魔法が使えると思ったら、そこは魔法という法律のある世界でした

タツタ

プロローグ

拝啓 そちらはいかがお過ごしでしょうか。

私は今見知らぬ地にて鬼教官2人にシゴかれています。時々故郷を、懐かしく感じますがもう会えないと分かっていてもこうして手紙を書かずにいれません。

お母さん、お父さん今まで育ててくれてありがとうございます。

いきなり居なくなってびっくりさせてしまいましたでしょうか。ってそんなこともないか。実はですね、私は、今大学から離れ鬼教官たちからの厳しい訓練や勉学に励んで………







「ギャァァァァァァァァ」

僕は書いていた手紙を真っ二つに破り発狂しながら机から飛び跳ね駄々をこねる子供のように床に転がった。幸い防音の部屋だったため部屋にこだまするだけであり、それが返って自身の羞恥心をより刺激することになる。少しして頭が冷えたので、机にいそいそと戻りさっきまで書いていた手紙を見つめる。


「ハァァァァァ。せっかくの休日で暇だからこうやって手紙でも書いて気を紛らわせようとしたのにダメだ恥ずか死ぬ。はぁ………とりあえず誰にも見られない内にこれは捨てよう」

そうして手紙をクシャクシャに丸めゴミ箱に捨てようと手に取った時‥‥‥‥

「何をしてるんだい?」


後ろからの声に僕は、時が止まったかのように動けなくなった。いや正確には壊れかけのおもちゃみたいに、ぎこちなく首を回すことは出来た。

「イッ‥‥タ‥イ‥イツカラ?」

僕は嫌な汗を出しながら恐る恐る訪ねる。するとそいつは、演技っぽそうに口に手を当てながら考えた振りをしつつ僕の顔を覗き込むかのように、見て……


「君が床に転がりながら発狂していた時‥‥」

と平然と答える。僕は思った「いやそれなら声ぐらいかけろよ」と。だが僕が同じ状況に出くわした時どうする?大の大人が自分の部屋とはいえ床に転がりながら発狂しているとしよう。うん‥‥‥‥無理だな。と言うか下手したらそのままそっとドアを閉めて何も見なかったことにするかもしれない。それぐらいには痛々しい光景である。なんなら声を掛けてくれたことに感謝しなくては‥‥‥‥いやそれは無いな。うん。と言うか、そもそもノックもせずに入る事自体あれなのだ。そうだノックしていない方が悪いのだ。これは少し言ってやらないと。少し前の自分の所業を無かったことにし心の中で固く熱い決意をし、いざ向かい合うが………


「あの‥‥‥‥なんでここに?」

言えねぇ――。コミ障のせいで言えないよ。無理だよ無理無理無理。あんな姿見られた後に「勝手に部屋に入ってこないでください」なんて言えるわけない。今まで話してきたのは、親か教師ぐらいしかおらず今まで友達というものが居らず、バイトでさえも同僚と挨拶ぐらいしかしてこなかった僕が年上相手にそれもこの国随一の研究所の所長に強く出れるはずがない。と、手を血が出るのではないかと言うくらい強く握りしめつつ、額から雨のような汗も出しつつ小刻みに震えている僕を横目にその人は話す。


「いやだって時間になっても教室に君が来ないから、まさか夜更かししてまだ寝ているんじゃないかと思ってね。ノックをしなかったのは謝るがまさか転がっていたとは思わなかったよ。ふっ」

と、謝罪の意思はほとんど見受けられずあまつさえ鼻笑いまでしていけ好かない態度なのだが、顔が無駄に整っているだけに絵になっており、男の僕でさえも見惚れるくらいであった。まぁこいつの中身を知ってからはそんなことは無くなったのだが。

「今日は休日じゃないですか。休日くらい休ませてくださいよ」

「ほう~文字の読み書きや、お金の計算もまだできていないお前に休日とは‥‥‥‥なるほどこれがニホンジンなるものか興味深いな」

「何でもかんでも日本人だからと決めつけないでください。それに、僕よりも真面目な人の方が多いですから。と言うかこうして会話ができてるんだから良いじゃないですか。」

「知らん。お前しかサンプルが居ないのだ。私は実際に見たものしか信じないってお前も知っているだろう?あと会話ができていると言うが、異世界人なのになぜ我々との意思疎通が可能なのかのメカニズムが解明できとらんのだよ?ある日突然会話ができなかったら貴重なモル……じゃなかった君も困るだろう?」

「おい、今モルモットって言おうとしただろ。」

「チッ。うるさいな四の五の言わず付いてこい」

首根っこを捕まれたので、まるでお菓子を買って貰えなかった子供のようにじたばたと抵抗したものの、力強く掴まれた手と怒りが籠った眼差しを受け、萎縮し、なされるがままに引っ張られた。廊下に出るといつも通り真っ白の制服を全身にまとった職員たちが横切っていく。僕を見て嘲笑したり、所長と一緒にいることが気に食わなさそうに見ていたりと、なかなかのヘイトが向けられていた。





「なんでこうなったんだろう」

そんな視線を晒されながら、教室まで引っ張られている時、故郷に思いを馳せながら小声で放ったこの言葉は誰にも聞こえず、ただ僕の心に問いかけるかのように僕の中に響いていくのを感じながら、あの日を思い出す。 ここに"始めて来た日"のことを…………









「嗚呼、ちなみにさっき破ってた手紙は研究のために回収させてもらうからね。こればかりはきみに感謝するよ。おかげでニホンゴの研究がまた捗る」




(クソ。やっぱり書くんじゃなかった。)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る