素直な気持ち。
ずっと考えていた。
彼女を安心させるようなセリフを。
何を、どうやって伝えよう。
改めて考えて思う。
自分の気持ちをありのまま伝えるのって、案外難しい。
伝える相手のことを考えて、言葉や表情を選んだりして。
こういう言い方をすると彼女はこう言うだろうとか、こういう表情をすると彼女はこう思うだろうとか。頭の中でいろいろ考えては、またやり直す。
相手のことを想うばかりに、いろんなことを考えすぎてしまう。
それがどんどんマイナスな方へと広がっていくと、心はいつしか不安でいっぱいになっている。
最終的には結局、相手に嫌われたくないという想いが残る。
もちろんそう考えるのは自然で、それは相手のことを強く想っている証拠なんだ。
彼女の本音を、俺は教えてもらった。デレ子を介して、通じていた。
なら彼女はどうだろう。彼女が俺の本音を知るためには、俺から彼女に伝えるしかないのだ。
いままでできる限りは彼女に本音を伝えてきた。
でも、恥ずかしくなるとついごまかしたりはぐらかしたりもしていた。
それじゃダメだ。
彼女が本音を言うなら、こっちも本音で答えないと。
ちゃんと伝えよう、この気持ちを。
彼女が彼女らしく、自分に素直で在れるように。
◆
翌日の放課後。
俺はツン子を裏庭に呼び出した。
「急になによ、話って」
相変わらず態度は冷たい。
「ああ、どうしてもお前に言いたいことがあってさ」
俺は怯まずに話を切り出す。
「……なに?」
「俺はさ、もうそろそろお前たちが一人に戻ってもいいと思うんだ。いや、戻るべきだ」
「えっ、なんでっ?」
突然の彼女の動揺が見て取れる。
「お前たちが二人になって色々気づいたんだ。いや、教えてもらった。だから、俺にはもう――必要ない」
「――っ」
そのとき、一筋の滴が彼女の頬を伝った。
その顔に表情はなく、ただ目を見開いて静かに涙を流す。
彼女はそのまま取り乱すことなく、ぽつりと呟いた。
「そっか……そうだよね。やっぱ、あたしなんかいらないよね……」
「違うよ」
「何が違うのよ……、あんたはあたしよりあの子がいいって、そう言ってるんでしょ」
違うよ、全然違う。そんなことない。
「違うって」
「違わない」
「違うんだよ」
「なにも違わないじゃない!」
彼女は急に声を荒げた。
「いつでも本音を言ってくれるあの子がいるから、あたしはもう必要ないって、そういうことでしょ?」
違う、俺の言いたかったことはそんなことじゃない。
「そうじゃないんだよ」
「だったらはっきりとそういえばいいじゃない!」
「だから違うんだって」
「何が違うのよ!」
「だから、俺は――」
「いやっ、やっぱり聞きたくない!」
彼女の心はもう限界だった。
取り乱して、感情は全て表に出ている。
不安と恐怖で心はズタズタだ。
でも、だからこそ、今なら彼女の本音が聞き出せるかもしれない。
危険な賭けだ。それでも、俺は彼女から直接本音が聞きたい。
「いいから聞いてくれ」
「いやっ!」
「聞けってっ」
「やめて、それ以上言わないで! でないと、あたし……」
「ったくもう、仕方ないな」
全く聞く耳を持たない彼女。
そんな彼女を、俺は強引に抱き寄せた。
「えっ……な、に……?」
彼女の動きが止まる。
俺はすかさず言葉を紡ぐ。
彼女の不安を取り除くのは今しかない。
「俺は――どんなお前も好きだ。何があっても、それは変わらないから」
そういって抱きしめる力を強める。
「俺にお前は二人も必要ない。だってそれはもともと、一人のお前にあったものだ。二人になんかならなくても、ちゃんと気持ちは伝わる。あとは言葉にしてくれれば、お互い通じ合えるはずだから」
まだまだいっぱい伝えたいことはある。でもとりあえずはこんなとこだろう。
全部言うと、時間がすごくかかりそうだから。
「だから安心して。俺はお前が、大好きだから」
やっと言えた。こんなにも直球に気持ちを伝えたのは初めてかもしれない。
普段なら恥ずかしくて言えないけど、今なら気にせず言える。
あとは、彼女の本音を聞くだけだ。
少しの沈黙の後に、俺は抱擁を解いた。
「どうかな? ちゃんと伝わった?」
彼女は伏せていた目を見開いて俺を見つめる。
「……うん、伝わったよ」
少し照れたように微笑む。
「あのね、あたしもっ……あたしもあんたのこと、――大好きだよ」
彼女は、今までで一番かもしれない笑顔を向ける。
「それと……」
急に彼女が顔を寄せる。そのまま――
「――んっ」
俺に、キスをした。
それから、いたずらな笑みを浮かべてこう言う。
「あたしの気持ち、伝わった?」
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