後編

紗希さきの予想は結果として当たっていた。

 展望塔のテラスには、マコト達が探していた案山子がいたのである。

 しかしそれはもう、案山子とは呼べない状態になっていたが。

「これはこれは……人間なら頭蓋骨陥没と脊椎損傷と言うべき状態だ」

 先ほど倫理りんりが見ていた航空写真の画像では、この塔は穴の空いたドーナツが塔にすっぽりと刺さったような形状をしていた。そのドーナツの部分がこの展望デッキである。

 もしかしたら劣化のせいで危険なことになってるんじゃなからろうなとマコトは考えてもいたが、雨風に打たれ手入れもされていないにも関わらず、足場や落下防止の手すりなども、かなり状態はよく保たれているように見えた。

 階段を登った先の半円。そこから眼下に望める景色を楽しみながら探索していたマコト達は、塔の頭を挟んだ反対側で、それを見つけた。

「娘から話を聞いた時は半信半疑だったが、どうやら本当にここに来ていたようだな」

「というと、これがその案山子……ですか」

 紗希の言葉に宮前みやまえさんのお父さんは、神妙な面持ちで頷いた。そんな表情になって当然だろう、昨日まで会話を交わしていた存在が、こんな姿になっているのだから。

「上空から落とされたんだろうな。これが地面だったらもしかしたら無事でいられたのかもしれないが、ここみたいに硬い場所に落ちてしまってはな……」

 今朝、スズメに連れ去られた後、案山子は高い場所に行きたいという望み通り、ここまで運んできてもらった。しかしアクシデントなのか予定通りだったのかわからないが、落としてもらった先は、これまで生活していた土の上とは違い、コンクリートで固められた展望デッキの上であったようだ。

 足から落ちていればかろうじてどうにかなったのかもしれないが、運悪く頭から落ちてしまったせいで、首が完全に折れ曲がった状態になってしまい、右腕部分も胴からちぎれかかっている。

 せっかく見たがっていた世界を見る前にこうなってしまったというのは、あまりにも浮かばれない。そんなことを考えながら、マコトは自分がこの案山子のことをまるで人間のように表現していることに気付き、小さな苦笑いを浮かべた。

「案山子が話しかけてきたりはしていますか」

 もしかすると、自分達には聞こえない会話――例えばテレパシーだ――を想定しているのか、花梨かりんは声のトーンをいくらか下げて宮前さんのお父さんに問う。しかし、返ってきたのは無言で首を横に振る、否定の動作であった。

「残念だけど、彼はもう話すことは出来ないようだ。せっかく君達のような興味を持った人に来てもらったのにすまないな」

「いやいや、あたし達に謝ることはないですって」

「そうですよ。それより、この案山子さんはこれからどうするおつもりですか?」

 紗希の言葉に、「そうだな……」と思案する素振りを見せる。案山子の望み通りのところに来たのだし、修復をしてここに置いていくのか。それとも、これまで通り田んぼに立ってもらうのか。

「どちらにせよ、僕だけでは決められないな。とりあえず、直してやるのが最優先だ。下ろすのを手伝ってもらえないか?」

 肉体労働は得意ではないと日頃から言っている花梨も、この時ばかりは、「もちろんです」と返事をした。

 

 展望テラスに滞在した時間は10分にも満たなかっただろう。上からの眺めを堪能できたとは言わないが、まあ仕方がない。

 下で待っていた宮前さんは、降ろされた案山子のその姿を見て驚いたが、悲しみをぐっと堪え、「まあ、案山子さんが選んだ結果ですからね」と言うと、マコト達と一緒にトラックの荷台に案山子を乗せるのを手伝った。

 そうして来たときと同じように帰ることになったが、さすがにしんみりとした空気が一同には漂っていた。

 しかしそんな最中、花梨がゴソゴソとスマホで何かをやり始めた。数秒後、マコト達のスマホが震えだす。

『前に座っている二人に聞かれるのは気が進まないから、こうして文面で話させてもらおう』

 四人のチャットグループにその文面がポップアップした。

『気が進まない話ってなんだ』

『実はわたしは、こうして案山子がここで発見されることまで含めて、全て宮前さん一家の狂言だと考えていたんだ』

 隣で倫理が息を呑む音がする。

『狂言って……なんでまたそんなことを』

 倫理からのチャットに、花梨は現実で首を横に振った。

『さてね、そこまではわからない。けれども、少なくとも可能性の一つとしては存在する説じゃないかとね』

 そこで一旦区切ると、指の動きを早めてフリック入力を繰り返す。

『そもそも、喋る案山子というのは本当に実在していたのだろうか? という疑問から生じたのが狂言という可能性だ。いや、個人的にはいてほしいのだけれども、だからといって、無条件でいると断言するのも土台無理な話だ。では、もし実在していなかった場合、どうして宮前さんは紗希ちゃんに話したりしたんだろうかという疑問も生じてくることになる。実在しないものを実在すると言い、我々を自宅まで呼び出すその魂胆とはいったい何なのか? そして、なぜ両親までもそれに協力するのか? と様々な疑問が降って湧いてくるわけだが、正直この辺を現段階で考えても真相にたどり着くことはないだろうし、現時点ではそれを曖昧にして割愛させていただこう。さて、それを抜きにしても気になるのは案山子消失事件だ。第三者――つまり我々のことだ――が見に来るといった矢先にいなくなるなんて、かなり怪しいとしか言いようがないからね。当然その場合、我々にそれを見られると困るから=隠滅のためにどこかに隠したと考えるほうが、筋が通っているように思えてしまう』

『でも待ってよ。それは相手の意に反してこっちがやってきた場合にすることじゃないかしら』倫理が口を挟むならぬ、チャットを挟む。

『無理矢理に押しかけて、どうしようもなくなった結果として処分するならわかるわ。けれども、今回の場合はまず宮前さんの方から私達に情報を与えてきて、それに釣られて来ただけに過ぎないのよ? むしろ過程としては真逆、相手が嫌がるところに押し寄せたんじゃなく、相手が誘ってきたところに乗っただけなのよ。それなのに、処分するなんて、理にはかなってないんじゃないかしら』

 倫理の意見はもっともである。押しかけてきてほしくなければ、そもそも最初から話さなければいいだけなのだ。しかし現実には、宮前さんは紗希に話して家にまでこさせている。

『そう、だからこの意見はそもそも当てはまらない。だから案山子の話は真実である……と、決めつけるのは安易だが、たぶんそうなのだろう。だから宮前さんは家に呼んだし会わせようとした。だけれど、それを了承したのは宮前さんだけであった。彼女の両親はそれには反対であった』

『だから案山子を隠したというわけですか?』

 そういうことだよ。と言いたげに花梨は無言で頷く。

『二人には見せられない理由があった、だから案山子を隠した。それが消失事件の真相だ……と言いたいところだが、それもどうやら違うようだ。なぜなら、ここに来るまでに車を出してくれているからだ』

 花梨以外の三人は顔を見合わせる。『どういうこと?』

『これが狂言として仕組まれた消失事件だったと仮定しよう。それでは、どうやって案山子をここまで運んだと思うかい?』

『どうやってって、そりゃあ……』

 そこまでチャットに打ち込んだところで、花梨が言おうとすることに気付いた。そして、それを確かめるべく、荷台の壁から少し身を離し、これまで通ってきた路面をじーっと見つめ、写真を一枚撮る。

『おお、どうやらマコちゃんは気付いたようだね』

『どういうことですか』

『もったいぶってないで説明しなさいよ』

 マコトがチャットを見ていない間にも会話は流れていく。

『花梨の言いたいことがわかった』

 見たことで納得がいったのか、元のポジションに収まるとチャットにそう書き、黙々とフリック入力を続ける。

『案山子を運んだのが宮前さんのお父さんだとしたら、ここまでは当然車で運んでくることになるだろう。本当にスズメに運んでもらうわけにはいかないからな。だから、そうだとしたら、これよりも前に車でここを通った時のタイヤの跡が、この泥道には残っているはずなんだ』

 みんながそのチャットを読んだのを確認すると、マコトは撮ったばかりの写真を送る。みんながその写真を見ている間に、花梨がポチポチ話を進めていく。

『写真を見てもらえばわかるように、道には今往復した分のタイヤ痕しか残っていない。もし疑うようならこれも見るといい、行きの時に撮った写真だ』

 そう言って花梨が送ってきた写真には、綺麗に平行に並んだタイヤ痕が写っていた。

『行くときからなんとなく目星をつけていたってわけか』

『まあ備えあれば憂いなしというからね。というわけで、この話もそろそろ締めだ。来る時にお父さんが話してくれたように、あの塔まで通じている山道はこの一本しかない。歩きで違うルートを使い行くことも不可能ではないが、車で往復するような道をわざわざ徒歩で――それも背丈がある案山子を持ってまで歩くときた――そんな労力がかかることはしないだろう。その写真とさっきマコちゃんが撮ってくれた写真を見比べてもらえばわかるように、この道は通った痕跡はくっきりと残る。もしこの消失事件が狂言だった場合、この道には今朝トラックで往復した痕跡が残っていなければならないが、私が提示した写真にはそんな痕跡は残っていない。これから導き出されることは、案山子消失事件は狂言ではなく、実際に起きたということだ。そしてすなわち、それは喋る案山子が存在したことともイコールでつながっている……。と考えるのは、少し論理の飛躍かな?』

 花梨が語ったことを咀嚼する間、マコトはじっと目の前に横たわっている案山子を見ていた。そんな存在と会えなくて実に残念だ。そんな気持ちがマコトの胸をジワジワと満たしていく。

 誰もが同じ気持ちのようで、口を開くことなく、静かに揺られながら物言わぬ存在へと戻ってしまった案山子を見つめていた。

 そんな時であった。

 「でも……」と、チャットではなく現実で会話が再開された。

「だとしたら、案山子さんはどうしてそこに行きたがったんでしょうか」

 紗希の言葉に誰も答えることは出来ない。花梨ですら、「それは……」と言ったっきり、思案の表情で口を閉ざしてしまう。

 チャットでの会話もなく、久々に訪れた完全な沈黙。

 マコトも考える。

 紗希の言いたいことはたしかにわかる。案山子だってそりゃあ景色が見たかったのかもしれないが、それは自分の命(?)を秤にかけてまで成し遂げたかったのだろうか。いや、起きたということはそうなのだろう。案山子はそのくらいの覚悟でこの景色を見に来たのだ。

「ねえ宮前さん、家出をする前に案山子が正確にはなんて言ってたか覚えてる?」

 不意に倫理が前の席に座っている宮前さんに、そう投げかけた。突然の質問に、一瞬「えっ?」と驚いた声を宮前さんは上げる。

「ごめんねいきなり。でもちょっと気になってね」

「うーん……、『高いところから世界を見たい』だったと思うんですけど……」

「あれ、そうだったっけ。『高いところから海が見たい』じゃなかった?」

 宮前さんの言葉に、お父さんが口を挟んだ。

「海が見たい……そう案山子は言ったんですか」

「うん。昨日の夕方のことだから間違いないと思うな。いや、たぶん娘が言ったことも正しいんだろうが、案山子に会ったのは僕が最後だろうから、僕が聞いた言葉が案山子くんの最後の言葉になるんだろうな。昨夜、田んぼから帰る時に案山子くんに話しかけたら、『宮前さん、海とはどういうものですか』って急に聞かれてね。どういうことだいと聞き返したら、なんでも、妻が以前から案山子くんにここ以外のことを教えていたみたいで、外のことに興味を持っていたみたいだったんだ。だからその時、海について色々と教えたりして、その言葉を聞いたんだ。だから、今朝案山子くんがいなくなった時は、てっきりこっちじゃなくて西の山に行ったもんだと思っていたよ。だって、展望塔があるあの山からは、海が見えないし」

 なるほど。だから宮前さんのお父さんは、展望テラスで案山子が見つかった時に不思議がっていたのか。

 しかし、だとすると疑問がまた残ってしまう。

「じゃあ……なんで海が見えない高いところに案山子は行ったんだ?」

 マコトは考える。宮前さんのお父さんが言うように、案山子が海を見たくて家出をしたんだとするなら、その行き先は発見した東の山の展望塔ではなく、西の山のどこかだったはずだ。だが、現実には案山子は展望塔のテラスで無残な姿となって発見された。するとどうだろう、この姿になったのもあの場所に行ったのも、もしかすると案山子が想像した光景とは違ったものだったのではないか?

「なあ案山子くん、答えてくれないかい」

 花梨は手を伸ばし、案山子の頭をそっと撫でる。だが、その答えが返ってくることはなかった。

「もしかして、連れてきたスズメが勘違いしたんでしょうか」

「あんた、本当にとんでもないことを思いつくわね……」

 紗希の言葉に呆れたようにそう返す倫理。しかし紗希はめげずに応じる。

「でもそうじゃないですか? 案山子さんは本当は西の山に行きたかった。でもスズメさん達は勘違いをしてこの山の展望塔へと連れてきちゃった。そう考えれば、話の辻褄は合うと思います」

「辻褄は合うとしましょう。けれども紗希ちゃん、そんな勘違いを果たしてするのかが重要なのよ。だって案山子にしてみたら、もしこれに失敗したら命を落とすかもしれない――現にこうして命を落としてしまったわけだけど――そういう大切な行動だったのよ。そんな勘違いを起こす前に下調べをしておいたと考えるのが当然でしょ?」

 下調べ。勘違い。何かが頭の中で引っかかる。

「けれどねリンちゃん。そもそも思考して喋れるという、いわば命がある状態が、どの時点まで保たれているのか、たぶん案山子を含めて誰にもわかっていなかったんじゃないかな。身体が損傷していなければ地面にまた刺されば生き返るのか、それともあの土地から抜けてしまった段階で息絶えてしまうのか。そういうことを試したことはないよね? 宮前さん」

「前に一度家の方に持ってこようとしたことはあったけど、その時はここにいたいからということで結局実現することはなかったし、台風とかでもパーツが損傷することはなかったから、どのくらいの破損でこうなるのかもわかってなかったな」

 宮前さんではなくお父さんが応じたが、答えとしては申し分ない。

「案山子はここ以外の土地に前から興味はあったんですか?」

「土地というよりも、僕達が話す全部のことを興味深く聞いてくれていたからね。知識としても飲み込んでいたし、好奇心もだいぶ強い性格だったんじゃないだろうか。そうじゃなかったら、こんなことまでして海を見に行こうとも思わないだろうし」

 そこでようやく、カチャリと頭の中で何かがハマった音がした。

「もしかして、案山子は喋ることは出来ても、あたし達が持っているような常識や知識を全く持っていない状態でした?」

「そうだね……。最初は話すことが出来るようになった赤ん坊みたいな感じだったよ。それで僕達が面白がって色々と知識を吸収させていったんだ」 

「じゃあ案山子が持っていた知識っていうのは、全部宮前さん達が教えたんですね」

「喋っているのを知っていたのは僕達だけだし、そうだと思うけど……。いや、鳥ともコミュニケーションをとれていたし、そっちから知識を得ていた可能性もあるが、大部分は僕達からによるものじゃないかな」

 なるほど、じゃあそういうことか。

「宮前さんはあそこに展望塔があったことを知らなかったんだよね? じゃあ宮前さんのお父さん、案山子にあの展望塔のことを話したことはありましたか?」

 マコトの問いに、考えるための沈黙が降りる。「いや、ないな」

 その答えを聞き、マコトは納得したように「そうだったんだ」と頷く。

「おいおいマコちゃん、何がそうだったんだい?」

「そうだったんだよ花梨。やっぱりこいつは、

 無残な姿になった案山子を撫ぜながらマコトは言う。

「こいつは喋ったり考えたりもするけれど、結局は案山子であることに変わりはない。だから動くことは出来なかった、身体を自由に動かすことは出来なかったし、方向転換をすることだって出来なかっただろうし、ずっと同じ方向だけを見つめ続けていたに違いない。つまり、この案山子にとっての世界とは、のことだったんだよ。世界がこんな大きいとは知らない、いや、知ってはいるんだけど、どういう風に広がっているのかがわからない状態だったんだ。だから知らなかったんだよ。あの山よりも高い場所が、この土地にあることなんて」

 朝、宮前さんの家の田んぼの縁で、案山子のマネをして立っていた紗希の姿を思い出す。田んぼとその先の山だけを見続けていた案山子。あの時紗希は、話をするためにこっちにくるっと身体を回転させたりしたが、喋ることは出来ても動くことの出来ない案山子には、そんなことは出来ないだろう。

「この案山子くんには、自分の背後に何が広がっているかなんて、知る由もなかったわけか」

 花梨がぼそりとつぶやいた。

 そして、その勘違いから今回の事件は起きた。

 マコトは想像する。案山子はスズメに、『この街でいちばん高いところに連れて行ってほしい』と頼んだのだろう。そしてスズメはそれを受け入れた。しかし、そこには決定的な食い違いがあった。案山子が言っている高いところとは、海が見えるというあの山の頂上のこと。スズメが考えていた高いところとは、案山子の背後にそびえ立つ山にある、使われていない展望塔ということ。

 空中へ羽ばたいた時、自分が言った目的地と違う場所に運ばれている時、案山子は何を思ったのだろう。訂正がされなかったということは、地面から離れた段階で、もう既に案山子の意識は途絶えていたのかもしれない。いや、そうであってほしいというのがマコトの願いだ。落下し、コンクリートの上に叩きつけられたその瞬間にまで、意識がはっきりとしてほしくはない。

 その場所に行ける希望だけを胸に秘めたまま、喋る案山子から普通の案山子という存在に戻っていてほしかった。


「よーっし! これで大丈夫だ!」

 夕日が照らす山頂付近。開けたその台地からは、この県の名物でもある海岸線がよく見えた。

 マコトが推測を話した後。一度宮前さんの家に戻った彼女達は、材料を集めて案山子を修復し、本当に行きたかった場所と思われる、西の山へと案山子を連れてきていた。そして一番眺めが良いその場所に、案山子を立て、各々が満足気に頷いた。

「どうです案山子さん、この場所からなら海が見られるでしょ」

 宮前さんは案山子の隣に並び、海を眺めながらそう言った。言葉こそ案山子からはないが、たぶん案山子も満足していることだろう。

「それにしても、案山子を見に行くだけの話だったはずなのに、色々なことがあったわね……」

「いろんな事はありましたが、いい経験にもなったんじゃないでしょうか」

 疲れた様子だが楽しそうな倫理。疲れた様子もなく楽しそうな紗希。

「じゃあそろそろ帰ることにしますか。駅まで送って行ってくれるみたいだし、待たせちゃうのも悪いしな」

 マコトの言葉に、「はーい」とほとんどが返事をするが、不満そうなのが一人いた。

「えーっ。だってまだ私達は案山子が喋ってることすら確かめてないんだよ? もうちょっと調べてからでもバチは当たらないと思うけれど」

 案山子の身体をわさわさと触りながら花梨は言う。

「ダメだ、これ以上遅くなると電車の本数も少なくなるし、帰るのが遅くなっちゃうしな」

 わかったよぅ。と渋々ながら了解し、ようやく案山子の側から離れた花梨。その手には案山子から抜き取った藁がちゃっかりと握られていた。

「お前なあ、そんなものどうするんだよ」

「ふふん。役には立たないとは思うが、今回の件の宝物といったところだよ。思い出は記憶ではなく物で残したいのでね」

 そんなことを笑いながら言いつつ、前を歩くマコト達に合流をする。

「じゃあね案山子さん、またいつか会おう!」


「ーーーーーー」


 花梨のその言葉に応じたかのように、案山子の方から少女達方へと一陣の風が吹き抜けた。案山子から放たれた言葉かもしれないそれは、少女達のすぐ側を通り過ぎると、赤く染まる空へと吸い込まれていった。

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喋る案山子と女子高生 神崎蒼夜 @sawyer1876

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