26 ここは『モナコ・モンテカルロ』 

 ここは、仏像の父が日吉ひよし大学一年次に創立した『ピーマン研究会』メンバーが所有する葉山はやまのペンション。その名も『モナコ・モンテカルロ』。

 『かしわ台コケッコー』との合同練習会場になった当地にて、新生『落研ファイブっ』は記念撮影中である。

〔仏父〕「五郎君、笑って!」

〔仏〕「笑えねえ」

〔うい〕「大和やまと、ゴー君をちみくって(くすぐる)やれ」

〔仏〕「大和やまとさん、それ反則!」

〔仏父〕「大和君ナイス!」

 『かしわ台コケッコー』の大和やまとに脇腹を軽くつねられた仏像が思わず笑うと、仏像の父がすかさずシャッターを切った。


※※※


〔大〕「今日も松田君は来ないね。プロピアニストってやっぱり忙しいのかな」

〔仏〕「モナコに出張中です」

〔服〕「『モナコに出張中』。一生に一度は言ってみたい」

 仏像と『落研ファイブっ』キャプテンの服部は、大和の問いにキャンプテーブルを組み立てながら答える。

〔大〕「それにしたって石崎おせえ。ちゃんと下野しもつけ君と合流出来たのか」

〔うい〕「確かにのそい(遅い)のら。素直にバスに乗れば良かったに」

〔服〕「免許があれば、お迎えに上がりたい所ではありますが」

〔大〕「みんな見た目にだまされるんだよな……。悪い事は言わない。止めとけ」

 服部に石崎の写真を見せた大和は、モアイのような目を輝かせる服部に釘を刺した。


〔下〕「おはようございまっす。石崎さんをお連れしたっす!」

 大和たちにからかわれた服部がモアイのような目を凝らすと、ペンションの駐車場から一対の男女が近づいて来た。

〔石〕「ちーっす。不肖ふしょう石崎志保理いしざきしほり、シンガポールより泳いで参った! ひーくん道案内乙!」

〔服〕「コレジャナイ……」

 楚々そそとした外見に似合わぬ第一声に、服部が残念そうにかぶりを振る。『可愛ちーず@レーズン級』に引き続いて男心を裏切る大ダメージである。


〔下〕「それではお先に失礼しまっす!」

 逗子海岸ずしかいがん近辺で迷子になった石崎志保理を『モナコ・モンテカルロ』に届ける重大ミッション。

 その大任をまっとうした下野しもつけは、自転車に乗って逗子海岸ずしかいがん近くの自宅に戻ろうとした。


〔多〕「下野しもつけ君。せっかくここまで来たからには合同練習に参加しようよ。新人戦は来週からでしょ」

〔下〕「いくら多良橋たらはし先生の頼みと言えどダメっす。休養日に自主練すると、レギュラーから外されるっす」

〔多〕「ちょっとだったら良いんじゃないかな」

〔下〕「荒屋敷あらやしき監督を通してください」

 松尾に似て、ぴしゃりと断る下野しもつけ

〔多〕「ねえねえ、だったら昼ご飯だけでも食べていこうよ。ブイヤベースにパエリアがあるからさ」

〔下〕「ブイヤベースって何スカ」

 多良橋はブイヤベースの一言で、下野の一本釣りに成功した。


〔今〕「おっ、下野君が来てる。シモツーお久しぶりんごパイーン!」

〔長〕「下野君、新人戦は?」

 ビーチサッカーピッチの整備から戻ってきた長門と今井が、下野に片手を上げた。

〔長〕「そう言う事ね。練習試合には出られないとしても下野しもつけ君まで顔を出したんだから、天河てんがも来れば良かったのにな」

〔服〕「今日は加奈さんの吹奏楽部の定演だろ。あの彦龍ひこりゅうが加奈さんを優先しない訳が無いって」

〔仏〕「あのバカップルはなあ。プロレス同好会の引退セレモニーは黒歴史待ったなしだろ」

 学校中の語り草となったプロレス同好会の引退セレモニーを思い出しながら、仏像が苦笑する。


〔長〕「【可愛かわいちーず@レーズン級】(※)とどっちがより黒歴史だろうな」

〔仏〕「『レーズン級の五文字に打ちぬかれました』(※)だっけか」

〔服〕「止めてもう無理。ああもう絶対出るんじゃなかった」

 『みのちゃんねる』のプロレス同好会登場回をスマホで見せながら畳みかける長門と仏像に、その場にくず折れる服部。

〔志〕「やばい。くそワロス」

 長門のスマホをのぞいた石崎志保理いしさきしほりは、大爆笑しながら『みのちゃんねる』にチャンネル登録をした。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。


※服部に春が来るかと思いきや→https://kakuyomu.jp/works/16817330659394138107/episodes/16817330668374464173

現実なんてこんなもの→https://kakuyomu.jp/works/16817330659394138107/episodes/16817330660047890218

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