転生した一般令嬢は、ハズレスキル【ペット飼育可】でどんな魔物も家で飼います。無双します。

ひたかのみつ

第1話 スキル【ペット飼育可】

「それではこれより、ヒリナの持っているスキルを判定する」


私はこの異世界の、一般令嬢に転生した。

というか、ついさっき私に前世があったことを思い出した。

そして偶然にも、この体はちょうど今日で10歳になり、神からスキルが1つ、ランダムで与えられるところだ。


「ヒリナに与えられたスキルは…… 」

神官は驚きの表情を浮かべた。

そんなに凄いスキルなのかな? 火・剣技…… 

【炎】のヒリナ なんて呼ばれちゃったりして?!

これは、私の華々しい異世界無双ライフが始まる予感!


「スキルは…… 」

神官が言い淀む。

まさか伝説の勇者スキルとか? いや、令嬢に転生したんだし、聖女様とか?!


周りに居る大人たちも、見慣れない神官の態度に興味深々な様子だ。

これは、盛り上がってきた!


神官は大きく息を吸い、ようやく一言

「スキル【ペット飼育可】」


「ほえ??? 」

思わず変な声がでた。


今日から私は【ペット飼育可】のヒリナだ。



「ほへ……」

屋敷に帰って数日過ぎたが、虚無感が凄い。

まさに、とるもの手につかず。


私は長い髪を束ねる飾りを外し、ベッドにうつ伏した。


【ペット飼育可】ってなに?!

私、賃貸物件じゃないんですけど!!

この世界の本にも、前世のゲームにも、そんなスキルは無かったんですけど!

あれからスキルについて、調べまくったが、一向にヒントは見つからなかった。


「神様は私に、家でペット飼っていいよ~ とでも言いたいのか? 」


私の家は爵位こそ低いが貴族。 許可なんかされなくても、好きにペットは飼えるんだけど……。


両親は私を慰めてくれたが、悲しみ溢れた表情をしていたし。

「なんか、ハズレスキル貰っちゃったなぁ」


そうして、脱力していたのだが……

「まぁ、せっかくだし、試しにそろそろペットを飼ってみるか」

情報が無い以上、ここからは実践あるのみだ。


私は街に出た。 ペットを探す為にである。

ここ、すなわち王都には、様々な品を扱う商人が押し寄せる。


「うわぁ…… この通りには初めて来たけれど、怪しいお店も多いのね」

王都とはいえ、ペットを扱う商人の中には、非合法に近い者もいる。

できるだけ、変な場所には近づかないように。 

今回は貴族向けの、綺麗な装飾がある店にした。



「あら、大きな卵ね」

「お嬢さん一人かい? しかしお目が高いね、こいつは南の火山で取れた、ワイバーンの卵さ」

「ワイバーン?! 嘘よ、そんな貴重な物、本当ならどうしてこんな市中で売っているの? 」

「特徴はワイバーンのものなんだが、小さいし、ちょっと訳ありでね…… 」

男は背を曲げて、小声で話す。


「訳あり? ヒビでも入っているの? 」

「どうにも、育っている様子が無い。 いつ捕獲されたのかも分からないし、きっと、温度も足りないんだろうな」

「そんな、じゃあこの卵ってもう」

「駄目かもな。 しかも! 親ワイバーンってのは執念が凄いからな、いつ卵を取り返しに来るか分からないリスク付きだ! 」

「それ、売り物として駄目じゃないの? 」

「まぁ、そんなこと、そうそう起こることじゃ―― 」


その瞬間、上空を何かが横切り、陽の光が遮られた。


大きな翼と長い尻尾、低く響くうなり声、体中から溢れる魔力。

「ワイバーンだ!! みんな逃げろ!! 」


誰かがそう叫ぶのが先か、群衆が走り出すのが先か、街はパニックになった。


「噓でしょ! もう! 言わんこっちゃない! 」

私は商人に声を掛けたが、既にもう居ない! 

「逃げやがりましたね…… 」

ご丁寧にも、金貨の入った袋や貴重なペットも持って逃げたようだ。



しかし、こうなったからには、卵を返すしかない。

〈怒ったワイバーンを倒せるのは、ワイバーンだけ〉

そんなことわざがあるくらい、奴らは強い。


とりあえず、卵の場所だけ教えて逃げる!

私は卵を抱え、他の人間や動物の少なそうな、通り沿いに出た。


「卵はここよ! ワイバーン!! 」

言葉は通じないはずだ。

でも、効果はあった。


ギロリ、と大きな瞳が私をとらえる。

「ひぃっ! 」


そしてその大きな前足が、私の方へ――

「ちょっちょっやめて!! 」

ズドン! 間一髪避けられた。


「違うのよ、私が捕まえたんじゃなくて、商人が売ってたっていうか、ペット! そう、私はペットを探しに来ただけで! この卵だって、正しい環境で育ててあげないと、駄目じゃない?! ね! 私神様からも許可されたのよ?! ここは冷静に話し合いを‼ 」

私は必至で、注意を引こうと、震えながら口を動かした。


しかし、ワイバーンはその巨大な口を私の方へ近付けて……

「た、食べられちゃう……! 」

もう逃げられない。 私は目を閉じた。


あれ、いつまで待っても、痛みが来ない。

もしかして、気付かないほど一瞬で食べられた? ここはあの世?


私はゆっくりまぶたを開ける

そこには卵を抱え、座ったままこちらを見ているワイバーンの姿が。


「ふわ? 」

変な声が出た。

そして私は地面にへたり込む。


『お前、珍しいスキルを持っているな』

「ほへ? 」


『どんな生命にも、適切な環境を与えうる能力か。 成長に応じて従魔契約の制限無し・敵対する存在へのカウンター・広範囲に及ぶ魔力操作…… なるほど。 我が子を助けられるとしたら、お前だけのようだ』

「ふへ? 」


『ここから我が住み家までは、時間がかかりすぎる。 良かろう、ペットという呼び方は好まぬが、我が子の家族となることを許可してやろう』

「ひへ? 」


『そのスキルで、3日、卵と暮らせ。 そうすればすぐに孵る。 そして、必ず我が子を立派なワイバーンに育て上げるのだ』

「はへ?! 」


ワイバーンは去って行った。

残されたのは、ハズレスキル持ちの一般令嬢に転生した私。

ワイバーンの卵と、瓦礫の山。


「見たか? あの子、ワイバーンと会話して、追い払ったぞ! 」

私を英雄のようにもてはやす歓声。



【ペット飼育可】のヒリナ。 その名前が、歴史に刻まれた日だった。





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あとがき

また新しく書いてしまいました。

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転生した一般令嬢は、ハズレスキル【ペット飼育可】でどんな魔物も家で飼います。無双します。 ひたかのみつ @hitakanomitsu

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