転 私はこ~んなに傷ついてるんだよ?(*´з`)

 モザイクもセンシティブ設定も無く投稿された、あまりにもショッキング過ぎた画像。右腕の切り口には骨も露わとなっており、切り落とされた腕は血みどろの床に無残に転がっている。

 この一枚の写真は大きく注目を集め、以前にも増して大幅に拡散された。いいねは7万、リポストは4万を超える大バズりとなった。しかし、誰もこの写真を真に受けてはいなかった。

 当然といえば当然である。多くの者がアートだと認識し、その精巧さに舌を巻いた。またある者はこのグロ画像をそのまま垂れ流すことを問題提起し、また少数ではあるがこの写真は本物であると疑う者もいた。しかし、その疑いもすぐに論破されることになる。

 件の腕斬り写真から二日後、とある写真が投稿された。その内容は、右腕に太い釘が何本も刺さっているというものである。当たり前だが、切り落とされた腕が再生する人間はこの世にいない。

 この画像をきっかけに、ベルは一種のアーティストとして認知されていった。連日投稿される凄惨な体。ミンチになった腕、焼けただれた足、酸で溶けた背中。

 それらは全て本物かと見紛うような出来であり、彼女は美術スタッフを本職にしているという説が濃厚になっていった。

 しかし内容が内容であるため、ベルのアカウントは何度も削除された。しかし数時間後には復活し、また傷だらけの体を投稿していった。

 そんなベルだが、世の中誰もが同じ話題に長く興味を持つことは無い。やはりベルのブームも徐々に下火になってきた。だがそんな折、ベルのアカウントに動きがあった。

 写真ではなく、動画が投稿されたのだ。

 その内容は、飛び降り自殺だった。

 制服姿の女子高生が、五階建ての建物から飛び降りるという内容。落下した女子高生の肉片が飛び散る様子までしっかりと収められており、そのグロテスクさは過去一であった。

 同時にそのあまりのリアリティに、何人かの映画関係者も称賛のコメントを送るほど注目を集めることとなった。

 それからベルのアカウントは動画へと軸を移すことになる。

 内容は全て女子高生が死ぬというもの。ある時はガソリンを被り焼身自殺。またある時は鉄骨の下敷きになり、またある時はヒグマに食われる。その大がかり且つハイクオリティな内容に反して、投稿は毎日欠かさず。ベルへの注目は衰え知らずとなった。

 動画に映る少女は角度や明るさで顔が見えないが、全て同一人物であり、彼女がベル本人なのか、それとも役者を雇っているのかという議論も白熱することとなった。

 前代未聞のメンヘラ自殺系アーティスト、ベル。フォロワーが百万人を突破する頃には『絶対メンヘラ少女ベルちゃん』という異名がつき、人気インフルエンサーの仲間入りを果たした。

 ただ二点ほど、絶対メンヘラ少女ベルちゃんには問題があった。

 まず毎回登場する女子高生であるが、いつも同じ制服であり、その制服が実在の高校と一致するという点である。

 その高校には何件も問い合わせが届くという実害が生じたため、彼女のリテラシーを批判する者も一定数存在していた。

 そしてもう一点は、やはりそのショッキングな内容を垂れ流すだけあって、何度もBANされているということである。それでも彼女はやはり数時間で復活を果たす。それは出始めから変わらないのだが、彼女をフォローしているユーザーはこう口を揃えた。

『いつの間にか復活したアカウントをフォローしていた』と。

 黒い噂を纏いながら日々注目を集める彼女。そんな彼女に取材を試みる記者も多いが、どれだけ連絡を取ろうとしても返事は無し。そんな彼女のミステリアスさも魅力の一つであった。

 しかしある日、ネットは騒然とした。

 とあるテレビ番組の生放送に、ベルが出演するというのだ。

 発表されたその日、トレンド一位は『絶対メンヘラ少女ベルちゃん』となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る