第4話 二人の願い
私が故郷を後にしたのは、大学へ進学した時からであった。私を大学進学へ駆り立てたのは、高校一年の時の出来事だった。アメリカは1969年7月20日、「アポロ11号」の月面着陸に成功した。月面着陸船「イーグル」から月面に一歩を標した。その時、アームストロング船長は『ひとりの人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である』と発した。私は、あの1950年後半に太陽熱温水器が200万台以上も利用されていながら消えて行ったことが信じられなかった。あれらの科学力を持ってしても、未来エネルギーを普及できなかったことに、私は失望していた。
今、私は筑波研究学園都市に住み、大学で太陽光エネルギーの研究をしている。私、国光輝子は、十年前に同じ大学のサークルで知り合った、水島正樹と結婚した。私の住んでいる家は、ソーラーハウスであった。屋根には太陽電池や太陽熱集熱器が載せられている。太陽電池は、太陽光を直接電気に変換できる。太陽電池の変換効率は最も高いもので20数パーセントであり、低コストの通常のもので十パーセントだ。太陽熱集熱器は、太陽光の入射面に選択膜を張った硝子板を置き、入射光が逃げない工夫がしてあり、温水タンクや床下に砕石蓄熱層を設けて熱を貯蔵し、温水供給と暖房を行う。また、太陽熱集熱器と吸収式冷凍機を組み合わせることにより、太陽熱で吸収剤を加熱させて冷房を行うことが出来た。
他にも、断熱材や蓄熱材を用いて太陽熱をよく吸収させ、室内の空気の対流や熱伝導や輻射を考えてその熱が循環するように設計されていた。ソーラーハウスは二人の夢だった。
大学時代に経験した第一次石油危機、つまりオイルショックからの二人の目標でもあった。あの時、目にしたトイレットペーパーの買い付け騒ぎが実感としてある。あらゆる物の便乗値上げで、私と正樹は意見が一致して意気投合した。
私と正樹は、よくエネルギーについて話した。
「第二次世界大戦を石油がらみで始めた我国だけど、枯渇燃料を懲りずに依存しているわね」
「ただ、枯渇を受け入れない無機説もあるからね」
「無機説というのは、地球生成時の大気であったメタンガスが地球深層部のマントルに取り入れられ変化したものという考えね。でも、私は数百万年前とも一億年前ともいわれる地球上の動植物が地中に無酸素状態で埋没し、熱と圧力で成分が変化したという有機説を取るわ。枯渇を信じる信じないというのでなく、有機説の方がクリーンな太陽エネルギーにより近付ける考えでしょ」
「石油に替わるエネルギーとしては、太陽エネルギーが最高だよ。他にも代替エネルギーはあるだろうが、安易な原子力発電だけはやめてもらいたいな」
「事故による放射能汚染が怖いわ。1950年代の石炭時代が終わり、石油時代に入って来たわけだけど、この次に太陽エネルギー時代が来るかしら」
「このオイルショックも、第四次中東戦争からだけど、これが治まると石油価格が下落して、また石油にのめり込んで行くのかな。経済性で石油に勝たなければ、事は始まらない」
「そうなのよね。現実問題としては、経済性を技術向上と法的補助によって確立しなければ夢物語で終わってしまうわ」
と、いうような話で二人は盛り上がり、いつも太陽のように、熱々の二人だった。
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