第2話 計画の発端

 気が付くと、カルメールは溶けた死体の、残った骨を庭に埋めて殺人の隠ぺいをしていた。身体が思わず動いていた。あまりにも手馴れている。こいつ、何回か殺ってるだろ。

庭には歴代ペットの墓が並んでいる。愛を知りたくて飼ったペット達だ。もちろん最後まで世話をしたが、執着こそすれど愛というものはいまいちよく分からなかった、というのがカルメールの答えである。

 転生した少女は思う。もっと頑張ればよかったのにと。酷く無責任に。

 もっと時間をかけていれば何か変わったかもしれない。あるいは家族に相談してもよかったはずだ。なのに我慢ができず、とうとう人を殺してしまった。

 魔法というのは基本的に役場で管理されている公共のものなので、掘る作業は手でやる必要があった。土に汚れた両手を水で清める。冷たくて気持ちいい。

 カルメールはこのままだと死んでしまう。罪を暴かれ、聖女の手によってこの世から消されてしまう。……何を隠そうこの悪女、小説において最後の敵として立ちはだかるなんかすごい悪女なのである。

 聖女であるヒロインでさえ救えない哀れな女ポジだったのだろう、最後までカルメールは愛を知らないまま、聖女という存在を嫌悪し、その嫌悪のままに排除しようとして、返り討ちにあう。ヒロインのそばにはカルメールの友人だったはずのアイツまでいて……。

 いや、カルメール可哀想だな? なんで読者人気なかったんだろう、とまで考えるほどに、カルメールは哀れだった。今は自分のことなのだが。

「どうしようかなぁ」

 日差しは暖かく、夜はまだ遠いのだと語っていた。家族が帰ってくるまでの間に済ませることは済ませたし、適当に過ごそう……。カルメールは庭にある大木に吊り下げられたブランコを漕いだ。久しぶりのブランコ、楽しい。


「ただいま、カルメール」

 あれ、そういえば液体って証拠隠滅したっけ……。思い返せば、きちんと処理して下水に流していた。やっぱり何度か殺ってますよね?

「おかえり」

 商店で買い求めたお土産達を手に帰宅した家族を出迎える。よし、何も気づかれていないようだ。

 家族達はやれ「聖女様は美しかった」だの「今度の聖女様は珍しい黒髪の乙女だ」などと言い合っている。ちなみにカルメールは金髪に緑の瞳をしている。この国では一般的な容姿の特徴だ。

「それで、聖女様は見識のため学園に通うことになったそうですよ」

 母がそう言い、我が家のそこそこ広いキッチンで紅茶のための水を沸かす。我が家は貴族階級にあるが、歴史があるだけで何も手柄のない家なので、雇っている女中は二人しかいない。一人は今日は休みで、一人は家族達に付き添い聖女選抜を見に行っていた。年頃の貴族の娘を一人残すあたり相当頭がゆるいなぁと思わなくもないが、ラブコメの主人公の両親が長期的に海外に行くようなものだろう。きっと天はカルメールに殺れ!と言っていた。

 貧乏ながらもあたたかな家庭。その家庭で育ったにも関わらず、カルメールは愛を持たない。今や愛知らぬ、なんて称号は過去のものだが、実際にそれ由来でやらかしているので、なんかもう詰んでいる。

 それでも少女はカルメールが哀れだった。だからこそ、幸せにしてあげようなんて思って、思わずこんな言葉が口をついて出た。

「聖女様と友達になりたいです」

「まあ!」

 母が火にかけた鍋も忘れてカルメールに向き直る。今までカルメールが我儘を言ったことなどなかったからだ。

「そうね、聖女様はA組に分けられたそうですから、あなたもA組に行きましょう」

 にこりと笑って、母がようやく火を止めた。

 さっそく手続きをしましょうねぇ、とルンルン気分な母が父のいる執務室へティーセットと共に消えていく。一口貰いたかったが、今はそれどころではない。

 カルメールはこう思う。

 〝聖女さえいなければ、自分の罪は露呈しない〟と……。

 そして、カルメールの聖女抹殺計画が幕を開けたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヤベー悪女に転生したけど開幕詰んでる しらとり(くゆらせたまへ) @dousite

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る