自分で言うな系職業
「魔の者どもよ、我が聖なる権能を畏れ
その宣言を、コトバとして理解するものは居なかった。
声高く、歌うような言葉ではあったが、浪々と慈悲を語りながらもその手は次々と獲物を掴み、潰し、毟っていた。
聖堂内は阿鼻叫喚の宴。
僧はすでにその全てが肉片と汚物に化けていた。
少女から逃げようと、生き残った者たちは富める者も貧しき者も、貴き者も卑賎なる者・・・は入館が許されず、全てが今この瞬間も平和を享受し安穏の内に過ごしていた。
聖堂内すべての者たちが、開かない廟堂への扉、通用口、あらゆる扉に殺到していたが、施錠はこちらで行う筈がどれも岩のように微動だにしなかった。
「クノプロッハ当主リヒャルト、参る。聖を騙る魔物よ、我が剣の錆となれい」
乾坤一擲、音をはるか後ろへと超えた刃の光が少女の脳天へと打ち下ろされる。
入った、と剣先が石床を穿つ手応えに必殺を確信するも、リヒャルトの手から剣は煙のように消え失せ、目の前には少女が現れた。
「御平らに。これは芝居にございます」
至近のリヒャルトのみに届いた声に瞠目しつつ、クノプロッハ当主は遠き壁へと投げ飛ばされ、瓦礫に埋もれた。
リヒャルトの様子をしばし覗った少女の目が、ゆるりおもむろに美しい少年を見据える。
「ミハイル様、今こそです。御身を無能と誹った汚物共に力の真実を知らしめましょうぞ」
少年は惨劇の只中、いや無能を告げられてこの方、一分たりとも動くことなく、その場に立ち尽くしていた。
しかし、けたたましい阿鼻叫喚が突如止んだせいか、その虚ろな目に僅かの意思が戻り、曖昧にだが歩み寄る少女へと送られた。
「・・・ああ、スヴェトラセルフィマ。よい、もうよいのだ」
「よくありませぬ」
「もう・・・終わったのだよ」
「まだなにも始まっておりません」
「今日に至るおまえの友誼、忘れぬ」
少年の体から燐光が立ち上り、金色にうすく輝き始める。
「駄目よ!」
少女はミハイルへ取りすがり、筋肉質ではあるが、未だ華奢な少年の体を掻き抱いた。
「勇者を得ることが出来なかった私に生は適わぬ」
「聞いてミハイル。勇者なんて、自分で下げる名札じゃないの」
首に腕を回し、金色の頭を抱き寄せる。
「他人が勝手に使う評価よ。只の評価」
「そうか」
「そうよ。しかもあたしの前世じゃ、勇者なんて世界征服を成した唯一の王国に置いては、バカの最上級形代名詞だったわ」
「フフ・・・・・そうか、今気づいたぞ」
少女の瞳が期待に輝く。
「スヴェトラセルフィマ、おまえはこれほどまで美しかったのだな」
少年の姿は薄い金の光に溶けてゆき、完全に消え去ると石畳みに何かが硬い音を立て落ちた。
少女はそれを拾うと、のろのろと壁際へ向かって行った。
狸寝入りをきめこむ少年の父の足を掴みあげ、瓦礫から引きずり出す。
「美しいと言いながら・・・ねえ、なんて言えば引き留められたの?」
「・・・何を言おうと、男に女の言葉など響かぬ」
「そう」
少女は夕の光を受け、午後の典礼にあわせ金色に輝く神像を見上げた。
「詐欺師の言うことは簡単に聞くのにね」
少女は出て行った。
生き残った者は心から神に感謝した。
他人の評価が職業名になってる妙な世界へ転生してしまった プリオケ爺 @hanagehanage
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