転生した一般令嬢は、ハズレスキル【ペット飼育可】でどんな魔物も家で飼います。無双します。
ひたかのみつ
第1話 スキル【ペット飼育可】
「それではこれより、ヒリナの持っているスキルを判定する」
私はこの異世界の、一般令嬢に転生した。
というか、ついさっき私に前世があったことを思い出した。
そして偶然にも、この体はちょうど今日で10歳になり、神からスキルが1つ、ランダムで与えられるところだ。
「ヒリナに与えられたスキルは…… 」
神官は驚きの表情を浮かべた。
そんなに凄いスキルなのかな? 火・剣技……
【炎】のヒリナ なんて呼ばれちゃったりして?!
これは、私の華々しい異世界無双ライフが始まる予感!
「スキルは…… 」
神官が言い淀む。
まさか伝説の勇者スキルとか? いや、令嬢に転生したんだし、聖女様とか?!
周りに居る大人たちも、見慣れない神官の態度に興味深々な様子だ。
これは、盛り上がってきた!
神官は大きく息を吸い、ようやく一言
「スキル【ペット飼育可】」
「ほえ??? 」
思わず変な声がでた。
今日から私は【ペット飼育可】のヒリナだ。
◆
「ほへ……」
屋敷に帰って数日過ぎたが、虚無感が凄い。
まさに、とるもの手につかず。
私は長い髪を束ねる飾りを外し、ベッドにうつ伏した。
【ペット飼育可】ってなに?!
私、賃貸物件じゃないんですけど!!
この世界の本にも、前世のゲームにも、そんなスキルは無かったんですけど!
あれからスキルについて、調べまくったが、一向にヒントは見つからなかった。
「神様は私に、家でペット飼っていいよ~ とでも言いたいのか? 」
私の家は爵位こそ低いが貴族。 許可なんかされなくても、好きにペットは飼えるんだけど……。
両親は私を慰めてくれたが、悲しみ溢れた表情をしていたし。
「なんか、ハズレスキル貰っちゃったなぁ」
そうして、脱力していたのだが……
「まぁ、せっかくだし、試しにそろそろペットを飼ってみるか」
情報が無い以上、ここからは実践あるのみだ。
◆
私は街に出た。 ペットを探す為にである。
ここ、すなわち王都には、様々な品を扱う商人が押し寄せる。
「うわぁ…… この通りには初めて来たけれど、怪しいお店も多いのね」
王都とはいえ、ペットを扱う商人の中には、非合法に近い者もいる。
できるだけ、変な場所には近づかないように。
今回は貴族向けの、綺麗な装飾がある店にした。
「あら、大きな卵ね」
「お嬢さん一人かい? しかしお目が高いね、こいつは南の火山で取れた、たぶんワイバーンの卵さ」
「ワイバーン?! 嘘よ、そんな貴重な物、本当ならどうしてこんな市中で売っているの? 」
「特徴はワイバーンのものなんだが、小さいし、ちょっと訳ありでね…… 」
男は背を曲げて、小声で話す。
「訳あり? ヒビでも入っているの? 」
「どうにも、育っている様子が無い。 いつ捕獲されたのかも分からないし、きっと、温度も足りないんだろうな」
「そんな、じゃあこの卵ってもう」
「駄目かもな。 しかも! 親ワイバーンってのは執念が凄いからな、いつ卵を取り返しに来るか分からないリスク付きだ! 」
「それ、売り物として駄目じゃないの? 」
「まぁ、そんなこと、そうそう起こることじゃ―― 」
その瞬間、上空を何かが横切り、陽の光が遮られた。
大きな翼と長い尻尾、低く響くうなり声、体中から溢れる魔力。
「ワイバーンだ!! みんな逃げろ!! 」
誰かがそう叫ぶのが先か、群衆が走り出すのが先か、街はパニックになった。
「噓でしょ! もう! 言わんこっちゃない! 」
私は商人に声を掛けたが、既にもう居ない!
「逃げやがりましたね…… 」
ご丁寧にも、金貨の入った袋や貴重なペットも持って逃げたようだ。
しかし、こうなったからには、卵を返すしかない。
〈怒ったワイバーンを倒せるのは、ワイバーンだけ〉
そんなことわざがあるくらい、奴らは強い。
とりあえず、卵の場所だけ教えて逃げる!
私は卵を抱え、他の人間や動物の少なそうな、通り沿いに出た。
「卵はここよ! ワイバーン!! 」
言葉は通じないはずだ。
でも、効果はあった。
ギロリ、と大きな瞳が私をとらえる。
「ひぃっ! 」
そしてその大きな前足が、私の方へ――
「ちょっちょっやめて!! 」
ズドン! 間一髪避けられた。
「違うのよ、私が捕まえたんじゃなくて、商人が売ってたっていうか、ペット! そう、私はペットを探しに来ただけで! この卵だって、正しい環境で育ててあげないと、駄目じゃない?! ね! 私神様からも許可されたのよ?! ここは冷静に話し合いを‼ 」
私は必至で、注意を引こうと、震えながら口を動かした。
しかし、ワイバーンはその巨大な口を私の方へ近付けて……
「た、食べられちゃう……! 」
もう逃げられない。 私は目を閉じた。
あれ、いつまで待っても、痛みが来ない。
もしかして、気付かないほど一瞬で食べられた? ここはあの世?
私はゆっくり
そこには卵を抱え、座ったままこちらを見ているワイバーンの姿が。
「ふわ? 」
変な声が出た。
そして私は地面にへたり込む。
『お前、珍しいスキルを持っているな』
「ほへ? 」
『どんな生命にも、適切な環境を与えうる能力か。 成長に応じて従魔契約の制限無し・敵対する存在へのカウンター・広範囲に及ぶ魔力操作…… なるほど。 我が子を助けられるとしたら、お前だけのようだ』
「ふへ? 」
『ここから我が住み家までは、時間がかかりすぎる。 良かろう、ペットという呼び方は好まぬが、我が子の家族となることを許可してやろう』
「ひへ? 」
『そのスキルで、3日、卵と暮らせ。 そうすればすぐに孵る。 そして、必ず我が子を立派なワイバーンに育て上げるのだ』
「はへ?! 」
ワイバーンは去って行った。
残されたのは、ハズレスキル持ちの一般令嬢に転生した私。
ワイバーンの卵と、瓦礫の山。
「見たか? あの子、ワイバーンと会話して、追い払ったぞ! 」
私を英雄のようにもてはやす歓声。
【ペット飼育可】のヒリナ。 その名前が、歴史に刻まれた日だった。
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あとがき
また新しく書いてしまいました。
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転生した一般令嬢は、ハズレスキル【ペット飼育可】でどんな魔物も家で飼います。無双します。 ひたかのみつ @hitakanomitsu
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