死に至る病

高黄森哉

死に至る病


「え、本当ですか」

「はい、本当ですよ」


 医者は答えた。

 患者はショックを受けた。


「あなたは病気です。死に至る病です。必ず死んでしまいます」


 死に至る病といえば、もうあれしかない。それは、この国のこの存在にとって、もっとも恐れられている病気なのだ。患者は暗澹たる気持ちになった。


「そんな気はしていました。いつからですか」

「来年の四月からです。難治性で、治療法は確立されていません」


 それは、これら存在にとって、ある一種の精神病なのだ。発狂といっても過言ではないかもしれない。それは拗らせた強迫観念にも似ている。


「本人の努力では、どうにもならないんですか」

「はい。元の精神状態に戻るには、非常に長い時間がかかります。が、幸運なことに、この病気は必ず完治します。進行性の病ですが、完治直前が一番の山場であり、そこからはストンと落としたように治ります。さすれば、また元の穏やかな生活がやってくるでしょう」

「そうですか。健康が待ちきれない思いです」

「もし症状が始まれば、私とコンタクトすることは不可能になりますが、頑張りましょう。我々も出来る限りのことをします」

「四月かあ」


 四月に、患者である、この無機物は、生物の一部へと、組み込まれる予定だ。

 そう、この無機物にとって死に至る病とは、生物の一部として思考の一端を任せられることなのだ。本来、約永遠であるはずの物質類が、なぜか消滅を異常なほど恐れなければいけない、極めて錯乱、矛盾した精神状態、および不合理な恐怖症、


 この病気は、生きる、と呼ばれている。

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死に至る病 高黄森哉 @kamikawa2001

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