第2話 女子化実験の翌日
女子化実験の翌日。
一条教授に実験の結果報告を済ませ、卒業論文と論文博士になるための博士論文を書き上げるよう言われる。色めき立つ安藤、今一ピンと来ていないオレ……。
その後、一番最初の試練があることを教授に指摘された――そう、母さんにオレが女の子の姿になったことを伝えなければいけないんだ。
安藤と一緒に大学の最寄駅に向かう道すがら――。
「な、安藤……」
「ラムよ。で、なに?」
「家でいきなり母さんに話す前に、メールしといた方がいいよな?」
「ん〜それもそうね。いくら私が一緒に行って『ご子息はご息女になりました』なんて言ってもねぇ……」
「あの〜ラムさん? 結果だけ先に言っても……」
「ごめん。私もなんて言ったらいいかわからなくて……さっきは論博のことで舞いあがっちゃって一気にまくし立てたけど、何て言ったか……」
「あ〜それは大丈夫だ。確か――」覚えていることを話す。
「記憶力良いわね。じゃ、その内容を箇条書きでお母さんにメール送ったら?」
「ああ、そうだな……歩きながらじゃちょっと打てないから……ドトルにでも寄るか」
「いいけど……女の子は『ああ』なんて言わないわよ? しのぶちゃん」
「あ〜、うん……わかった」
大学駅前店には加熱式タバコ専用の喫煙席があったなと思い出す。
店内に入り奥のガラス扉で仕切られた席へ向かおうとすると、安藤に止められる。
「ちょっと、しのぶ! なんで喫煙席に行くのよ?」
「え? 先に席を取っておかないと……」
「そうじゃなくって、なんで喫煙席なのよ?」
「オ……あ、あたし実験に備えて一週間くらい前からタバコ吸ってないから〜」オレと出かかったのを言い直し、外では自分を「あたし」と言うことにした。
「い〜い?しのぶ。女の子はニコチンに対する抵抗性が弱くて、依存した後に肺がん以外にもがん発生率が高くなるのよ? そして女性ホルモンの分泌も抑えられるから生理不順、生理痛、不妊、骨を弱くするなど女性特有の病気をもたらすってのを、まさか知らないの?」
「知ってるけど……だけど、あたしここしばらく吸ってないから一本だけ吸わせて。そうでないと頭がまわらないの!」
「……しょうがないわね。じゃ、私がこっちに席とっておく――コーヒー、ブラックでいいでしょ? 買っておくから一本だけ吸ったら来て」
まいったな〜これじゃおちおちタバコも吸えないな〜。ま、男とエッチするなんて考えられないから妊娠はゼロだけど、健康を考えて本数減らそうかな……と思いながらも加熱式タバコのスイッチを入れる――。
一週間ぶりのタバコ〜身体がニコチンを欲してる〜。
「席とっててくれてありがと〜」
約束通り、一本だけ吸い終わって安藤のところに。他人の目があるからできるだけ女の子っぽく。
「しのぶさ〜、タバコやめられない?」
安藤は紅茶を飲みながら少し怒ったような顔つきで聞いてくる。
「ん〜本数は減らそうとは思ってるけど?」
「じゃ、私と一緒の時は吸わないで」
「まぁそれならね」
「で、私は年がら年中しのぶと一緒にいる……と」
「え〜なんだよそれ〜」
「あはは。じゃ、早くお母さんへメール打たなきゃ――そういえば、しのぶってよくお母さんにメールしてるわね」
「う、うるさい」
ん〜どうまとめるかな。化学式を考える方がよっぽど楽だ。
やっぱり安藤が言っていたことを覚えている範囲で箇条書きにした方が良さそうだ。
『母さんへ。
これから帰宅するけどその前に、このメールを驚かないで最後まで読んで欲しい。
・ 今の社会は女の子が減少し、このままだと将来人間がいなくなってしまう。
・それを憂いて「化学を活用して環境と調和した科学技術の未来を拓く」の理念と信念から、女体化研究を三年生のころから始めていた。
・共同研究者を得て研究は成功したものの、実験台がいないため自分の身体で人体実験をし、女の子の身体になった。
・そしてこの研究で理学博士なれるかも……いや、必ずなってみせる。
詳しくは帰ってから話すけど、オレを産んでくれて、そして育ててくれてありがとう』
「こんな感じかな……どう?」メールの文面を安藤に見せる。
「いいんじゃない。やっぱりしのぶって結構なママっ子なのね〜」
「まぁ一人っ子だし、父さんは仕事人間だったからほぼ母子家庭状態。
高校二年の春事故で他界しちゃったしね。
それに母親が好きじゃない息子なんて、いないんじゃないかな?」
「あ、なんかごめん。お父様のこと、知らなくて……」
「べ、べつに、あん……ラムが謝ることじゃ、」
「そっか。私も父を幼いころ亡くしてるけど母と息子って、そんな感じなのね。
母と娘だと……なんていうか友達? みたいな関係かな」
「ラムもお父さんいなくて似たような境遇だね。そうか〜母と娘って友達みたいな感じなんだ……」
それからしばらくして、安藤。
「私も自分のこと話すね。
歳が四つ離れた姉がいるけど、母とはあまり仲が良くなかったんだ。私とはうまくやってたんだよ?
二年前のある日、母とケンカして家を出たっきりそれから帰ってこない。
電話もメールも通じないし、一体今は何やってんだか――」
眼鏡の奥の瞳は寂しげだった。
同じ研究室にいたのに、お互いのことを話すのなんて初めてだった。
ちょっと重い空気になりそうだったので、「そろそろ家に向かおうか」とオレはメールを送信し、返信を待たず安藤と帰路についた。
***
各駅停車で四駅。
駅を降り、だらだら坂を登って信号を渡った先を左折し、下り坂の途中にあるマンションに向かう。六階の一室が自宅だ。
「マンション住まいなんだ。なんかいいな」
そういえば安藤の家は戸建て――それもかなり築年数が経っている、まあ良く言えば趣きのある古民家だったな。
「ラムはずーっとあの家?」
「うん、そう。生まれてから引越ししたことないよ。学校も高校まで地元だった」
「……じゃあそのうち『安藤博士生家』って記念館になるな」
「はぁ? なにそれ……ま、そうなるよう頑張ろう!って、まだ卒論だって一文字も書いてないし!」
「そうだ、早く書き始めないとな……」
「それよりお母さんに説明するのが先でしょ?」
「あ〜せっかく忘れようとしてたのに」
「なに言ってるの!男でしょ? 男気で女の子になっちゃったくせに!」
「こんな時だけ男扱いかよ……。よし、行くぞ!」オレはエントランスの前で言った――。
今日は日曜。母さんは休みで家にいるはずだ。
「母さん、ただいま……」声が甲高く、しかもツンデレ声なので怪しまれないかと恐る恐る鍵でドアを開ける。
「おかえり、忍……じゃないわね。あなたどなた? 勝手に他人の家に入らないで! 警察呼ぶわよ」
「オレだよ。さっきメール送ったとおり、女体化研究を三年生のころから始めてたんだ。こちら、共同研究者の、」
説明の途中で遮られる。
「嘘おっしゃい。あなたね? 忍の携帯からいたずらメール送ってきたのは。忍はどこ? 共同研究者があなたなの? それとも二人?」
ん〜メールだけじゃやっぱり信用してもらえないな。
「じゃ、オレは20XX年3月12日生まれ。
母さんの名前は薫。
父さんはオレが高二の春に事故で亡くなって……」
「そんなことは、忍から聞いていれば知ってることでしょ!」
「なら家族しか知らないこと……父さんは仕事人間で、そのおかげで私立だって行かせてくれた。
ローンも返済し終りこのマンションに暮らし続けられたけど、いつもオレと母さん二人っきり。
一人っ子だから寂しかったけど、いつも母さんがいてくれたんだ。
父さんがいなくなっても……」
気丈な母は父が亡くなってからも、オレを大学まで行かせてくれたんだ。そんな一人息子が女の子の姿で帰ってくるなんて、普通耐えられないよな。
「……」
母さんの秘密だからと、ためらっていたことがあったけど……話してみよう。
「たぶん母さんも忘れていること……オレを身ごもった時に、父さんにも話さないで決めてたこと。
男だったら『総逸』か『忍』、女の子だったらひらがなで『あずさ』『しのぶ』って」
オレは母さんがつけていた日記をたまたま見たことがあったんだ。
何を言っているのというような顔をし、記憶を辿るように長いこと黙っていた母――やがて、「それ何であなたが……ほんとに忍、なの……?」
「ああ」
「じゃ、メールの内容も本当のことなの? 忍は変に男気があるから、他の人を実験台にするくらいだったら自分の身体で試すわね……」
「このビデオを見て欲しいんだ。
オレと安藤の研究と実験の成果……」
実験室から借りてきたビデオカメラで再生する。
母は小さい画面を食い入るように見る。やがて安藤の声とともに、映像が終了すると――。
「忍らしいわね……言い出したら聞かないし、どうしようもない研究バカだし。
安藤さんだったかしら、こんな忍ですけど一緒に研究を続けてやってね」
「はい」安藤は、はっきりと答えた。
母はオレの性格をわかっているので、安藤になぜ実験を止めてくれなかったのかなどとは言わなかった。
改めて安藤を紹介し、一緒に卒業論文と博士論文を完成させ、論文博士を目指していることを話した。
***
リビングで。
母さんが安藤にレモンかミルク、砂糖はいる?と聞きながら紅茶。オレにはコーヒーを出しながら言う。
「あ、大丈夫です。いただきます……」
「忍がまさか女の子になって帰ってくるとはねぇ……びっくりしたわよ」
「なんというか、その……ごめん」
「ま、なってしまったのは仕方ないでしょ。第一自分からいつもの男気出して実験したんだから。
これからは女の子として向かい合うから覚悟しなさいよ」
「は、はい」母さんには頭が上がらないので反論できない。
「それにしても……なんでまたそんなに小さくなっちゃって、赤目でしかも金髪なのよ」
「身体が縮んだのはおそらく女体化に必要なエネルギーの影響かな? 赤目金髪なのは……果たしてこれで実験成功と言えるのかどうかは……これから検証していかなければならない部分かな」
「そういったものなのね……ま、わたしにはわからないけれど。
でも目と髪の毛以外、わたしの若い頃に似てるわね……」
「そうですよね! 私、お母さんを一目見てしのぶさんにそっくりだと思いました!」
それまであまり口を開かなかった安藤が突然言い出す。
「どうした安藤!」
「安藤さん?」
「しのぶさん、研究室でキレイな顔とよく言われてました。実験後、自分では赤目金髪で面影なんて微塵もないって言ってましたけど。それに美少女がいる、可愛いいって鏡見て言ってました!」
「え、オレそんなこと言ってたっけか」
「はい」
「まぁ証拠なんてないしな!」
「あるわよ〜。わたし実験終了した時に一旦録画を止めたんだけど、その後しのぶがどんな反応するかもう一度録画始めたの」と言いながら、実験の後に録ったと思われる映像を再生する――。
あ〜オレ、確かに安藤の手鏡で自分の顔を見て『誰これ!オレなのか?美少女がいる!可愛い!』と言ってる……。
「実験結果はしっかり見なくちゃな……でしょ?」
「はーいわかりましたーあんどーせんぱ〜い」
「ラム、よ」
「はいはい」
「……それより忍、安藤さんにお借りしたのと今着てる服、ちゃんとクリーニングしてお返ししないと。それにサイズ合ってないから……」映像の続きと、オレの胸を見て母さん。
「安藤さん、ごめんなさいね〜女子化する実験なのに自分で服を用意していない愚息で……」
「いえいえ、わたしの中学のころの服ですので大丈夫です……ちょっと胸のサイズが合わないですけど」
ああ、チッパイのオレ……可哀想すぎる。
しばらく映像を見ていた母さんは疲れたから夕方まで横になると言う。そりゃそうだろうな……。
そしてその間二人で当座の服と下着を買ってきなさいとカードを渡してくれる。
「え、なにこれ」
「わたしのクレジットカードの『家族カード』。アルバイトもロクにできなくて、いつも金欠のあなた用に作っておいたの。安藤さんに選んでもらって、可愛いのを買ってきなさいな」
「ええぇ〜そんな可愛いのなんて、オレいらないよ。トレーナーとジーンズだけで」
「それも必要だけど、それだけじゃダメ。せっかくの美人さんとキレイな髪が台無しじゃない」
「そうですよね〜」と安藤まで言い出す。
ん? 母親似のオレが美人さん……つまり、と思ったけど口には出さなかった。
その代わり「じゃ、とびっきり可愛いのを選んでもらうけど、いくらまでならいいのさ」とやり返す。
「若い子の服はわからないから、それは安藤さんにおまかせするわ。あんまり高くても困るけど……」
「はい、わかりました。まかせてください」
「じゃ、わたしは部屋にいるから鍵かけて。あまり遅くならないようにね。
安藤さんも今日は家で夕飯食べてらっしゃいな、用意しておくから」と母さん。
「あ、おかまいなく……」
「若い子は遠慮しちゃだめ。忍だって昨夜お邪魔したんでしょ?」と言いながら自室に。
じゃ、出かけようかと玄関で靴を履こうとして思い出す――安藤の靴を借りて帰ってきたけど、ぶかぶかで歩きにくかったな。
「ラムさ、そういえばオレの身体数値データって計測してなかったよな?」
「ま〜たオレって言う……ま、お家だからいいかしらね。スリーサイズはお店で測ってもらえるから身長と体重だけお家で測っておく?」
「体重計はあるけど、身長計なんて家にはないぞ?」
「え? スマホで測れるわよ。『身長を測るアプリ』で検索すれば……ほらね。これはメジャーにもなるみたい」
「おお〜」
「じゃ、測るからそこに立って」と言いながらオレの写真を撮る。
「え〜っと、148cm……ちっさ。前は?」
「うっさい……確か165㎝。うわ17㎝も縮んだ……どおりで家が広く感じるんだな」
「ふふっ、なんか科学者っぽくない言い方」
***
自宅最寄駅から各駅停車で四駅、大学とは反対方向にこの地方都市最大の繁華街がある。
大学駅から急行で三駅だからよくそこで母と買い物するというので、その周辺で服を買うことに。
オレも子供の頃、たまに家族で買い物や食事に行ったな。ステーションビルと、大きいデパートが何軒もある。
しばらく足が遠のいていたけれど、久々に来るとステーションビルがファッションビルになっている。
「知らない間にファッションビルが……」
「え、これってもう十年くらい前からあるよ?」
「え〜そっか〜。オレがたまに家族で来ていたのが小学生の高学年くらいだから……十数年? じゃその後にできたのか」
「ふ〜ん、とんだ浦島太郎ね〜。ま、こういった機会でもなきゃ来ないからたまにはいいんじゃない? ここなら上から下まで一揃え、ぜ〜んぶ買えるわ」
「そっか〜、下着……パンツもブラも? あ、それにサイズ測り忘れたけど靴も買わななきゃな。あとは卒業式用のスーツか……男物はもう着れないし」
「う〜ん、今日は当座の服を買うようにってお母さんに言われてるからね。スーツはまた今度、それこそお母さんと買いに来れば?」
「そうだよな……」
「じゃ、まずは下着からね――」レディスフロアを探して安藤がチェックしていく。
ランジェリーショップで安藤がこの子はじめてなんで……と店員さんにサイズを測ってもらうのは女子化初行事の定番だな。
スリーサイズはアンダーバストが65cmでトップとの差が10cmなので、65のAカップ。ウェストは60cm、ヒップ75cm――ブラって今まではおっぱいの大きさ……つまりトップのサイズが基準だと思ってた。
「しのぶはイエベ春だから、ベースカラーはアイボリーやキャメル、黄色みのある色でブラとパンツ一式そろえるわよ。アクセントにスプラッシュブルーとかも入れて……」
イエベ春……知識としては知っているけど、今の自分が該当するとは思わなかったな。
女の子用の下着……今は安藤のお古でサイズが全く合ってないけど、測ったサイズのブラを試着すると小さいながらもピッタリと合うのが心地よい。
普通の男子なら興奮するところだろうが、探究心の方が上回っているようだ。
五着ほど母さんの家族カードで会計を済ませていると、安藤も何やら購入している。
次は「とびっきり可愛い服」を選んでもらうつもりだったけど、可愛らしいのより少しおとなしめの方が似合うと、安藤おすすめの服が揃っている店を探す。
くすみのない鮮やかなイエローのスカートにジャケットは明るいベージュを選んでくれる。スニーカーにも合いそうだ。
まだまだ冬真っ只中だから、キャメルのボアコートも一緒に購入。
この格好なら普通に研究室に行っても浮かないだろうけど、普段はトレーナーとジーンズだな……あ、そういえば明日から卒論を……と頭をよぎったけど無理矢理頭の端の方に追いやる。
あとは買った洋服に合わせ、黒に白いラインの入ったスニーカー。これはシューズ専門店で。
ちなみに足は25㎝から3cm縮んでいた。
そのあと総合スーパーでオフホワイトとコーラルピンクのスウェット――トレーナーってスウェットシャツの和製英語なの知ってた?と安藤が自慢げに言う――と濃いネイビーの細めのジーンズ。
それと紺色のハイソックス、部屋着兼パジャマ……これは無難なグレーを購入。
「あとは〜ブラウス二、三枚かな? まだ寒そうだからスウェットの下に着るの」
「確かに。下着の上にすぐトレーナーじゃなくて、スウェットじゃ寒いよな。でもそれってTシャツでいいんじゃ」
「いやいや、そこはブラウスでしょ〜?」
「そうなのか? ラム、なんか企んでないか?」
「べっつに〜」
店を何軒もまわって選んで買って……二、三時間はそうしていただろう。
昼も食べずに家を出たのが13時を過ぎていたからいくら少食になったとはいえ、いい加減腹も減っている。
「ラ、ラム〜そろそろなんか食べないか〜」
「そうね。私もお腹すいちゃった……もうランチタイムは終わっちゃったから、ワックにでも行く?」
「そうだね〜コーヒーも飲みたいし。そうしよう……って、場所全然わかんないや。連れてって〜」
「まかせなさ〜い」
安藤の後をついて、1ブロックほど離れたワックに。
あ〜ここも禁煙なんだよな〜、仕方ない。
大学構内のお店ではビッグワックセットをよく食べてたけど、たぶん……いや、絶対食べきれないから安藤と同じ普通のハンバーガーセットにした。
服と靴代、いったいいくら使ったかな〜とカードのレシートを合計すると……う〜ん、ちょっと怒られそうな金額だ。
「な、ラム。女の子はこんなにお金、かかるんだな……」
「そうね、今日は服も結構買ったし……。あとお金かかるとしたらヘアサロンにお化粧品かな? エステとかに行く子もいるかな」
「う〜ん、女子化したのはいいけどなんか理不尽だな〜」
「まぁ今の男社会じゃこうなのよね〜。しかも男ばっか増える傾向にあるから」
そうかもな……オレ、間違えた研究はしてなかったんだなとその時は思っていた。
ワックを出るともう日が暮れて、薄暗い。
「そろそろ帰らなきゃな。母さん夕飯用意しておくって言ってたし」
「ほんとに私、おじゃましていいのかな」
「いいっていいって。服も選んでくれたしそのお礼だよ」
「じゃ、ちょっと母に連絡しておく」とスマホを取る。
「――うん、そう。昨日うちに来た子のお家で……え? あ、うん。もしかしたらそうするかも。じゃ、また後で電話するね」
聞こえてくる安藤の声。オレも今度からメールじゃなく、電話にしてみようかな。
「お待たせ。しのぶの家で今日は夕飯食べてくって言っておいた」
「よかった。じゃ帰ろうか」
「うん」
「行きは座らなかったけど、この時間の各停って結構空いているのね」
安藤が空席を見つけて座る。
「そうだね。平日朝だって学校まで座って行ける。急行は一つ先で乗り換えなきゃいけないし、混んでて座れない。ちょっと早く家を出れば、たとえ十数分でも座って本が読めるしな」
「なるほどね〜そうやってしのぶは勉強してたんだ……でもいくら人が少ないからって、その話し方はダメねー!」とケラケラ笑う。
「それに、座る時足広げない。これ女の子の常識! それから今は履いてないけどジーンズの時、足組まないように気をつけて」
「はぃ……」やっぱり理不尽だ。
***
「だだいま」と鍵を開け帰宅。続いて「おじゃまします」と安藤。
「あら〜早かったわね〜、今夕飯作り始めたから……あと30分くらい待ってて」とリビングに安藤を招く。
「安藤さん、ありがとね」
「いえ〜どういたしまして」
「忍、買ってきたお洋服見せてよ。安藤さん、どんなの選んでくれたのかしらね〜」
「うん……」
袋から取り出し見せようとすると、「じゃなくて、着て見せてってこと」
「ええ〜?」
「『ええ〜』じゃないわよ。せっかく買ってきたんだから着て見せてくれなくっちゃ」
「そりゃそうだけど……今着るのなんか恥ずかしい」
「何言ってるのよ、これから毎日のことなのに。ブラとかちゃんと付けられた?
あ、そうだ。まだ女の子の新人なんだから、部屋で安藤さんに手伝ってもらいなさいよ」
「あ〜うん……じゃ、ラムお願い。片付けてくるからちょっと待ってて。
母さん、紅茶お願い」とラムを待たせて自室に――。
昨日は実験のことしか考えてなかったからコタツの上も散らかしっぱなしだし、変なものが出てないかチェックしておかなくては。
いきなり他人を部屋に入れられる安藤って、普段からきちんとしてるんだな〜と変に感心してしまう。
「うわ、くっさ〜」部屋に入るなり思わず声に出る。
自分のニオイなんだけど、男くさい。消臭剤なんてないから仕方がない、寒いけど窓を開けて換気。
見られちゃいけないものは片付けて……そのまま窓を開けてリビングに戻る。
「遅かったわね〜何かヘンなものでも片付けてたの?」と安藤がニヤニヤする。
「ちがう。部屋が男くさくて換気してたんだよ」
「あ〜なるほどね。私の家は女ばかりだから逆に女くさくなかった?」
「いや、全然」
「ふ〜ん。男のニオイに敏感になったとか……これも実験の結果なのかしらね?」
「わからん……じゃ、着替え手伝ってくれ」
「……もう、相変わらずの男言葉! 普段から意識してないと外で出ちゃうよ」
「自宅だからいいでしょ〜? ってこんな感じ?」
「まあまあね」
「なにそれ〜」
そんなオレたちのやりとりを、母さんは微笑ましいような顔で見ていた。
先に入り、全開になってる窓を閉めエアコンを付ける。
「どうぞ〜」
「おじゃましま〜す……全然男くさくなんてないじゃない。それに部屋も片付いてて……」と言いながら安藤は室内を見回す。
「あ、あたしはまだニオイする感じ……あと、見られたくないものは仕舞ってあるんだからね!」あ〜意識しないとまだうまく話せないな。
「ニオイについては要検証ね。あとは……ま、健全な元成人男子の部屋だから、ヘンなものがあっても別に驚かないけどね〜」
「それはあたしがイヤ! ラムは男の部屋に行ったことあるの? あたしは女の子の部屋に行くの、ラムの家がはじめてだったよ」
「私も初めてだよ……それに、しのぶは私の部屋に入ったのが初めての男……じゃないわね、初めての友だち」
「友だち?」
「だって、私高校まで……大学もそうだけど、勉強しか取り柄なくて女も男も友達なんて一人もいなかったんだ……だからしのぶが初めての友だち。中澤くんだっけ? 二人が仲良さそうなの見てて羨ましかった……」安藤の目は少し赤く見えた。
「うん、そうだね……ラムとあたしは友達! そして大切な仲間で共同研究者。二人で理学博士になろう!」
「うん! じゃ、その前に〜しのぶのお着替え〜!」
***
ブラは店員さんに付けてもらったから自分で脱ぎ着できるように練習。
「前後ろ逆に付けて、ホックを止めてからぐるっと……そうそう。それだと楽でしょ?」
「なーるほど。ラムみたいに胸大きくないから簡単に回る」
「大きいのは大きいで肩凝るから、しのぶよりちょっと大きいくらいのがちょうどいいのよね」
「じゃラムのサイズはいくつなのさ」ちょっとむくれて65Aのオレ。
「75のD……って普通女の子に聞かないでしょ?」
「あたし、今は女の子だし〜」
「もう! じゃ、上にブラウス羽織ってボタン止めてみて」
「うん……あ、合わせが逆……ボタン止めにくい」
「そうなのよね〜ま、慣れるしかないわね」
「う〜ん、これも理不尽だ」
選んでもらったイエローのスカートを履いて上にジャケットを着る。
「あ〜なかなかいいわね〜。やっぱりしのぶはちっちゃいから、可愛らしいのよりこういうおとなしめの方が似合うわね」
「なんでよ」
「ちっちゃくって可愛いの着たら、子供みたいでしょ?」
「それもそうか〜。明日はこれで学校行こうかな」
「そうね〜、でもスウェットにジーパンの方が気が楽じゃない?」
「そっか」
「忍〜、安藤さん。ご飯できたからいらっしゃい〜」母さんの声がする。
「は〜い、今行く。ちょっと恥ずかしいけど、この格好母さんに見てもらお」
「お母さん、驚くわよ〜」
リビングに行き「母さん、どうかな……?」オレは横を向いて感想を聞く。
「あら〜似合ってるわね〜。なに恥ずかしがってんだか。いい服選んでくれて安藤さんありがと」
あ、これ結構高かったんですけど……と出かかったのを飲み込む。
「どういたしまして。しのぶさんのパーソナルカラー、イエベ春で選んだだけですけど……」
「あ〜それ、わたしも知ってる! わたしもイエベだけど目がダークブラウンだからイエベ秋なのよね。忍は赤だからやっぱりイエベ春なのかしらね」
「そうなんですよね。イエベ春は明るい茶色の目ですけど、赤はどうかな〜と思ったんですが合ってました」
「忍、普段着用にトレーナーとジーパンも買ったんでしょ? ご飯の時に汚しちゃいけないから着替えてきなさい」
「子供か〜い」
脱ぐ時もブラウスの合わせに手間取り、着替えるのに時間がかかる。
ようやくリビングに戻ると、「そしたらしのぶさん、『家でいきなり母さんに話す前に、メールしといた方がいいよな?』ってビクビクしてるんですよ。それに外じゃ『オレ』って言うのやめて『あたし』って言う努力してますし」
「あははは、忍らしいわね〜」
やれやれ、女性二人でなんかオレをさかなに話し込んでる。
「あら忍、そのトレーナーもいい色ね。似合ってる」コーラルピンクのスウェットを見て母さん。
「そ、そっかな」
「うん。じゃ、ご飯いただいちゃいましょ」
「いただきます」
「お言葉に甘えてご馳走になります」
「あらあら、そんなにかしこまらなくても。はい召し上がれ〜」
今まで気づかなかったけど、安藤って躾が行き届いているというか、育ちが良いよな。あ、もしかしてそれで他の子は敬遠して……って考えすぎか。
「ほら、忍! もう女の子なんだから足広げない!」
「あっ、はい……でもうちの中だし」そういえば安藤にも言われたな。
「だ〜め。こういったことは普段の生活から気をつけてないと、ぽろっと出ちゃうでしょ? 『オレ』って言うのとおんなじで」
それに――と話を続ける安藤。
「足を閉じた状態をキープするには筋力が必要。
筋力がないと閉じ続けることができないから、閉じることを意識すると同時に鍛えられるわよ。
それにキレイに足を揃えて座っているとスタイルもよく見えるから、ちびっ子のしのぶは足を閉じる習慣をつけなくっちゃね」
「そうよ〜ラムさんの言う通りよ」
「そんなもんなのか〜」あれ? いつの間にか母さんの呼び方が変わってる。
ま、仲良くなってくれるのは嬉しいな。
食後のコーヒーをオレと母さんはマグカップをふーふーしながら。
安藤は紅茶をティーカップの取っ手をつまむように持って音も立てずに……なにこのお嬢様っぷり。
「足っていえばさ、法事……父さんの三回忌は大学一年のときだっけ? 正座して足しびれた〜それに腰も痛くなったよ」
「あ〜それって、座り方が悪いのよ」
「あら、そうなの?」と母さんも。
「ええ。足がしびれないようにするには、足首を圧迫しないことが大事なんですよ。
座る時はかかとを開いて、お尻を直接かかとに乗せないように……」
「軽いぺたんこ座りみたいな?」
「まぁそんな感じ」
母さんには「痛かったら『正座椅子』を使えばいいですし。背筋をのばして、身体の重心を前に置くようにするといいですよ」とアドバイス。
「なるほど、『正座椅子』ね」
「ラムはいろいろ詳しいね。正座……なんか習い事やってたの? 茶道とか習字とかさ」
「茶道もやってみたかったけど、なんか流派とかいろいろむつかしそうだったから小学校から高校まで書道を習ってたわよ?」
やっぱり安藤はお嬢様だ!
「正座で?」
「うん。何時間でも座ってられるって人も中にはいたけど、私は長くて二、三時間くらいかな?」
「それでもすごいや」
「椅子に座って書道をするところもあるみたいだけど、文字のきれいさに姿勢が深くかかわっているから、やっぱり正座ね」
「なるほどね〜! けど、やっぱりあたしはこっちのが楽だな〜」と床にぺたんこ座りをしてみせる。
「あら、忍。なにその可愛い座り方!」
「なんか、女の子の身体になったらこの座り方がしっくりくるんだよね。男の時はあぐらより横座りのが楽だったかも……やっぱり骨格の差なんだろうな」
「あ、昨日も言ったけどO脚になっちゃうからダメだってば。それ以外に関節や筋肉に負担がかかるから身体、歪んじゃうよ」
「あ〜うん。ぺたんこ座りはしないように気をつける……」
それからオレの子供のころの話や、安藤は友達が一人もいなかったことや姉のこと。研究室でのこととか……母さんとこんなに話をしたのはいつ以来だろう。ラムとも研究の内容以外、あまり話をしたことなかったな。
三人でおしゃべりしていると時間が経つのが早い早い。気がつけば22時半を回っている。
「あら、もうこんな時間。ラムさん、引き留めちゃったわね。忍、駅まで送ってあげなさい」
「あ、実験で遅く帰る時もありますから大丈夫ですよ」平気そうな安藤。
「それに駅まで送ってもらっても、逆にしのぶさんが一人で帰ることになりますし……」
「あ、あたしなら大丈夫だし……それよりラムの方こそ駅から十数分でしょ? ってことは帰るのは23時をだいぶ過ぎちゃうじゃん」
オレの家から安藤の家までは四十分近くかかる。
「深夜に女の子を一人で帰すわけにはいかないから、あたしがラムの家まで送るよ」
「バカねぇ、ま〜た変に男気出しちゃって。それって、中身が男でも女の子を一人で歩かせることと変わらないじゃない」
「それもそうね……じゃ、今日はラムさん家に泊まっていけば? 今晩はまた一段と冷え込んでるみたいだし」と母さん。
「え、それは悪いです」
「だめだめ。母親として女の子を危険にさらしたくないの。それに忍も昨夜お世話になったんだし」
「はい。では、母に連絡します……」とすんなりスマホを取る安藤。
「――うん、そう。やっぱり泊まることにした。あ、まって……」
隣で電話をかわるようにジェスチャーしているのに気がついた安藤が、母さんにスマホを渡す。
「昨夜は忍がお世話になりまして。はい、上品なお嬢様で……うちのはガサツで――え、後輩……あ、そうですね。いえいえ〜ではごめんください」
「あっ……」安藤が慌てる。
「お母様、私まだしのぶさんが元男だっていうのを隠してたと言うか、この研究をしていたのを話してなくて……後輩って母に紹介してまして……ごめんなさい」
「大丈夫よ、なんとか誤魔化せたと思うから……わたしだって今日初めて聞いたんだから」
「ラムのお母さん、あたしは後輩の子って信じてるよね……明日にでも一緒に行って説明しよう?」
「そうね……私、母にウソついちゃってるね……なんかごめん、しのぶ」
「いいっていいって、友達だし第一共同研究者でしょ?」
「う、うん」
「はい、じゃラムさん先にお風呂入っちゃって。あ、パジャマはわたしのでよかったらあるけど、下着がないわね……」
「大丈夫です。昼間しのぶさんのを買うときに、私も欲しくなっちゃって買ったのがありますんで――」
あ〜あの時買ってたのはパンツか〜。
「『もしかしたらそうするかも』ってのは、そーゆーことだったのね〜」とニヤニヤすると、「ち、ちがうってば!」とはぐらかす安藤。
「も〜先に入るわね! ではお母様、お先にお風呂いただきます」
「はい、ごゆっくり〜」
母さんは安藤用にバスタオルとパジャマを用意する。
「忍、なんでまた女の子に……ってあなたガンコだから仕方ないけど。自分の理念と信念を貫いたんでしょ? だったら立派な理学博士になりなさいよ。ま、娘も欲しかったからいいか〜」と安藤がいないので、母さんチラッと本音を出す。
「うん。ありがと」
「それにしても安藤さん、いい娘さんね。上品だしお嫁さんに欲しいくらいだわ」
「あ〜まだ戸籍上は男だから可能性はあるよ?」
「二人とも花嫁姿で? しかも一人はちびっ子だし」ケタケタ笑う母さん。でもなんか少しだけ罪悪感。
「なんかごめん」
「な〜に謝ってるのよ、男でしょ?」
「あーもう、二人して男扱いだったり女扱いだったり〜なんか理不尽!」
「あははは」
ほどなく「お風呂ご馳走さまでした」と、安藤が母さんのパジャマ姿で風呂から上がってくる。
「いいお湯でした」
「ゆっくりできた? 実験疲れは取れたかしら」
「はい。では次は……」
「忍、入っちゃいなさい。あ、女の子の身体だからって、変なことしないのよ」
「わ、わかってるって!」
「そうだしのぶ。あなたの髪、私と同じに長いから先にブラッシングしておかないと――今日は私、洗わなかったけど」向こう向いて、と後ろからブラッシングしてくれる。
「こうやって毛先からブラシを入れて、絡まりを取ってから流れに沿ってブラッシングね――」
「ほ〜」
「後は一緒に入るわけにいかないから、洗い方のコツ教えておくね。
男じゃないんだから、掛け湯してすぐに湯船に入らないで。先に髪と身体を洗うの。
シャワーで予洗3分、水切りしてからシャンプー5分くらい。
3分すすいで、トリートメントつけて5分くらいしてからすすぎ3分ね。
髪を洗ったら身体ね。ボディソープをスポンジでしっかりと泡立ててから、泡でなでるようにして洗うこと。
洗い終わってから湯船に浸かるのよ。
髪はある程度タオルで乾かしてからお湯につけないように巻いて。
お風呂から出たらタオルでごしごしして、ドライヤーで長くても10分以内に乾かす……これはしてあげられるわね」
「髪、長いと苦労するのよね。若い頃は長くしてたけど年取ると面倒で」と母さん。確かに説明を聞くかぎり面倒そうだ……。
そういえば若かったころの母さんの写真、ロングヘアだった。
「じゃ、入ってきま〜す」
裸になって興奮するかと思ったけど、つるぺた寸胴幼児体型……エロさなんて微塵もないからかえって気が楽かも。
体重を計ると元の59.9kgから11.9kgも減っていた。
説明通りになんとか髪と身体を洗い、やっと湯船に浸かる。コタツで寝てこわばってた身体がほぐれる。
教授に実験結果の報告をして、母さんに経緯を説明して、初めて女性用の服を買って着替えて……忙しい一日だったな。
今日は安藤もいるから変なことする気にもならないや。
新しいパンツ履いて、小さいけど苦しそうだからブラは付けずに。
部屋着兼パジャマを着てリビングに戻ると、オレが風呂に入っている間に安藤はオレの部屋で寝ることになったみたい。
まぁオレも昨夜は安藤と同じ部屋で寝たし……もっとも実験の疲れとワインの酔いですぐにコタツで寝てしまったけど。
安藤にドライヤーで髪を乾かしてもらう。
「ほらー、つやつやになった。それにしてもキレイな色!」
「ほんとね〜」
「そ、そう?」
そろそろ布団敷くからコタツをなんとかしなさいと母さんに言われ、上に乗っている諸々を片付けコタツを移動させて布団が敷ける空間を作る。
「え、安藤と一緒に寝るの?」
「バカ言いなさい。あなたはベッド、ラムさんは布団」そりゃそうだ。
母さんが物置部屋からオレの部屋にお客用の布団を運び込んでくれる。
ちびっ子になって布団も運べないオレを許して母さん……。
じゃ、そろそろ部屋に行こっか〜と母さんにおやすみを言う。
「お先に休ませて頂きます」と安藤はまたお行儀良く。
「はい、お休みなさい」
実験終了からもう25時間を過ぎ、女体化は継続している。実験は一部を除いて成功と言えるだろう。
疲れているけど、眠気はない。
安藤も同じらしく、布団に入っても上半身を起こして何か考えている。
「どしたの? 実験のこと?」
「う〜ん、それもそうだけど……さっきも言ったけど母にウソついちゃってるんだよね……それがさ」
「あ〜それか〜。あたしも一緒に行ってビデオ見て貰えば……」
「じゃなくって、今は女の子でも男の子と一晩、あ今日も入れれば二日も一緒にいるんだよ? 母が知ったら……」
あ〜そっちね〜。安藤はお嬢様だからな〜。それにオレのこと後輩って紹介しちゃったしな。
さすがに隠キャとは言わないけど、友達いない子だしな〜。
「大丈夫大丈夫。コタツ入れるからなんか飲む?」
「じゃホットワインが飲みたいな……」
「オッケ〜。美少女のあたしがとっくべつに作ってあげる」
「何よそれ」
確かペットボトルの赤ワインが残ってたはず――あ、あった。
耐熱ガラスのマグカップに注いでレンジで1分。取り出して……はちみつは固まっちゃってるから砂糖をちょっと入れて、さらに30秒加熱。
あ、オレの分も作ろっと。
「おまたせ〜」
「ありがと〜。なんかしのぶってこんなことできるんだな〜って意外!」
「え? レンジでチンしただけだよ? 料理はできないけど……勉強の合間、冬はこれが一番だよね」
「そうよね……いただきま〜す。あ〜温ったまる〜。なんか悩んでたのが吹っ飛んじゃった」
「それは良かった」
「明日、母にちゃんと話すよ」
「うん、あたしからも嘘つきました〜って謝るしさ」
「え、なんでよ。謝るのは私の方だよ」
「いやいや、後輩にたぶらかされたのはウソでしたって……」
「バーカ……ふふっ、でもありがと」
***
それから二人で、あ〜卒論書かなきゃね〜、テーマは決まってるから研究始める経緯とかから書き始めるんだっけか? とか、構成は〜?とか話し合った。
「タイトルはどうしよっか?」と安藤。
「それは初めから決めてある。『女子出生率低下の傾向に対する理学的生物化学手法による対応方法の研究と実験結果』だ」
『女子出生率低下の傾向に対する理学的生物化学手法による対応方法の研究と実験結果』 中島しのぶ @Shinobu_Nakajima
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