第96話 討伐作戦
「皆さん、竜を誘き寄せるのはどうでしょうか。例えばどこかの沼地に沈むよう誘導し、竜が身動きを取れなくなったところを一斉に叩くのです。沼地でなくとも罠を仕掛けるなど、できないでしょうか」
フェルナン様のその提案によって、一気に建設的な話し合いが始まった。
「まず、誘き寄せるというところが難しいですね。ただ誘き寄せるというよりも、追い立てるのならばできるかもしれません」
「また、あまり遠くへは無理だと思います。竜がいる付近に良い立地はあるのかどうか……調査するべきですね。大規模な罠を作るのは難しいため、できれば自然の罠を使う方が良いかと」
「魔法を使えるのであれば、身動きが取れなくなった時点で無差別に乱発する可能性があります。魔法への備えもできる限り整えるべきではないでしょうか」
様々な意見が出されて、それをリナーフ国王陛下が中心となってまとめていく。
「まず、竜を追い立てて罠に嵌めるという部分は決定で構いませんか?」
前提となる部分の確認にどの国からも反論はなく、竜討伐の大まかな方針は決まった。しかし、ここから話し合う詳細の方が大切だ。
「では次に、罠の種類を決めましょう。そこが定まらなければ、追い立て方も決められませんから」
そう言った陛下が、霊峰付近の詳細な地図の準備を側近に頼む。
「皆さんも地図をお持ちであれば、提示していただけると助かります。霊峰付近だけで構いませんので」
詳細な地図は軍事情報であるため、基本的には厳重に保管しておくのが普通だ。しかし今は緊急事態であるため、地図を持っている方たちはあまり躊躇わずに提出した。
私もフェルナン様に視線を向けると、フェルナン様は申し訳なさそうに首を横に振られる。
ユルティス帝国は霊峰と接していないため、地図とは言ってもこの辺りに霊峰があるという大まかなものしか持っていないらしい。
「地図ごとに、地形に違いがありますね」
地図を見ながらそう呟いたのは、霊峰と接しているある国の王子殿下だ。地図とは実際にその場所を歩き回った人たちから聞き取った情報を元に、地図作成の専門家が改めて現地を調査して作り上げていく。
したがって、聞き取った情報の精度や専門家の腕によっては、大きな間違いはさすがに少ないものの、小さなミスや尺度の違いなどは多数存在するのだ。
「この場所にある湖や、ここの池などは全てに共通しているでしょうか」
「いや、貴国の地図では池がないようですよ。代わりに沼地となっていますが、どちらが正しいのでしょう」
その質問に沼地が描かれた地図を提供した国の王子殿下は、すぐ側近に確認した。
「この地図は半年前に更新したばかりのようです。したがって、その池がなんらかの形で埋まってしまい沼地となったのかと」
池が埋まる形での沼地であれば、水分の多い土地である可能性が高い。地図から結構な広さがあることが分かり、罠の第一候補となった。
「ここに竜を追い立てるのが良いかもしれませんね」
「作戦開始前に沼の状況確認などは必要だと思いますが、現状では賛成です。ただ沼から抜け出せないように第二の罠を張り巡らせたり、倒し方の工夫は必要ですね」
それからも罠の内容について、その材料の調達方法や資金の分担など多岐にわたって議論し、竜の討伐方法は定まった。
しかし休む間もなく、次は戦力投入についての話し合いだ。リナーフ国王陛下が真剣な表情で議題を変える。
「必要な戦力を上げるとするならば、大きく二つに分けられます。一つ目はもちろん、竜の討伐戦力ですね。ただそれだけに戦力を割くわけにもいかず、二つ目として竜によって活発に動いている他の魔物討伐も必要です。皆様がどれほどの余剰戦力をお持ちなのか、そこから議論いたしましょう」
その言葉を受けて、真っ先に口を開いたのはやはり霊峰と接している国の方々だった。
「すでに我が国の戦力は、余剰戦力どころか足りない状況です。一人でも多くの民を救おうと、各地で騎士たちが休まず戦っています」
「我が国も同様です」
予想通り、すでに被害が大きい国々に余裕はない。それが分かったところで、今度はフェルナン様が口を開かれた。
「我が国には余裕があります。国を守る戦力を残した上で、大隊を一つぐらいならば竜討伐に向かわせられます」
その言葉に霊峰に接している国々の代表者の皆さんが、期待と安堵の表情を浮かべる。そんな中でリナーフ国王陛下も安心した様子で頷かれた。
「ユルティス帝国のユティスラート閣下、本当にありがとうございます。他の国々はどうでしょうか」
それからフェルナン様に続くような形で各国の余剰戦力も把握することができ、次に集まった戦力をどう配置していくかの話し合いに移った。
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婚約破棄された可憐令嬢は、帝国の公爵騎士様に溺愛される 蒼井美紗 @aoi_misa
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