第100話 幼馴染の策略

――――【メルフィナ目線】


「メルフィナさま、初めまして。私はエリザリーナ・アセットと申します」


 彼女は貴族の令嬢として文句の付け所のない美しいカテーシーを見せ、微笑んでいました。


「メルフィナさまが……二人……」


 妙子が口をぱくぱくさせて驚いていますが、私だってそう。他人の空似にしては、あまりにも彼女は私でした。


「随分と驚かれていらっしゃるようですね。お聞きしていたメルフィナさまが、本当に私とそっくりで驚いております」


 この子は私のことを知っている?


 最初は驚いて面を食らってしまいましたが、よく見ると彼女と私は違っているところがいくつか見つかりました。


 まず一番大きな違いは耳。エリザリーナの耳は純血のエルフのように長くはありません。人間より多少長いくらい。


 私の瞳の色はエメラルドグリーンですが、彼女の瞳はトルマリンのように青みが強いグリーンです。


 ふくよかな胸元ですが、私より控えめ。


 彼女の特徴からすぐに察しがつきました。


「もしかして、あなた……ハーフエルフ?」

「はい! 詳しくはまだ明かせませんが、メルフィナさまが家へ来てくださるようでしたら、詳細をお伝えしようと思いまして……」


 彼女はにっこり微笑んでいますが、私が彼女の家への招待を断れば正体を明かさないという強い意志のような物を感じます。


 優しげな表情をしていますが、どうやら彼女は強かな様子。私に似た人物が何者なのか知りたくて……。


「分かりました。こちらも一仕事終えましたので、エリザリーナさんのお家でお茶をいただくことにいたしましょう」


 私たちのやり取りを見ていた妙子はきょろきょろして動揺しているようでしたが、私は【ダンジョンに入らねば金属スライムを得ず】のことわざに従うことにしました。



――――【あきら目線】

(メルフィナとエリザリーナが出会う前)


 ガタゴトと馬車に揺られて、僕は知らない場所、知らない道を走っていた。ううん、この変な世界自体を僕は知らないんだから当然だ。


 僕は僕の目の前に座る男に話しかけた。


「これが成功したら、ちゃんと刀哉のところに帰してくれるんでしょうね?」

「はあ……私はキミを拉致して無理やり働かせているつもりはないんだがな。刀哉が私の下で働くことを望んだんだ。キミもそれは了解してるだろう」


 男は額に手を置いて、まるで僕を残念な生き物を見るような目で見ている。


 うっ……そこを突かれると痛い。


 刀哉が僕が会社を経営していたときの交渉術が生きるだろうと思い、目の前にいるスカしたイケメン腹黒王子の下で働くことを推薦したのだ。


「そんなこと百も二百も承知してるんだから! いまさら子どもみたいに言わないでよ。てゆうか、なんなの? この格好は! 僕にメイド服を着せるとか、趣味が悪いったりゃありゃしない」


「それは刀哉の配慮だ。キミが父親に無理やり男装させられ、男として生きるように強制されていたことを気にしてのことだからな」

「刀哉が……?」


 あはっ!


 そうよね、そう!


 刀哉は僕のことが大好きなのよ。ホント、刀哉って口下手なんだから♡ 刀哉が僕のことを求めてくれたら、それこそメイド服で誘ってあげてもいい?だけど! 


 そこは、ほらぁ……ちゃんと「あきらのことが好きだ」って告白してもらわないと刀哉のところに戻りたくないって言うかぁ、ねえ。


 僕が刀哉に顎クイされる妄想に浸っているとフレッドが冷や水をぶっかけてくる。


「そうだ。残りの人生は女性として幸せな生活を送って欲しいとの願いからだ。キミは刀哉の幼馴染として、彼のそばにいたのに何も彼のことは分かっていないのだな……。それだからメルフィナに負けてしまうんだ」


 カッチーン!!!


 やれやれと両手のひらを上に向けて、呆れるスカしたフレッドにムカついた。


 だから僕は言い返してやったんだ。


「それはあんただって同じじゃない! だいたいあんたがしっかりあの耳長女を物にしないから、僕が刀哉と離れ離れにさせられてしまったのよ。これはあんたが撒いた種なの」


「私は心からメルフィナと刀哉の幸せを願っている。キミのように奪ってやろうなどという気はまったくないのだがな……」


 キイ~ッ!!!


 そういうところがスカしてんだって!!!


 はっきり言って、自分の感情を押し殺して、ライバルに幸せになって欲しいとかあり得ないんだから。


 僕が幸せになんないと意味がないっ!


「キミが拗ねている間に到着したよ。さあ降りよう。客人が待っている」


 馬車は古城へと吸い込まれ、そこから降りると……。


「えっ!? 耳長女!?」


 僕たちを出迎えるために出てきた女の顔を見て、驚いた。


「キミっ! 失礼だぞ。私の従しゃ……」

「いえいえ、構いませんわ。お久しぶりです、フレッド殿下」

「キミは……」


 耳長女とうり二つの姿にフレッドは驚いている。そんな彼とは裏腹に令嬢はただ微笑みを浮かべて告げた。


「ああ……殿下は私のことをご存知ありませんでしたね。遠くからお慕い申していただけでしたから……」


 どうやら耳長女は僕の知っている耳長女ではないようだった。


―――――――――あとがき――――――――――

話数見たら99話でしたので切りの良い100話まで書いておくことにしましたw またあきらが碌でもないことを企んでいますが、ポンコツぶりを発揮してくれることでしょう! それではまた。


作者、性懲りもなく冷やし中華みたいに新連載を始めました。


【乙女ゲーのざまぁされる馬鹿王子に転生したので、死亡フラグ回避のため脳筋に生きようと思う。婚約破棄令嬢と欲しがり妹がヤンデレるとか聞いてねえ!】


異世界ファンタジーざまぁラブコメですので読んでいただけるとうれしいです!


表紙リンク↓

https://kakuyomu.jp/works/16818093077292235875

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後継者がおらず廃業を考えていた刀鍛冶、行き倒れの巨乳エルフを庭先で拾ったので、二人で異世界で行商することにしたら、爆売れして忙しすぎるんですけど! 東夷 @touikai

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