第99話 取引成立

「なに? あたしに何かあるの?」


 私がオバチャンなんて思ったからか、山羊の獣人の女ボスは険のある表情で睨んできていました。彼女の頭頂部には黄色い三角の耳があります。豹柄のスカートに豹柄の扇子、どうも彼女は豹の麗人と言えました。


 女ボスが煙管を前に差し出すと山羊の獣人が燭台にあった蝋燭で火を点けようとします。ですが煙草が湿気っているのかなかなか点きません。


 私は【エレメンタルファイア】で女ボスの煙管に火を点しました。


「ふ~ん、珍しいお客が来たわね。だけど! こちらに幸福を招くお客なのか、招かれざるお客なのか……見極めないと!」



「率直に言います。顧客リストを私たちに渡してください」

「嫌だっていったら?」

「力づくで奪うことも辞さないです」


 女ボスにはっきりこちらの目的と手段を伝えると控えていた彼女の部下たちが壁にかかった武器を手に取りました。


「あんたたち! 待ちな! このお嬢ちゃんたちは相当場慣れしてる。あんたたちが束になってかかっても相手になんないよ」


 さすがボスと呼ばれるだけあって、人を見極める力はある模様。


「あらあら、ホントあたしたちより図々しいわね。それで顧客リストをあたしたちから奪って上前を跳ねようって言うのかい?」


「いいえ、あなた方には引き続き、商売を続けていただきたいのです」

「は? いったいどういうことなんだい?」

「あなた方はいくらで、そのお菓子を手に入れていますか?」


「そんなこと、明かせるわけねーだろ! おとといきやがれ!」

「そうだ! どこの馬の骨とも知れねえ奴らに仕入れ値を教えられる訳がねえだろ!」


「うるさいっ! あたしとエルフのお嬢ちゃんが話してんだ、おとといきやがるのはあんただよ! しばらく家で頭を引きやしてくんだな」

「「あ、姐さん……」」


「これはあたしとエルフのお嬢ちゃんが話してんだ。いちいち口を挟むんじゃないよ」

「すいやせん、でした……」

「分かりりゃいいんだよ、まったく……」


 煙管に溜まった灰を捨てて、女ボスは溜め息を吐いていました。彼女は机からぐいっと身を乗り出して私たちを見てきます。


「うちは血の気が多い部下が多いもんでねえ、親分想いで根はいい子たちなんだけど、済まないね」

「いえいえ、私の仲間もそんな感じですので気にしていません」

「ははっ、あんた言うねえ!」


 交渉を円滑に進めるために私は妙子と一緒に背負ってきた袋を女ボスの前で披露します。


「こちらをご覧ください」

「あんた! こんなにたくさん……どうしたって言うんだいっ!?」

「仕入れ値を教えてくだされば、今よりずっとお安く提供できると思いますよ。しかも安定的に……」


「あんた……いったい何者なんだい? うちに来て、まったくビビりもしないなんて、ただ者じゃないよね」

「いえ、私はただのエルフのメルル。そちらはタエーヌです」


 帝国内で正直に真名を明かしてしまうのはどうかと思い、偽名を名乗りました。


「タ、タエーヌ!? あ……済みません……タ、タエーヌ……です……」


 妙子には何も伝えていなかったようで焦りが見えたようですが、一応納得してくれたようでした。


 私が女ボスにパリピーターンを見せたことで、彼女は仕入れ値を教えてくれたのですが……。


「一包みにつき金貨十枚だ」

「えっ!?」

「なんでもクローディス王国の兵士たちから奪った戦利品らしいんでな。なかなか安くで手に入れられない」


 暴利とも思える値段に驚きを隠せませんでした。山羊の獣人が受け取ろうとしていた金貨はそこからプラス五枚程度……。


「ではこちらは金貨五枚というはどうでしょう?」

「ちょっと待て! どうしてそんな安くできる!? まさか偽物か?」

「それは言えません。真贋はあなたの舌で確かめていただければ……」


 私が包みを渡すと、彼女はくるくると包みを解くという手慣れた手つきで包みを開け、口に頬ばかりました。


 粉のついた手を舌でペロペロと舐める仕草が実に艶めかしい……。旦那さまを仲好しに誘うにはこういった色っぽさがあった方が良さそうに思えてきます。


「はあ……はあ……堪らないねえ、この味……ほら、これが顧客リストだよ」


 彼女は恍惚とした表情になり、尻尾が左右にふらふら~、ふらふら~っとまるで酔っ払ったみたいに揺れていました。気だるそうに机の引き出しを開けて、冊子を差し出したのでありがたく受け取ります。


 思った通り、隣国の私ですら知っている有名な貴族や大商人が名を連ねていました。果ては聖職者まで……。


「姐さん! 大変です!」

「なんだい、また……。まだ商談中だよ」

「それが……」


 犬のような耳を持った獣人はこちらの様子をちらちら窺いながら女ボスに耳打ちしていました。


「それを先にいいな!」

「すいやせん」

「済まないね、ちょっと野暮用ができた。あとはそこのヤックルに任せるから、こいつと交渉をまとめてくれ」


「はい」


 なにか起こったみたいなのですが声が小さく聞き取れませんでした。すると妙子が……。


「どうも獣人が……帝国の……圧政に……堪えかねて反旗を……翻す……つもりのようです……。彼女は……それを……止めに行く模様……」

「ありがとう、妙子」


 私が妙子を誉めると彼女の口元が微かに上がり、笑っているようでした。頬も紅潮してうれしかったのかもしれません。


 確実に帝国の内部に亀裂が走りつつあるようです。


 旦那さま……お優しいのに深謀遠慮に長けた素晴らしいお方。



 商談をまとめて、路地裏を出たところで私は声をかけられました。


「メルフィナさまですね?」

「えっ!?」


 路地裏に来るには似つかわしくない服装、それこそご令嬢といった雰囲気の女性が私の前に立っていたことに驚きました。


 しかもそれだけではありません。妙子は彼女を見て、腰を抜かしていました。


「メ、メ、メルフィナさまが……ふ、二人……わ、私は……夢を……見て……るんでしょうか……?」


 彼女の顔立ちは私とそっくりだったのだから……。


―――――――――あとがき――――――――――

申し訳ありません、ドラノベに応募したいので休載いたします。残念ながらフォロー、ご評価がつかなくなりモチベーション低下もあり、新作で気分転換させてください。飢えた作者にフォローとご評価を与えるとまた再開すると思いますのでよろしくお願いいたします。



★1000は作者には遠かった……。



チーンorz

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