剣に聖を宿す者
怒りより一転、突如目にも怖気をわななかせ退出してゆくベルティエ家当主と騎士を僧は冷えた眼差しで見送った。
「山猿に政治はわからぬ、か」
呟くなり、残された少女へと顔を向ける。
瞳を好色な光に粘つかせながら。
「ならば残された貴女に機会を与えましょう。信仰を見せなさい。夜を通して女神ソラリスへ祈りを―――――ぉぴょっ!!」
「イイヨー」
少女の細く白い腕が、僧の口へ差し込まれていた。
ばたばたと藻掻く僧の無駄に豪華な布ひれが、鎮まった聖堂内でむなしく音を立てている。
「さぁ、めしゃあがれぇ~~~☆」
肉を裂く湿り気を帯びた音が立ち、僧のアゴが縦に伸びてゆく。
女陰の潮が如くに血が、裂かれた断面の各所より吹き上がり、磨かれた石の床に水音を立てた。
僧はゴボゴボと奇妙な音を立てながら内臓をこぼし、自らもその血溜まりへ倒れ臓物と消化排泄物に塗れながら転げまわる。
素手で肉を裂いておきながら少女の姿に幾ばくの血汚れもない。
その顔は緩く微笑んだまま、紅もつけていない桜色の唇がひらいた。
「あなたの聖職においての貢献を認め、ソラリスの名に免じ、死まで幾ばくかの猶予を与えます。僧籍にあれば神の御許へ向かうことの感謝と高揚以外無いでしょうが・・・これはわたくし個人の温情です。伏して押頂くように」
教会においてこの地の司祭、聖堂の持ち主が気を取り戻し、僧衣で空を叩き立つ。
「こは我が教会、協議への叛意ぞ!聖堂騎士をこれに!」
知る限り世界で最大の勢力である自らの教会へ下された唐突な暴力に気を抜かしていた聖堂の騎士達が、夫々が思い思いの雑な動きで拘束へと乗り出してゆく。
人を裂いたとて、その被害者は戦闘力の無い助祭である。
自分たち騎士の敵とは成りえない。
少女を組み敷く為の大義名分に猛り、聖騎士達は勃起しながら殺到した。
そして少女に近づいた者ことごとくが、鎧を撃ち抜かれる金属音と共に背中より血と内蔵を吹き出して倒れていった。
「聖なる騎士達には、
今だ害を被っていない騎士達が怯懦の叫びを上げながら身を返してゆく。
そして、身を返した者たちは悉くが腹から赤き物を吹き散らしながら絶命していった。
誰もが臓物や排泄物の臭いに閉口しながらも、異常の緊張に動けない中、少女は倒れた机から聖別の水晶を拾い上げると、司祭の元へと登壇していった。
腰を抜かしたのか、豪奢な椅子に座りこんだまま震えるだけの司祭の前に水晶を置き、少女は口を開いた。
「あたしの権能は?」
司祭はヒゲから汗をしたたらせ、水晶に跳び付くと青に光の紋を現象させ、叫んだ。
「剣聖です!」
「そう、剣聖。つまり・・・」
少女の顔がやさしく笑んでゆく。
司祭の顔もつられ口が開くが、そこから出たのは絶叫だった。
今だ聖堂から逃げ出せない者たちは、人間が水音を立てながら肉の団子になってゆく様をまざまざと見せつけられていた。
「私は剣。宿すのは聖。つまりわたしに害される者は、魔と悪の本性をもつ者のみ」
少女が後ろで逃げようとした僧を掴み、肉団子になった司祭の上に放る。
わめくばかりの肥えた腹に手を刺し込むと、固いものを破断する音が響き、そこから白くつややかに輝く背骨が引きずり出されてゆく。
「これよりお前たちの聖別を行う」
その声が聞こえた者たちは、正しく自分の絶命を察したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます