第27話 終結

 突然、話が急展開した。


 F社の関連会社に、会社丸ごと、つまりこの四人がそのまま吸収されることになったのだ。

 これで誰よりも安心したのはM社長であろう。責任感の強い人なのだ。

「いや、この話決まって良かったよ」二人きりのときにニコニコ顔で言う。「もう一千二百万円ほど僕の持ち出しになっていてね。女房の顔もきつくなるし」

 そのお金の一部は、一日一本電話の営業とマウスカチカチの一年分の給料になったわけだ。

 何という無駄のオンパレード。


 人を使うのは怖いものである。

 自分の身を削ってまで人を雇ったことの責任を取るこの人のように責任感が強い人は滅多にいない。

 世の中の男どもは逃げ足が速いだけのクズが多いが、この人だけは尊敬を受けるに値する人であると私は思っている。

 願わくばもう少し部下運に恵まれていればよかったのに。



 会社の資産を計算する。例のチップのマスクの権利に、モータ制御チップの設計資料。それらは買い上げとして、多少はM社長の出したお金に還元される。

 だが、そこまでだ。それ以上の資産があるわけもない。

 せめてT氏とTちゃんが頑張ってくれていれば、私がもう少し売れそうなものを作ることができていたかも知れないのに。彼らがひたすら遊び続けた時間なんて一円のお金になりもしない。

 この会社の一番の資産は人材だ。その中でも目玉商品は私と社長だ。その商品の一つが出て行きかけたのだ。さぞや慌てたことだろう。



 新しい会社の人との顔合わせが行われた。

「僕はやりますよ! 全力で働きます」

 Tちゃんが叫びはじめ、我々は顔を見合わせた。

 彼にしては大きな会社に移れて嬉しいのだろう。だが、できないことは言うものではない。

 次の会社で彼は早々に化けの皮が剥がれ、退社の道を歩むことになる。





 ・・そして新しい会社での狂気の日々が始まる。

 そこは会社ではなく、会社ゴッコの舞台であった。

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技術屋残酷物語3(バブル崩壊編) のいげる @noigel

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