第95話 大陸会議の開始

 茶会室で情報収集や社交に勤しむ数日はあっという間に過ぎ去り、ついに大陸会議が開かれる日となった。


 ここ数日はアメリーたちと適度な距離を保っていたので大きな問題は起きていないけれど、本番はこれからだ。フェルナン様を支えられるように、そしてユルティス帝国の利となるように、頑張らないと。


 そう気合を入れて、私は大陸会議の席に着いた。大勢の国の代表者たちが参加していて、この場にいるだけで緊張する。

 しかし隣にいてくださるフェルナン様に力をもらい、深呼吸をして少しでも落ち着けるように努力した。


 そうしていると、さっそくこの場を提供してくださったリナーフ王国の国王陛下が口を開かれる。

 一番の上座に座っているリナーフ国王陛下は、五十代ほどに見える鋭い眼差しの人だ。武人と言われてもしっくりくるような外見をしている。


「皆様、この度はお集まりいただき感謝申し上げます。既にご存知だと思いますが、現在この大陸は危機に瀕しています。霊峰付近に突如として竜が出現し、その影響で魔物たちが常ならぬ動きをしたため、各地で被害が多発しております。このままではいずれ、大陸中に被害が拡大するでしょう。現在は霊峰付近にいる竜も、各地に飛んで、無差別に我々の住む場所を蹂躙するやもしれません」


 そこで言葉を切った国王陛下は、私たちをぐるりと見回してから、よく通る声で宣言した。


「国境という垣根なく、同じ人間として、この危機に立ち向かおうではありませんか! 我々で竜を討伐しましょう!」


 私たちを鼓舞するような重みのある陛下のお言葉に、大多数の人たちは感化されたようだ。皆さんの眼差しが、より強いものに変わっている。


 もちろん私もお言葉に鼓舞され、改めて決意を固めた。たとえ竜王だろうと、私たちが住む場所を守ろうと。


「今こそ皆で協力すべき時です」

「わたくしもそう思いますわ」

「力を合わせて討伐しましょう」


 他国の王子殿下、王女殿下、王太子殿下と賛成の言葉が飛び交うと、フェルナン様も発言された。


「我が国も協力いたします。霊峰と接していなくとも、これは大陸全体の危機ですから」


 その言葉によって霊峰から距離がある国の人たちも、次々と協力を表明していく。そして力を合わせて竜の討伐に向かうことが決まったところで、またリナーフ国王陛下が口を開いた。


「ではさっそく、具体的な事柄を決めていきましょう。まずはそれぞれの国がどの程度の戦力を投入可能であるか、また竜をどのように倒すのか、この議題について話し合うのはどうでしょうか」

「賛成です。ただまずは竜の特性について、詳細な情報を持っている方がいたら報告をお願いしたい」

「確かにそうですね。相手を知らなければ、作戦も立てられませんわ」


 竜の特性を知っているのは霊峰と接している国なので、皆の視線がその国々に集まる。霊峰と接している数ヶ国はやはり被害が酷いようで、この場に来ている国の代表者たちの顔色もあまり優れなかった。


「分かりました。では私から報告いたします」


 そう立ち上がったのは、まだ若い第三王子だと挨拶を受けた男性だ。


「まず竜は、とにかく大きいです。その巨大な尻尾を振り回すだけで木々が吹き飛び、鋭い爪は岩にも傷をつけます。さらに火を吹き、自由に強風を起こすので、魔法も使えるでしょう。そして理性的な様子はあまりなく、とにかく暴れています。各地で魔物が異常行動を起こしているのは、竜が操っているという形ではなく、竜の暴走に危機を感じた魔物が逃げるように移動しているのだと思います」


 こうして情報として聞くだけでも恐怖を覚える内容だ。そんな竜が目の前にいたらと考えると、霊峰近くに住む人たちの気持ちに共感してしまい辛くなる。


 どれほどの人が被害を受けて、どれほどの人が恐怖に震えているのだろうか。


 私は重ねていた両手にギュッと力を入れ、そんな人たちを助けるための会議なのだと、改めて目の前で行われている議論に集中した。


「そのような竜を、どうやって倒せば良いのだろうか」

「そもそも、なぜ突然姿を現したのですか?」

「どこからか飛んできたのでは?」

「しかし、そのような目撃情報はないと聞いております」

「竜が出現した理由が分かれば、そこから突破口が生まれるかもしれませんわ」

「確かにそうですが、調べようがないでしょう?」


 倒し方の話が、いつの間にか竜が現れた理由に変化している。答えを知っている私は、ラウフレイ様から聞いた竜王についてとその封印が解けたという情報を伏せたままで良いのか、本気で悩んだ。


 しかしそんな私に気づいたのか、フェルナン様が横から手を伸ばしてくださる。キツく握りしめていた手を包まれると、少し力が抜けた。


「リリアーヌ、明かす必要はない。あの情報は竜の討伐に役立つようなものではないからな」


 顔を近づけたフェルナン様に小声でそう伝えられ、私は素直に頷いた。確かに竜が竜王であると分かっても、封印が解けたと分かっても、竜を討伐する情報としては役に立たないだろう。


 でも、それならどうすれば……。全くまとまる気配がない話し合いに焦れた思いを抱えていると、フェルナン様がスッと手を挙げてある提案をした。

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