第5話 太陽の願い

 一時、消えかけた太陽熱温水器は、1973年10月の第四次中東戦争のオイルショック、つまり第一次石油危機に始まり、1978年12月のイラン政変の第二次石油危機を経験して、再び注目され、太陽熱温水器は高性能化して400万台以上も一般家庭で利用されていた。しかし、1980年をピークに減少を続けている。

 近年は、これまでと少し様相を変えているかもしれない。石油だけに依存することは、排ガスによる酸性雨や温室効果など地球規模の環境汚染の拡大につながると認識され始めているからだ。石油の代替エネルギーとして最有力視されてきた原子力発電も事故続きで危険信号が点燈しているわけで、本腰を入れた代替クリーンエネルギー開発が望まれている。


 一体全体、この地球上に住む人間は、何時になったら、あの天空に輝く太陽から直接にエネルギーを取り出す事が出来るのだろう。化石燃料を燃やし続ける間に地球の環境を損なうのが早いか、あるいは化石燃料の争奪戦による戦争で地球が滅びるのが早いのか、いずれにせよ破滅の道を直走りに走り続けている。


 そして、最悪の戦争が起きてしまった。1990年8月2日未明、イラクはクウェートに侵攻した。国連の安全保障理事会は同日、侵攻非難決議を採択した。アメリカは8月7日、サウジアラビアに米軍派遣を決定した。中東で、多国籍軍が石油のための戦争を強いられた。イラクとクウェート二国で、主要産油国の埋蔵量の20パーセントを占め、サウジアラビアまで入れると45パーセントにまで達する。このサウジアラビアへの侵攻を危ぶむアメリカの素早い対応と強硬な姿勢が多国籍軍を団結させた。

 そして、日本政府は、イラクの取った人質作戦や環境破壊に驚かされたというより、アメリカの軍事力だけが突出している事に脅威を感じ、言われるままに協力した。


 この湾岸戦争で改めて、私達夫婦は石油の代替エネルギーの必要性を感じていた。

「私達人間は原始時代から考えると、確かに高度な技術を持ったわ。でも、地球外知的生命体の住む星には、今の我々では到達出来ないと思うわ。到達できない距離まで、神あるいは宇宙の摂理が間隔を置いているのよ。その距離を縮めるものは、平和よ。我々の歴史は、逆行しているわ。戦いの中で生まれた高度な技術からは、我々を救うどころか地球を滅ぼすわ。人間を救うのは倫理観よ。その先に戦う事を放棄した平和な世界で生まれた高度技術が、宇宙全体を結び付けるのよ」


「この太陽系には地球外知的生命体の住む星はないようだ。太陽系から一番近い恒星でも4.3光年離れているわけだから、今日のハイテクを駆使しても辿り着くには、何万年も掛かってしまうね」


「日本は、化石燃料ばかりか、危険な原子力発電も捨てて、太陽エネルギー開発に全力を注ぐべきなよ」

と、私は祈りにも似た気持ちで、この日本に早くエネルギー革命が来ることを願った。 


 ソ連の友人宇宙船成功以来、私は科学に興味を持ち期待もしてきた。あれから60年、科学技術は目覚しい進歩を遂げた。しかし、一番期待した太陽エネルギーの実用化はあまり進んでいない。これは、実用化できるほど科学技術が進歩していないからではない。これを、援護する政策が取られていないからにほかならない。


 通産産業省(現経済産業省)が『サンシャイン計画』というものを、1974年から2000年まで続け、2005年までは太陽電池生産シェア48.2%で世界首位を維持してきた。その後、中国の台頭で太陽光パネル産業は凋落の一途だ。「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構」は、『サンシャイン計画』発足50年の今、地球環境を守るクリーンエネルギーを代替エネルギーとして普及できるのか。


 私は、太陽エネルギーの研究の傍ら、太陽の叫びを聞いている。

「私の惑星に住む知的生命体よ。あなた達の科学が進歩するまでと思い、化石燃料を蓄積した。間違えてはいけない。科学が進歩したから化石燃料が使えるようになったのではない。母の乳房のごとく、乳児に私が与えたのだ。早く吸うのを止めないと、乳離れが出来なくなる。


 私のエネルギー密度は、1平方メートル当たり1キロワット、石油換算なら年間10リットルと非常に低いものだ。しかし、地球全体の年間需要が石油換算で140億キロリットルとしても、私のエネルギーを変換効率10パーセントの太陽電池で賄うとしたら、全砂漠の4パーセントぐらいの広さで十分なはず。


 私のエネルギーは、無限で無公害だ。化石燃料の争奪戦や環境破壊などを早くやめ、美しい地球の中で平和を築きなさい。今からでも遅くはない、知的生命体たる倫理観を全面に押し出した行動を望む」

と、太陽が叫び続けている。


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太陽の叫び 本条想子 @s3u8k

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