スプライトと缶ビール

未来屋 環

もう二度と逢えなかったとしても。

 この想いの100分の1でも、あなたに届けばいい。



 ***



「ほれ」

「うわっ!?」


 頬に走る冷感に、僕は思わず悲鳴を上げた。

 そんな僕をしり目に、あなたはけたけたと笑う。


「なにするんですか」

「ぼーっとしてる方が悪い」


 僕はあなたの手からスプライトを受け取った。

 美味しそうに缶ビールをあおるあなたが、僕の目に眩しく映る。

 ちらりと横目でこちらをうかがい、あなたは悪戯いたずらっぽく目を細めた。


「うまそうでしょ、飲む?」

「飲めないの知ってる癖に」


 そうだっけ? と首をかしげて、あなたは僕の隣に座った。

 ふわりとお香の匂いがする。

 いつか僕があなたにプレゼントした香りだ。律儀に毎回つけて、あなたは僕に逢いに来る。



 ――こうやって、何度あなたと夏を過ごしただろう。

 変わらない仕種しぐさ、変わらない声。

 それでも僕は飽きることなどない。



「――どした、こっちばっか見て」


 気付くとあなたがいぶかしそうにこちらを見ている。

 胸の中を見透かされたようで、思わず僕は咳払いした。


「いや、なんか、変わり映えしないなと思って」

「なに、つまんないって? 失礼な奴だな」

「誰もそんなこと言ってないでしょう」

「ま、でも――たまには、場所を変えてもいいか」


 あなたは空っぽの缶を置いて立ち上がった。


「まだ連れて行ったことないっけ。いつも話してる――」

「――あなたの故郷ふるさと?」

「そ、落ち着いたら行こうよ。すっごく空が広くてさ――夜には星が降るんだ」


 実は、行ったことがある。

 あなたは知らないけれど、僕ひとりで。


「そう――きっと、綺麗だろうね」

「そりゃあもう。多分、腰抜かすと思うよ。綺麗すぎて。まるで――」


 うつむき加減に微笑む。その横顔を


「この世のものとは思えないくらい」


 ――僕はとても綺麗だと思った。



 ***



 この想いの100分の1でも、あなたに届けばいい。


 そう願いながら、僕は夜空を見上げる。

 頭上には、あなたが話していた満天の星。

 両手には、今年もスプライトと缶ビール。



(了)

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スプライトと缶ビール 未来屋 環 @tmk-mikuriya

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