私の彼は白馬の王子様

田山 凪

第1話

 最近は忙しくてあまり彼と会う時間が取れなかった。

 メッセージの返信も疲れてて次の日にしてしまうことも多々あったし、休みの日は疲れすぎて会う気力もなかった。

 決して嫌いになった訳じゃないしいまだって好きだけど、疲労が心に黒い靄を発生させて何もかもを面倒に感じさせた。


 仕事を終えて外に出ると雪が降っていた。

 九州育ちの私は雪をあまり見たことないから、たくさん降る雪に一瞬だけテンションが上がっていたけど、歩いて帰るにはあまりにも雪は激しい。


 すぐ近くにあるコンビニで傘を買おうと思って入ってみたが、考えることはみんな一緒で、すでに傘は一本残らずラックから姿を消していた。

 忙しそうな店員に在庫があるかなんて声をかけるのも申し訳ないから、結局何も買わずにコンビニを出た。


 コンビニの屋根の下で雪が弱まるまで少し待つことにした。

 風に吹かれ横に流れる雪は、子どもの時なら走って喜んだと思うけど、早く帰って疲れを癒したい今の私には鬱陶しいだけだった。


 ふと、私は彼にメッセージを送った。

 足止めを食らっているこの鬱憤を少しでも晴らしたいという気持ちで。

 だけど、メッセージを送ったあとにきづいた。最近ちゃんと返事も返せてなかったのに、都合のいい時だけメッセージを送るなんておかしいかもしれないと。

 送ったあとに不安になって、メッセージを取り消そうとしたら既読がつき返信が来た。


「近くにいるから迎えに行くよ!」


 とても嬉しい返事だったけど、だからこそ余計に申し訳なく感じてしまう。

 大変だねとか、早く雪が止むといいねとか、そんなシンプルな返信だったら気が楽だったのに。


 ほどなくして彼がやってきた。

 右手には傘をもってるけど差してなくて、黒い髪とダウンジャケットが真っ白になるくらい雪を乗せていた。

 

「おまたせ!」

「どうして傘を差さなかったの?」

「だって、傘を差してたら遅くなっちゃうと思って」

「風邪引いちゃうよ」

「早く家に帰りたいだろうなって思ってさ」


 気を遣ってくれている。だけど我慢している訳じゃない。それが当然でそうしたいからやったと思わせてくれるような、純粋な表情がとても温かい。


「帰りはどうするの? 電車動いてる?」

「たぶん動いてるんじゃないかな。まぁ、ダメならその時はネカフェにでも泊まるよ」


 後先をしっかり考えずに行動するのは彼の悪いところで、同時に良いところだ。


「うちに泊まっていく?」

「いいの? 疲れてるでしょ」

「一緒の方がいい」


 彼は屈託のない笑顔を見せうなずいた。


 一本の傘で肩を寄せあい住宅街を歩く。

 真っ白に染まった道には、私と彼の足跡だけが続いている。

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