承 なんでそんなこと言うのぉ?( `ー´)ノ
北川鈴の一日は、忍耐である。生活の不自由に耐え、母親からの恐怖に耐え、クラスメイトからの蔑みに耐え、将来への絶望に耐える。
耐えた先にあるのは、また同じく耐え続ける一日だ。しかし鈴はそれでも、そんな一日を幾度も耐えてきた。
だから、自分に限界が来るだなんて鈴は考えたことも無かった。
『こいつ絶対トー横キッズだろ』
『じゃあ引っ掻くな定期』
『インターネットやめろ』
帰宅してXを開いた時、見たこともない量の通知に一瞬心を躍らせたのがうかつだった。昨日のポストに対して鈴を案じる引用やコメントは一つも無い。あるのは嘲笑だけ。普段の教室と変わらない話の通じなさ、捻じれた意思の疎通。鈴の唯一の逃げ場さえ、歪んだ人達が蔓延ってしまった。
鈴を辛うじて支えていた細い柱が、いとも容易く折れるのが分かった。自分は害虫みたいな人を引き寄せる運命なのかもしれない。そんな望まない才能を目の前に突き付けられる。
貯め込んでいた負の感情が瞳からボトボトとこぼれ落ちていく。
怒りに任せ、昨日よりも深く腕を掻きむしった。自分が与える痛みなんて大したものではない。他人から一言罵られる方が何倍も痛い。
赤く腫れ血も滲んだ腕の写真を、鈴はXにあげた。
こんな風に受け取られるのは、自分の苦しみが伝わっていないからだ。実際に傷ついた肌を見せれば、自分の苦しみが分かってくれるはずだ。
しかし、それは完全に間違っていた。
その写真はまた拡散され、過去の発現も掘り返され、『ベル』というアカウントはじわじわと話題になっていった。
もちろんベルを慰める声は一つも無い。絵に描いたようなメンヘラ女として嘲笑の的となっただけだ。
鈴は怖かった。自分の意図をここまで誰も汲み取ってくれないという現実に。
次の日は四肢を掻きむしり、四枚の写真をポストした。
また拡散された。
また次の日、鈴は初めてリスカをした。
これも拡散された。
その後、体の傷が母親に見つかり、何度も何度も殴打された。
その傷も投稿したが、また拡散された。
数日後、アカウント『ベル』は利用規約違反で削除された。
一部の界隈で耳目を集めたメンヘラ女、ベル。
垢BANで幕引きかと思われたが、まさかの形で彼女は帰ってきた。
垢BANから三日後、『ベル』と名乗るアカウントが一枚の写真を投稿した。
右腕が切り落とされた写真を。
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