったものが
オオカミの身体を消し飛ばせるほどの威力になっていた。
これは期待ができる。
早速覚えたての火魔法も使ってみる。
呪文も詠唱も知らないので、とりあえず火の玉を出して攻撃するイメージで魔法を発動。
イメージ通り、オオカミサイズの火の玉が飛んでいく。
火の玉が着弾し、大きな爆発を起こしてオオカミは倒れた。
毒魔法以外が使えたことに僕は興奮し、火魔法を乱発しオオカミの群れを一掃。
経験値は入るがレベルは1つも上がらなかった。
これはそろそろ、リベンジをするべき時だろう。
以前ぼろ負けしたクマを探してさらに森の奥へと足を勧めた。
***
森を彷徨うこと数時間、クマは一向に見つからない。
感知を発動しながら探しているのに全くもって引っかかる気配がない。
しかし、行幸と言わんばかりのものを見つけた。
魔王軍側の野営地だ。
多くの魔物や魔人たちが感知に引っかかった。
いきなり近寄って殺されるのは嫌なので、木の上から偵察。
負傷者も多く皆が疲弊していた。
そんな中、見覚えのある後ろ姿がテントのから出てくるのが見えた。
シェラハさんだ。
僕はまた彼女を見ることができて嬉しくなり、魔人たちの前に出て行ってしまった。
僕の姿に気づく魔人たち。
「隊列を組め!イビルサーペントだ!!!」
案の定警戒され、戦闘になりそうになる。
僕は戦闘の意思がないことを示すため、身体を転がしおなかを見せる。
それでも、警戒は緩まず攻撃される。
僕は抵抗せず、回復魔法で瞬時に傷を回復させていく。
「何事だ。」
凛とした声が野営地に響く。
「ま、魔王様!下がってください!イビルサーペントです!」
シェラハさんだ。
僕は彼女が目の前に来てくれたことで、身体を翻し、ゆっくりと彼女に近づいていく。
「魔王様!」
「私が蛇に負けるわけないだろう、何よりこいつは戦意がないではないか。」
身体を立たせ、彼女に目線を合わせる。
鋭い目つきでこちらを見てくる彼女。
僕はゆっくりと彼女へと顔を寄せ、頬ずりをした。
「君は…、まさかあの時のホワイトサーペントか…?」
数週間は経っているというのに気付いてもらえた。
それが嬉しくて頭を彼女に擦り付ける。
「ははっ、こら、やめろ。もう、くすぐったいぞ。」
彼女も再開を喜んでくれ、僕の頭を撫でてくれる。
「姿かたちが変わろうとも、君の魂は変わっていないな。」
優しい目をした彼女はそう語りかけてくる。
僕はもっと彼女に喜んでほしくて、負傷兵のもとへ移動する。
「君、何を…。」
回復魔法を使って負傷しているゴブリンと思われる兵士を治癒する。
「お、おれは…、傷が治ってる!て…い、イビルサーペントぉ!????」
彼は僕を見た瞬間叫び声をあげる。
「大丈夫、悪いやつじゃない。この子がお前の傷を治したんだ。」
シェラハさんからのフォローが入る。
それから負傷兵を集め、回復魔法で兵士の治療をして回った。
「ありがとう、君のおかげで一命をとりとめることができたものも多い。魔王として感謝する。」
シュルシュルという音で返事をする。
「よかったら、なんだがな…君も一緒に人間と戦ってはもらえないだろうか…。」
彼女から頼られた、その事実が嬉しくて僕は首を縦に振った。
「ふふっ、言葉が分かるのか。君は賢い子なんだな。」
僕の頬を撫で、現在の人間との情勢を彼女は教えてくれた。
ここは大陸最東部に存在する魔王国。
魔王シェラハは人間との融和を望んでいるのだが、それを許さないルグメテニア聖国という国があるらしい。
かの国では、聖教として魔物排斥の教義を掲げている。
エルフや竜族のような亜人に近い種族も存在するようで、それらの種族は魔族に対して友好的であるという。
しかし、亜人種は人間の国では奴隷として扱われており、多くの獣人やエルフなどが慰み者にされているそうだ。
魔物は悪、魔物は人間に害を与えるとして魔王国と戦争を長年続けているそうだ。
ただ他の国はそう言うわけでもなく、魔王国には貴重な魔石資源が豊富にあるということで、周辺諸国も連合を組んで魔王国に攻め込んでいるとのこと。
中には異世界から召喚された勇者も存在し、近年では魔王軍の劣勢が続いているそうだ。
そこまで聞いてなんとなく世界情勢を理解した僕。
これは人間側が一方的に仕掛けてきている侵略戦争なんだ。
シェラハさんは何度も和解を申し出たそうだが聖国や周辺諸国はそれを拒否、現在のように泥沼化してしまっているのが現状のようだ。
心優しいシェラハさんがいつまでも無理な戦争を続けるのは僕も心が痛む。
世界平和なんて大層な理由じゃない、彼女を助けたいその一心で、僕はシェラハさんに協力しようと誓った。
***
皆が寝静まった後、僕は森へと繰り出していた。
感知を広げ、あのクマにリベンジを果たすためだ。
30分ほど進んだところで、あのクマを見つけた。
不意打ちなんて卑怯なことはしない。
正々堂々正面から戦う。
なんせこれはリベンジマッチなのだから。
僕を見つけたクマは、以前のように襲い掛かってくる。
火魔法をジャブで飛ばしてみるも全く聞いていない。
大きくなった体躯、素早くなった動きを生かし、クマを拘束する。
首筋に毒牙を突き立て、身体にじわじわとと毒を流し込んでいく。
また、麻痺のスキルで行動を抑制する。
クマは力を振り絞り、僕の拘束を解こうとするが麻痺と毒のせいでうまく力が出せていない。
ここまでか。
僕はヴェノムショットをた頭からドロドロと流し、クマの身体を溶かしていく。
あんなに強く、歯が立たなかったクマがこんなにあっさり倒せるようになるとは。
身体から露出した魔石を喰らい、自分の糧にする。
リベンジマッチはこうしてあっけなく終わってしまった。
「見事だった。」
後ろから声が聞こえた。
シェラハさんだ。
「因縁の相手だったのだろう?」
僕は小さくうなずく。
「前はあんなに小さな蛇だったのに、今ではこんなに大きくなって…。Aランク相当のブラッドベアーまで倒せるようになるなんてな。」
あのクマはブラッドベアーというのか。
それにしてもAランク相当ということは結構僕も強くなったんじゃないだろうか。
シェラハさんは感慨深そうな表情を浮かべている。
「イビルサーペントは個体数も少ないが、その凶悪性も相まって皆から恐れられる存在だ。だが、君は心優しいイビルサーペントだ、他のやつとは何か違う。どうだろう、私と一緒に来ないか?」
彼女の方から傍に置いてくれるなんて思いもしなかった。
どんな形であれ、彼女を陰ながら支えたいと思っていたので、その誘いは渡りに船だった。
これで大手を振って彼女のそばにいることができる。
僕は彼女に寄っていき、頬ずりをする。
「そうか…、私たちと一緒にいてくれるんだな。ありがとう。」
彼女も嬉しそうに僕の頬を撫でてくれた。
「それなら種族名で呼ぶのも気が引けるな…。君に名前を付けてあげたいんだがどうだろうか。」
頷き、肯定の意を伝える。
「そうだな…。リヴ、なんてどうだろうか。」
どんな名前でも、彼女につけてもらえるなら何でもよかった。
「昔、私を助けてくれた白蛇がそんな名前だったんだ。もう亡くなってしまったけどね。君には彼女と同じ優しさを感じた。だからこの名前を君に受けついでほしい。」
そんな意味が込められているとは思わなかったが、かの白蛇に変わり彼女を守るため、その名前を受け入れよう。
「よければ、ここに。」
そう言って彼女は手を伸ばす。
僕はその手に頭を持っていく。
彼女の手に触れた瞬間、何らかの魔法が発動した。
「これで、契約は終わりだ。リヴには私の加護を授けた。加護といっても、お互いの位置が分かるくらいだけどな。あとは少し魔法に耐性ができる。」
これで一心同体だな、と笑うシェラハさん。
「そう言えば、リヴは念話は使えないんだな。ちょっと待ってて。」
シェラハさんは腰のポーチを探って何かを探している。
「ん?あぁこれか?魔法のポーチでな、空間魔法がかかっていて、なんでも、どんな大きさの物でもしまうことができるんだ。」
異世界ファンタジーで定番の魔法のカバン。
こんなところでお目にかかれるとは思ってなかった。
ちなみにこれ一つで城一つ建てれる金額らしい。
そうして彼女が取り出したのは、一枚の羊皮紙。
「これはスクロールと言ってな、使い切りなんだが書いてある魔法を瞬時に習得できる優れものなんだ。」
これも結構値が張るんだろう、そう思いながら話を聞いていた。
「さ、これに書いてある魔方陣に魔力をこめてくれ。」
僕は言われた通り、その羊皮紙に書かれた魔方陣に魔力をこめていく。
魔法発動の時とは違って、魔力だけを操作するのがなかなか難しい。
魔方陣が光り、羊皮紙がボロボロと灰となって消えていく。
『これで、念話が使えるようになっただろう。話せるか?』
頭の中に直接言葉が聞こえてくる。
何とも不思議な感覚だった。
『あー、あー……大丈夫、みたいです。』
『君とこうやって話ができるようになって嬉しいよ、リヴ。』
『僕も嬉しいです、シェラハ様。貴重なものを使っていただいてありがとうございます。』
『様はやめてくれ、どうせ私にしか聞こえてないんだ。もっと砕けて話してくれていい。』
『わかりました、シェラハさん。あなたに救っていただいた御恩は必ず返します。どうか僕の忠誠を受け取ってください。』
『君は本当に不思議なやつだな。知性もかなり高いようだし。うむ…、いいだろう。君の忠誠を受け入れよう。』
『ありがとうございます。』
君は私をおいて逝かないでくれよ…、と小さくシェラハさんが呟いたのが聞こえた。
***
魔王に恋した天魔の蛇 はるまげ丼 @harumagedon0323
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