これからも。
その後、俺は足早に教室に向かった。
早くしないと、もしかしたらもういなくなってしまうかもしれないから。
彼女は、まだ残っていた。
「あ、どうだった? ちゃんと伝えられた?」
教室で一人、窓の外を眺めていた彼女が俺に気付いて顔を向ける。
「うん、伝えたよ」
「そっか、じゃあ、あたしはそろそろお役御免だね」
冗談っぽく笑う。
「なんか、ちょっと寂しくなるな」
「もう、そんなこと言ってるとまたあの子が不安になっちゃうよ」
「あはは、そうだね。ごめん」
こっちの彼女とは、おそらくもうお別れ。
名残惜しくはあるけど、それは仕方のないことだ。
「別に、お別れっていってもあたしが全部いなくなるわけじゃない。ただもとのあたしに戻るだけ。あたしはずっと君そばにいるよ、あの子と一緒に」
「うん。ありがとう。なんかちょっとだけ新鮮だったよ」
「ううん、あたしも思ったこといっぱい言えて嬉しかった」
彼女が嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、最後にあたしから……」
そう言って彼女は俺に近づくと――
「――んっ」
そっと俺に、キスをした。
「……へっ?」
急な出来事で反応できずに固まる。
「あの子としたんだから、あたしともしないと不公平でしょ?」
そう言う彼女の表情は、ちょっとだけむくれている。
「えぇっと……」
「なんてね、それじゃあもう行くよ」
いたずらっぽく笑ってからそう言った。
「うん、行ってらっしゃい」
笑顔で彼女を送り出す。
「今までありとう。それと――これからもよろしくね」
そう言い残して、彼女はこの場を後にした。
別に寂しくはない。
彼女たちが本来の姿に戻るだけだ。
色々あったけど、ちゃんと本音を伝えられたし、伝えてもらった。
もう不安はない。
次に彼女と会うときは、なんて声をかけようか。
なんて、そんな些細なことを、今は考えている。
(おわり)
ツンデレカノジョ。 晴時々やませ @yamaseharetokidoki
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