結 今日のこと、絶っっ対に忘れないでね(*^-^*)
稀代のメンヘラ自殺系アーティスト、絶対メンヘラ少女ベルちゃん。そのベールが遂に脱がされるとあって、ネットは大盛り上がり。
放送前に、番組はベルちゃんから貰ったメッセージを公表した。
『今まで動画で映っていた女子高生は私本人です。実際に焼かれたりしています』
あの女子高生がベルちゃんと分かるや否や、その反響は凄まじかった。一つの謎が解けたことに喜びの声を上げる者もいれば、ベルちゃんガチ恋勢を名乗る者も多く現れた。
また制服が特定された高校にまたしてもベルちゃんについての問い合わせが殺到したが、高校側は「分からない」の一点張りであった。
生放送は本人の希望であり、内容は『自殺』と公表された。
テレビ局が大々的に宣伝したこともあって、いったいどれほど大胆なパフォーマンスが行われるのかと、大勢の人が放送を心待ちにした。
そして生放送当日。多くの人が固唾を飲み、画面に釘付けとなった。放送前からトレンドもベルちゃん関係で埋め尽くされている。
放送が始まり、司会は軽快な口調でベルちゃんを呼ぶ。ステージ奥のカーテンがめくられ、遂に絶対メンヘラ少女ベルちゃん本人が顔を明かした。
その姿は、どこにでもいる女子高生であった。動画で見慣れた制服を着用し、始めて明かされた顔はいたって素朴。眉一つ動かさない静謐な面持ちのまま、司会横の椅子にベルちゃんは腰かけた。
ネットでは早くもその若さに驚く声で溢れ、またその素朴な顔もタイプだと興奮する声も上がる。
司会は彼女に尋ねた。
「どうして投稿を始めたのですか?」
ベルちゃんは答えた。
「自傷行為を見てほしかったからです」
冷たくどこか会話になっていない、そっけない返し。しかしそれこそ神秘的な彼女のイメージに合っているとの声がネットに上がる。
司会とベルちゃんの静かな問答は数分続き、いよいよ本題へと突入した。『自殺』だ。
司会の合図と共に複数人のスタッフが運んできたのは、大きな絞首台だ。
足場の高さは8メートル程。縄を首にかけ足場を開くことで落下し、首を絞めるという仕組みだ。
ベルちゃんは無言で階段を上る。その様子をカメラが追っていく。一歩一歩彼女が階段を昇る度、視聴者の期待は膨らんでいく。
昇りきったベルちゃんは縄を首にかけ、横のレバーに手を添えた。このレバーを引けば足場は開き、彼女の首は絞まる。
さあいよいよかと誰もが期待したその時、絶対メンヘラ少女ベルちゃんは目の前のカメラに向けて語り始めた。
「私は辛かった。悲しかった。それを誰かに知ってほしかった。ただそれだけだったんです。だから自傷行為をネットに上げたんです。だけど、誰も私のメッセージを正しく受け取ってくれなかった。どれだけ私が傷ついても、誰もちっとも心配してくれなかった。どんなに痛いことをしても、誰も心配してくれなかった。もっと痛くしても駄目だった。もっともっと痛くしても無理だった。もっともっともっともっともっともっともっともっともっと痛くしても」
虚ろな目で、彼女はゆっくりレバーを引いた。
「だから私は、死ぬことにしました」
足場が開き、彼女は落下。床すれすれで彼女の体は止まり、吊られた彼女の姿は舞台の中央、画面の真ん中に映し出される。
数分ゆったりと揺れるベルちゃんが、そのまま流された。流石に不審に思った司会が彼女に問いかける。しかし返答は無い。どれだけ声をかけても、彼女はただぷらぷらと揺れるだけ。
一人のスタッフが慌ててベルちゃんに駆け寄る。ロープを切り彼女を床に寝かせる。
その後青ざめたスタッフが次々と舞台に上がる様子を最後に、放送は打ち切られた。
後日、絶対メンヘラ少女ベルちゃんの死亡が公表された。
ネット上では彼女が自殺した理由について様々な憶測が流れた。
曰く、死によって自らを表現したクレイジーな芸術家だった説。
曰く、真のベルちゃんが裏にいて、実際の女子高生を使った説。
曰く、メンヘラを名乗るうちに本当にメンヘラになってしまった説。
多くの謎を残したままこの世を去った彼女。しかし明かされたこともある。
彼女の正体は、制服が特定された高校の生徒、北原鈴であることが分かり、拡散された。
高校には連日報道陣や野次馬が押し寄せる事態となり、高校が休校措置が取る程の騒ぎとなった。
またそれに伴って、新たに生じた謎もある。
彼女、北原鈴の家庭は裕福ではない、むしろ貧しいということが判明した。しかしそうなると、どう考えても今までの作品を創作できるほどの予算を持ちえないのだ。
切り落とした腕は? 酸で溶けた背中は? 彼女を食べたヒグマは? いったいどうやって用意したのか。
これらの謎は、決して明かされることはないだろう。
なにせ、どれもこれも画面の向こうの話なのだから。
絶対メンヘラ少女ベルちゃん 浦瀬ラミ @big-bird-joy
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